EXP.120 乱戦の幕開け
【滋賀 視点】ポイントF
最後の悪足掻きに力を使い尽くした大海老は今度こそ身動き一つしない。
「滋賀さん、大丈夫ですか!?」
地に俯せ腹に手を当ててみると、へそより少し上に空洞が出来ている。
「ん……腹をやられた。長くは保たないだろうな」
「応急処置をします。滋賀先輩、仰向けになってください」
駆け寄ってきたチクワに指示され日猿の腕を借りていると前方から靴音が響き、自然と意識がそちらに向く。
「おや、気付かれてしまいましたかな?」
場違いなほど落ち着いた声の主人は黒装束を身に纏った白髪の老紳士。その手には丁寧に黒塗りされ装飾が一切施されていない立派な杖が握られており、漂う雰囲気から強者であると直感スキルが訴えている。
「それにしても……先程の戦術は見事でしたな。しかし、男が二人もいながら女性に傷を負わせるのは頂けませんな」
「心配してくれんのは嬉しいけどよ……あんま舐めんな、オッサン。ウチはコイツらのボスなんだから守んのは当然だろ!」
「これは失礼を……男勝りなお方だ。さぞ後ろのお二人が苦労されていることでしょうな」
滋賀の啖呵に一度は感動した二人だったが、老人の言葉に現実を見せられ肯定せざるを得ない。
「かかって来いよ、オッサン。ウチらのチームワーク、見せてやんよ!」
「女性を切るのは忍びないのですが……。私も久しく実戦が出来ると聞き、心躍らせていたところでして」
互いに得物を構え、踏み出す。ポイントFでの長時間戦闘の幕が開く。
…
【栗キン視点】ポイントC
「蒼、紅、何か見つかったか?」
「敵影はありませんでした」
「こちらも同様です」
散策していた双子を呼び戻し報告を聞き、結論を対策本部に通信する。
「こちら『Lucky』ポイントCに到着。ロブラスタは確認できない、既に散開したと思われる」
「了解しました。引き続き捜索をお願いします」
ログインしているオペレーターは全員が対策本部ーーギルドに招集されており、避難指示などで人手が足りておらず数名で全チームの情報を管理している程だ。
「二人とも、次に……」
「まあ、待たれよっ。オレと一勝負しようではないかっ!」
指示を出そうとして、馬鹿でかい声に邪魔される。前方の瓦礫の上に門が開き人影が現れ、栗キンは此処を選んでしまったことを後悔し始めていた。
「変なのに捕まったな……」
服の上からでも認識できる引き締まった肉体の大柄な青年。黒に染まった身なりと対照的に炎を連想させる赤髪、その全てが「邪魔だった」と言わんばかりに雑になっている。全体的に伸び放題になっているのに前髪のみがしっかりと短く切られており、極限まで着崩された服は身体の可動域を阻害しない為だろう。
「オレはレイド! 今回が初陣故に礼儀を知らん。暴れさせてもらうぞっ!」
「行くぞ!」
「「はいっ」」
二人が左右に分かれて走り、男の前方に立つ俺が突撃銃を構えて牽制する。
「全身武装衣、起動っ」
その一言でレイドの身体に光が集う。明かりが弱まるにつれ徐々に姿が見え始め、黒い鱗が全身を包み大柄だった肉体が一回り巨大になっている。手の甲には左右色違いの宝石が嵌め込まれており右手にはルビーの様な赤い宝石、左手にはサファイアの様な青い宝石が輝き自身の存在を象徴していた。
「まったく……」
先程まで豪快の二文字を体現していた男と同一人物の声とは思えないほどに低い。
「コレさえなければ、好きになれるのだが……」
その言葉が示す『コレ』とは、耳の少し上から後頭部に向かって生えている魚のヒレを連想させる角。それこそが魚人という種族の力と象徴であり、アイデンティティなのだろう。
「準備は整った。ーーいざっ尋常に勝負っ!!」
先程までとは打って変わる声が、闘いの火蓋を切って落とした。
今月も大分ギリギリだったので……。
来月は少し更新が難しいです。
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