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秘密の花園  作者: フローラ
1/7

非日常が始まる 1



「みっちゃーん、朝よー!起きなさーい!」



1階から聞こえてくる母の声に、慌てて時計を確認する。


嘘だと言ってほしい。

時計の針は午前6時30分を指していた。





「…もう6時30分かあ。」



そろそろ起きないと、入学早々遅刻する人間のレッテルが付きまとってしまう。

それだけは何としても免れなくちゃ。



小学3年生の時、始業式を寝過ごして

大掃除からの参加になった前川君は、

卒業までずっとねぼすけと呼ばれていた。

彼の二の舞はどうしても避けたい。




とはいってもまだ眠いから、気が付いたら瞼が落ちてくる。


塾の春休み課題を序盤に済ませて余裕ぶっこいてたら、最終日の夜になって数学ワークが丸々1冊残っていたことに気づくなんて。


目の前が真っ白になるのを身をもって感じてしまった。

それから今まで必死で解きまくって、多分1時間も寝ていない。



本当は2度寝したいところだけど眠い目をこすって階段を降りる。


「おはよ…あ、この匂いは!!」



今日の朝ごはんは、私の好物ベーコンエッグ。


カリカリのベーコンと、とろっとした黄身のコラボレーションはいつ食べても飽きなくて、卵フェチの私にはたまらない一品なのだ!


ベーコンエッグのおかげで、なんだか目が覚めてきたかも。




「みっちゃん、今日からとうとう高校生ね。道はちゃんと覚えたかしら?昨日あんなに説明したから大丈夫よね?

やっぱり1回一緒に学校見に行った方がよかったかしら…」



と心配が尽きない様子の我が母、葉山律子(はやまりつこ)


そんなに心配されなくても、徒歩5分の近場の高校への行き方を間違えたりなんかしないよ…。


母の中で私は、万年小学生らしい。




「美味しかった、ごちそうさま。

絶対大丈夫だよ、写真も確認したんだし。目印になるスーパーやコンビニもあるしね。」




私立花園学園。


私がこれから入学する学園の名前だ。すごく名前がかわいいけど、決して名前で選んだわけではない。


関係ないけど、私はCDのジャケ買いなど決してしない。聴いた後で趣味に合わなかったら困るもの。




この学校を選んだのは、ただただ、

家が近かったからだ。

睡眠大好き共和国国民の私にとっては、家と近い、つまり長く寝ていられることが第一条件。


そのためだけに、身を肉を削る思いで必死になってやった受験勉強が晴れて報われ、私を待っているのは楽しい高校ライフ。

そうに違いない。青春を謳歌してやるのだ。




初等部、中等部、高等部から成るこの高校は、総勢6000人以上からなるかなりのマンモス学園。


高等部だけで2000人以上もいるなんて、全員の顔が覚えられないかもしれない。



3月末にこの土地に引っ越してきた私だけど、そんなにたくさん人がいるなら、きっと気の置けない友達の2人や3人くらいできるはず。


あわよくば彼氏だって…!!!



小学校中学校と女子校で友情の春を楽しんできた私に、とうとう恋愛の春が来るかもしれない。




「じゃあ、いってきまーす!」


「気をつけてね。入学式に出られなくて本当に申し訳ないわ。急な出張が入ってしまって…。」



大丈夫だって。

母一人子一人で、仕事を頑張りつつ私を大切に育ててくれたお母さん。

そんなことでわがままは言えない。


恥ずかしいから言葉にできないけど、

優しくて頑張り屋さんのお母さんには感謝してる。

恥ずかしいから言わないけど。




「ふんふんふ~~ん♪」


ウキウキ気分でスキップをしつつ通学路を歩いていると、小学生に指をさされてニヤニヤされた。


くそ、何だよ、言ってみなさい。


まだ高校生なのだから許されると信じたいんだけど。



そのまま歩いていくと、すぐに学園が見えてきた。


さすがは徒歩5分。

…これで遅刻したら私終わりだな。


写真で見た通り、よくある少し古びた感じの校舎。

花園だなんて名前負けもいいところ。




だんだん全貌が見えてくる校舎にむかって小走りで駆け出そうとした時、身体がふいにふわっとした。


ジェットコースターとかでよくある、

あのフリーホール感だ。


次の瞬間、私の足元に真っ暗な穴があいていた。





…穴?



「?!」


ええええ!!?



当然のように私は穴に落ちて、暗闇に真っ逆さま。



下から凄いスピードで吹き抜ける風に髪の毛やスカートが舞い上がり、バシバシと顔に当たってとてつもなく痛い。


お母さん、信じられないけれど、私は今暗闇に落ちています。


思わず目を瞑った。




「私はただ学校に行こうとしただけなのにーー!!」


私が慌てている間にも、どんどん浮遊感は増していく。

本当に落ちてるんだ…。



私、ここで死ぬの?

まだ15歳なのに。

恋愛だってしてないのに。

こんなところで?





「いやだ!!!!」



…今更だけど、こんなことになるなら

始業式なんて気にせずにあのまま2度寝するべきだった。


そうだ、2度寝の神様が私を呼んでいたのだ。



でも、最後にカリカリベーコンエッグが食べれたのはよかったかな。




お母さんや遠く離れた中学校の友達が

走馬灯のように流れていく。


…私やけに冷静だな。




さようなら今までの私。

天国で第2の人生を幸せに歩んでやる。



このまま落ち続けていつか地に着いたとしても、こんなに高さがある穴から落ちて無事でいられるはずがないんだから。


すぐに地下まで誰かが探しに

来てくれる保証もないし。




…もう諦めよう。せめてもう一度

目を開けて笑顔を作ってやるー…って、




ん?



「あれ?」



…。



目を開けたら、私は落ちてなんかいない。


それどころか、私はしっかりと地面を踏みつけていた。



…。



穴なんて無く、試しに地団駄してみるけど硬い土はビクともしない。


恐る恐るあたりを見渡そうとしたらとんでもないものが目に入って、心臓が止まりそうになった。





「?!」



私の眼の前ー…つまりさっき花園学園があった位置には、ありえないものが建っていた。




それはあのボロい校舎とは似ても似つかない、宮殿のような建物。


しかも、その表札は。




「…私立、花園、学園??」


……はぁ?




嘘でしょ。

思わず目をこするけど、目の前にある建物は変化なし。


一体今の短時間で何があったの?




嫌な浮遊感がしていた間は私には長く感じたけれど、実際はたいしたことないはず。

多分長くて30秒くらいだと思う。


その間に、一体何が。

大工さんも驚きの速さだ。




…一回冷静になろう。


心をしずめるために、コホンとせきばらいをする。

落ち着け、私のペースメーカー!!




私が知ってる花園学園は、こんな立派な宮殿なんかじゃない。言っちゃ悪いが、どこにでもありそうな古ぼけた高校だ。


生徒の汗と涙が染み込んだ、年季のある高校だ。

すごいんだぞ。



それなのに、目の前にある『私立花園学園』と書かれた建物は、名前相応のオシャレな外見。

学校だとはとても思えないんだけど。







一体これはどういうことなの? ?





…ピーン。

そうか、分かった!


私はきっと、始業式早々2度寝をしてしまったんだ。


そして今は、その2度寝の最中なんだ。よしつまりこれは夢。


頬をつねっても痛くないはず…





「痛い!」



残念、夢じゃなかった。

これはいよいよ大変なことになってきたぞ。



そもそもここが現代なのかもあやふや。


タイムスリップしちゃいましたとかだったらシャレにならない。




私のハッピー睡眠学校ライフはどうなるんだ!!!!


何か手がかりになるものは…そうだ。

こういう時は携帯携帯。持つべきものは信頼できる電子機器!



圏外になってたら色々諦めよう。


頼む、電波3本、電波3本!





「電波3本。バッチリ繋がってるね。」


「うわっ」




びっくりした…。


何よ、誰かいるの?




さっきから、落とし穴にしろいきなりの声にしろ、心臓に悪いできごとばかりだ。


聞こえてきた声の主を探すため、辺りを見回すけれど。




「…どこにいるの?」



いくら見回してもいない。怪奇現象だ。


するともう一度、下の方から同じ声が聞こえてくる。




「おーい、ここだよ!君の足元!」



ああなるほど、自分の目線の高さばかりで足元は確認してなかった!

小さな子供かな?



…あれ、いない。


あるのはたんぽぽの綿毛のようなもふもふした白い物体だけ。


ああなんだ、これが喋ったのか…

っていやいや、これが喋るはずがないじゃない、私ったらお茶目さん!




正気を取り戻そう。



いくら穴から落ちてタイムスリップしたからって、昔の日本では綿毛が

喋ってましたなんておとぎ話すぎる。


私は綿毛を素通りして、再び声の主を探し始めた。




「え、今見たよね?」


「また声が聞こえた…ねえ、どこにいるの?」




綿毛方面から聞こえた気がしなくもないけど、気にしない。


だめだ。

ここで呼びかけに応えたら、私も変なワールドに突入してしまう気がする。




「ねえねえお嬢さん。

僕だよ、僕が喋ってるんだってば。」


………。





やっぱり、コイツが喋ってるって認めなくちゃダメ?



「はぁ…。」


ため息を吐き、少しかがんで例の奴に話しかける。





「…本当にあんたが喋ってるの?」


「そうだよ、君ってば気づかずにどんどん行っちゃうんだもん。

焦ったよ~。」




それは無視してたんです!!!!

思わず顔が引きつる。


ああ、とうとうコイツの存在を認めてしまった。

全然焦りを感じさせない口調で話しかけてくる綿毛に、胡散臭い視線を向ける。




よく見ると、綿毛には顔があった。そしてよく見ると可愛い。


くりくりの大きなお目目に、小さめの口。



…確かに可愛いけど、でも私はこんな生物見たことない。

人間の言葉を喋る綿毛なんて見たことない。





















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