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第1部 (1)(2)
(1)
人間のとる二通りの態度に応じて、世界は人間にとって二通りある。
人間の態度は、人間が語り得る根源語の二様性に応じて二通りある。
根源語は、単独語ではなく一対語である。
根源語の一つは、〈我‐汝〉の一対語である。
もう一つの根源語は、〈我‐其〉の一対語である。この場合、〈其〉の代わりに〈彼〉や〈彼女〉という語のどちらかが入ることになっても、根源語に変化はない。
それゆえ、人間の〈我〉も二通りある。
何故ならば、根源語〈我‐汝〉の〈我〉は、根源語〈我‐其〉の〈我〉とは異なったものだからである。
(2)
根源語は、それの外に存する何かを言い表わすのではなく、語られることで存立の一方を引き起こす。
根源語は、存在者とともに語られる。
〈汝〉が語られるとき、一対語〈我‐汝〉の〈我〉がともに語られている。
〈其〉が語られるとき、一対語〈我‐其〉の〈我〉がともに語られている。
根源語〈我‐汝〉は、存在者の全てをもってのみ語られ得る。
根源語〈我‐其〉は、決して存在者の全てをもって語られ得ない。