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目をつぶれば知らない世界  作者: まる○◎
3/4

桜間

木が見える






大きな桜の木







その下には小さなバス停







朝6時半






まだ肌寒い空気の中







桜の花と、花びらが舞うこの小さなバス停に






いつも君は居る







バス停の名前はよく知らない





たぶん




桜の木バス停だ





長い髪が微かに揺れ




君はじっと手に持っている本を読んでいる




どんな本なのだろう





きっと漫画ではないことは確かだ





恐竜や、魚の図鑑では無いことも確かだ





僕とは違うのだから







君を初めて見たのは





まだその木が




桜の木とは知らなかったころ





いつものように





ベッドの上で寝ていたとき





その日はやけに外が賑やかだったのを覚えている








僕には関係ない人たちが行き交う外の世界






けどその日は






僕と同じような年の子達が沢山いた







皆楽しそうな顔をしていた







お父さんやお母さんに手をひかれながら






少しだけ角度のある坂道を登ってきていた






ああ、入学式というものだろうか







僕の居る病院から、少しだけ坂を登った所に





確か小学校があった








僕も行けたかもしれない学校








本当に小さい時に







まだ僕の記憶もままならないときに







よくわからない病気にかかって





それを治すために、この病院に来たらしい






気づいたときから病院にいた僕からしたら





その辺はあまり気にしていない







なんの病気なのか、治るのか治らないのか





聞いたこともあるけれど






小難しい話で




全くわからなかった





ただ





ちゃんと説明しようとしてくれたことは





嬉しかった






僕は基本的に病院から出ることはなく






図書室という部屋にある絵本や図鑑を眺めては





外を想像して過ごしてきた





海は見えるけれども行ったことはない






山も見えるけれども行ったことはない





坂も登ったこともないし





友達とかけっこをしたこともない





したことないだらけだ






そんなことを思いながら





外の楽しそうな家族をみる





キラキラと輝いて見えるその景色を





僕は羨ましい







と思えなかった






悔しいとも





そこに自分も加わりたいとも






もう思わなかった





ただただ




図鑑で見てきたような絵や写真の様に見えて仕方なかった




いつも来てくれる看護師さんがやってきた





いつものように体温をはかり



いつものようにご飯を用意してくれた




外の景色を見ながら





もう入学式の時期なのね




と呟いた





入学式はなにするの?




と僕が聞くと





よく覚えてないわ






気まずそうに笑った




自分の入学式ははるか昔のことで



皆マスクをつけていた時代だったから



素っ気なかったのよ








そっか




とだけ僕は言った





今年は桜が遅いのよね、毎年ピッタリだったのに





桜?ピンク色のキレイな花の?





あら、よく知ってるのね!そうよ。毎年この坂は、桜が舞う坂で有名なのよ。




へえー。




楽しそうに教えてくれるけど




いまいちわからない





ご飯を食べながら登っていく人たちを見ていた





はしゃぐ子もいれば





動きがぎこちない子もいる




緊張?しているのかな




すでに泣いている子もいる




ご飯も食べ終わりかけたころ





賑やかな坂を




きらめく人たちのなかを






1人じっと立っている子をみつける





他の子と同じ入学式にいく子だろうか





でも1人だ






そして






かがやいていない




いや、僕と同じように眺めている




そんな気がした




決してこの景色を嫌っているわけではなく




そして喜んでいるわけでもなく





ただ




気にしていない





そんな感じで彼女は立っていた




お父さんやお母さんも側に居ない彼女は





外にいながら





僕と同じだと




そう直感した







あの日から僕は





この窓から見える景色のなかで




桜を知り



そして彼女を知った





毎朝彼女は同じような時間に坂を登り





小学校に通っていた






誰かと一緒に登ることはなく















何度目のことだろうか




また桜の季節がやってきたころ





僕の体は少しだけ





軽くなった






うん、これが成長なのだろうか




病院から出れないけれども看護師さんや先生が遊びに付き合ってくれたり




体操を教えてくれたおかげで





体を動かすのが疲れにくくなった






いつものように看護師さんがご飯を用意してくれた





食べれる量も増え




なんだか最近自分の体じゃないみたいだ



と思っていた





けど、彼女はいつもどおりだった





この坂を





桜が舞う、人が通り、風が吹く




彼女だけは、何も





気に留めないかのように登っていた






ねえ




食器の片付けをしてくれている看護師さんに言う





少しだけ、庭にでてもいい?




だめよ




と云われると思ったけど




いいわよ。先生に許可をもらってくるわね





となんだか嬉しそうに出ていった






程なく看護師さんが戻ってきて





お庭に出ても良いって!今日はお日様も気持ち良いし、のんびりするなら大丈夫だよ!





てさ






別に走り回ったりするつもりはないんだけどね







僕がこんなお願いをしたのは





実は初めてなんだ







なんでだろう






絵本や図鑑



あとはテレビといつもの窓の景色で良かったのに






なぜだが今日は出たかった







桜の坂を見下ろせる庭に出て





柵の手前に置いてあるベンチに座った





病院自慢のベンチだそうだ





すぐ下には桜の坂、そこから視線を上げていくと沢山の住宅があり





その先にはどこまでも続く海が見えた





なるほど





これは絵本や図鑑ではわからないや






海から来る風が



少しだけ塩っぽいような気もしながら




僕は初めての外の世界に心が弾んだ





色々な音が聞こえた




風の音




揺れる葉の音



車の音



人や動物の音






なんなら



ドキドキしている自分の心臓の音が




1番良く聞こえていると思った






後ろの方から鐘の音が聞こえてくる





同時に看護師さんが病院から出てきた





お昼ご飯の時間になりましたけど、どうする?まだお庭に居る?




それよりもこの音は何?初めて聞くよ?




え!ウソ!?いつもこの時間に鳴っているのよ?!




すみませんわかりません




小学校のチャイムね。今日は卒業式だから、皆帰る頃かも




卒業式…





僕は入学をしていないから



当然卒業することもなくて





ずっと前に看護師さんに聞いたことを




また聞こうとして止めた





皆を見てみたいから、もう少しだけ居ていい?




そう言うと



看護師さんが隣に座った





何も言わず、ただ僕と一緒に





帰っていく皆を眺めてくれた






皆服の胸の所にキレイな花を付けている





作り物だと見てわかるけど





今の僕にはとてもキレイに見えた




みんないろんな学校に行くのかなー。




そんなに学校は沢山あるの?




あるよー??遠くから来るお友達もいるんだよ?




へえ。




ずっと一緒に通っていく、というわけでもないのか





それなら安心だな





安心って??



不意に言葉にしていたらしく、看護師さんが反応した




え?いや、なんだろう……わかんない




笑って誤魔化した





ほんと、なんだろう





帰っていく人がまばらになり、そろそろ病院に戻ろうか



と話していたところ




彼女が見えた




目線に気づいた看護師さんが



同じように。彼女を見る




なあに?気になる子ちゃん???




うっとおしいな




あの子は、





いつも一人なんだよ




そう言うと






茶化すのを止めて




僕と一緒に






彼女を再び見つめていた




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