003 雨の中
たいへん時間がかかりました・・。
今にも雨が降りそうな天気の中、朝ほどではないものの、普段よりも速度を出して翔梧は自転車を漕ぐ。
おそらく箱根駅伝よろしく往復のタイムを計ったら確実に今日のタイムは高校生活最速だっただろう。その影響で久しぶりに激しい運動をした翔梧の足はパンパンにはっていた。
翔梧は高校に入ってからずっと帰宅部だった。中学生の時はサッカー部に所属していたものの受験勉強に集中したいからと理由で辞めてしまった。
実際には勉強を始めたのは皆が引退してからで、やる気がなくなってしまったので辞めたというのが本当の理由だったのだが。
部活もせずだらだらしている翔梧を琴奈は見かねて何かしらやらせようとするのだが、その都度はぐらかされたり、何故かさっきのように達也が絶妙のタイミングで止めに入るのでまったく意味をなしていなかった。
ともかく約2年もまともな運動をしていない体はなまりになまっていて、翔梧の体に疲労を蓄積させていく。夏ともなればいっそうだるくなる。
家に着いていつもの通り自分の部屋のベッドに転がると外から雨が地面を打つ音が聞こえ始めた。始めは遠かった音がだんだんと近づいてくる。
(やっぱ降りだしたか・・。まあ途中で降られなかっただけでもラッキーだろ。)
カーテンをあけると空は先程よりも一層暗くなって、夏の暑い日差しは全く感じられなくなっている。
(明日まで降り続かなきゃいいけど。)
カーテンを戻し無意識のうちにできるだけ雨から距離をとるようにして翔梧は眠りに落ちるよう意識を傾ける。
昼食もとらずに翔梧は眠りに入った。
「なんであんなタイミングで入ってきたのよ。」
達也に強引に引きずられて学校近くのショッピングモールに来ていた琴奈はまださっきの出来事を根に持っているようで、自分のカバンを隣のヤツに当たれといわんばかりに乱暴に振り回しながら言う。
達也は攻撃範囲内からちょっと距離をあけた所で隣を歩いていた。
「そんなの自分でわかってるはずだろ。それとも言わなきゃわかんない?」
「・・・。」
予想外のいきなりの厳しい口調に琴奈は無言になる。いつもの軽いテンションとの違いにひるんでしまったのだ。達也が昔からときおり見せるこの普段とのギャップに琴奈はいつも気圧され、その度に言葉を返せなくなってしまう。
「・・わかってるよ。」
琴奈は重苦しい雰囲気のなか、なんとか言葉を紡ぎだしたが、たった一言で終わってしまった。
「どうせ美由紀がどうとか言おうとしたんだろうけど。アイツのこと言われて翔梧がどんな顔するか知ってんだろ。」
「それもわかってるわよ。でもいつまでもあんな調子じゃ・・。」
「俺もそれは思ってる。前よりも確実に翔梧の無気力さはひどくなってるしな。でも自分の怒りに任せて怒鳴ろうとするのは違うだろ。」
「・・それができてれば私だって苦労はしてないわよ。」
今まで何度も繰り返してきた答えの出ない応答をまたひとつ繰り返し、2人の間に沈黙が訪れる。
「・・とにかく下手にアイツのことは翔梧の前で出すな。言いたいことはそれだけ。
さて!俺達は青春を謳歌しますか!今から何する?とりあえず俺は腹減ったし飯が食いたいついでに琴奈も食えれば・・ゴアッ!!」
これでこの話はお終いだと達也は手を叩き、いつもの軽いノリに切り替えておよそ街中で口にするべきではない言葉を発した瞬間、琴奈のカバンが達也の顔面に炸裂する。
なんだかんだで仲の良い2人だった。
次もがんばります。