002 無気力
テーマはタイトル通り『無気力』です。
さすがに補習ということで授業は午前中で終わった。雨が降る前に家に帰りたい翔梧にはまさしく不幸中の幸いだった。雲行きはますます危うくなっており、さっさと帰ろうと荷物を片付ける。席から立ち上がると前の席から声が聞こえた。
「何で遅刻したの?あんたにしてはめずらしい。」
「完全に寝坊。それよりなんで学年トップのあなた様がここに?補習なんか全く意味ないだろ。俺達バカに対する嫌がらせか?」
「そんなわけないでしょ。夏休みにだらけないために先生に頼んで授業に出させてもらったの。」
うげぇ、理解できねぇと思いつつ翔梧は少女のマジメさにいつもながら驚く。
このマジメ少女こと南琴奈も翔梧、達也と同じ中学校出身で、達也にいたっては小学生のころからの付き合いである。とにかくマジメで頭もよく、しかも所属している弓道部で去年は高校1年にも関わらず、団体戦とはいえインターハイに出場している。まさに文武両道の鏡といえる人物なのだ。
「ってかあんた去年も補習ひっかかってたでしょ。ちゃんと勉強しなさいよ。」
「へいへい、俺がどうしようと勝手だろ。」
「あのね、そんなんじゃ・・」
「は〜い、そこまで〜。」
琴奈が若干怒りをこめて何かを言おうとした瞬間、そこに気の抜けた声と共に達也が2人の間に割って入り、体の横に手を水平に伸ばして制止をかけようとする。達也はニコニコしながら琴奈に話しかけていた。
「ところで琴奈。今日久しぶりにデートしない?」
いきなりの達也の登場と話題の変換に琴奈は付いていけず、はあ?という表情をしている。
「なにがところでよ、急に意味わかんない。」
「いいからいいから、今日部活ないっしょ?」
「ないけど・・私は今翔梧と話してんの。」
「そんなの明日でもできるだろ。それとも俺よりも翔梧の方がいいってか?俺はフラれてしまったのか・・ああ・・泣きそう・・。」
あからさまな嘘泣きの演技をしながらさりげなく達也は琴奈の手をひきずって教室を出ようとする。このふざけたやり取りはいつものことらしく、他の生徒達はまたやってるよ、と呆れた顔をしている。
「・・ちょっと!まだ話はおわってな・・」
まだしゃべり足りない様子の琴奈は達也を睨みつけながら抵抗するが、いくらインターハイ出場者で体が鍛えられているといえどもさすがに男と女では力に差があり、琴奈はものの数秒で連行されてしまった。すごい剣幕で睨みつけられているにも関わらず達也は全く気にすることもなく教室を出る直前、
「んじゃ、また明日も一緒に補習という地獄を耐えようぜ!バイバイ!」
と言葉を残して去っていった。
それからぎゃあぎゃあという琴奈の鳴き声が聞こえなくなるまで、置いてきぼりをくらった翔梧はしばらくそこに立ち尽くしていた。
たっぷりと10秒間も時間を空けた後ふと我に返り、雨が降る前に帰ろうとしていたことを思い出した翔梧は中学時代から愛用しているエナメルのショルダーバッグを背負い、天気が悪化してもすぐには気温の変わらない夏の空のもとへ出て行った。
2話でもう限界が・・。
死力を尽くして次につなげます。