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Rain×Sun  作者: LAX
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001 雨嫌い少年

始めて投降します。


テーマは『はじまり』です。

季節は8月上旬。うだるような暑さのなか、本来なら夏休みであるはずの高校2年生のある少年は、なぜか自転車を爆走させながら学校へと向かっていた。


眉が多少濃いが、目や鼻などのパーツはバランスがよく割と整った顔立ちに、服装は夏服の薄いズボン、白いシャツ、中には紺色のTシャツを着ているその少年は名を上村翔梧といった。髪はややクセがあるが、ゴムで軽くしばれる程度の長さがある。ピンで留めた長い前髪が風圧で少しだけなびいている。


「遅刻するー!!」


突如、ラッシュ時を過ぎ人多少も少なくなった駅の近くで翔梧は周りも気にせず大声で叫ぶ。そんなことをしたらこの暑さではすぐにバテてしまうということもお構いなく。


ところでなぜ翔梧は必死に自転車を漕いでいるのか?


答えは簡単、補習という名の拷問を課せられ、それに加え、初日の今日、あろうことか寝坊してしまったのだ。学生の夏休みの過ごし方の基本、無意味な夜更かしによって。


一応口ではがんばればまだ間に合う、とも取れる言葉を発してはいるが、普段よりも30分も後に家を出たため、いつも始業のギリギリに到着する翔梧は必然的に遅刻となる。


そのことに本人も気づいてはいるのだが、遅刻することに関して翔梧はなんとなく後ろめたさみたいなものを感じてしまう性格だったので、こうして自分を無理矢理だましながらがんばっているのである。


しかしながら、そんな翔梧の気持ちに周りの通行人が気付くはずもなく(気付いたところで同情する人間などあまりいないだろうが)、切羽詰まった声と暑さで汗だくの表情の翔梧に周りの通勤、通学者達は完全に引いている。


「ったくこんなクソ暑いなか補習なんかやるんじゃねーよ!!」


最上級の逆恨み(そもそもこの補習は1学期の期末テストで赤点を取った人間が対象)の言葉を吐きながら翔梧は漕ぐ足を加速させた。


その時後ろから、


「翔梧!」


と、声がかけられる。聞きなれた声を聞いて翔梧が振り向くとそこには翔梧と同じ制服を着た少年――池谷達也が同じく高速で自転車を漕いでいる。短髪をハネさせ、ワイルドな雰囲気を醸し出している彼だが、翔梧に比べ顔はおっとりとしており、そのギャップに多少の違和感がある。


「お前も寝坊か?」


達也は仲間がいて助かった、といった顔を浮かべながら翔梧に聞いた。


「…そうだよ。わかってんなら聞くな。それと相変わらず赤なんてハデなTシャツ着てんな、お前。」


翔梧は焦っていてイライラした雰囲気を隠しもせず答える。


「そんな不機嫌そうな顔すんなよ、ただでさえ暑くて気が参ってるのに。鬱陶しいああ鬱陶しい。あと言っとくが赤は俺のポリシーだ。文句つけんなこのストレス人間。」


「うるさい、何がポリシーだ。」


「まあ怖い、今日は一段とこめかみの血管が浮き出ていますことよ。ヘモグロビンの大安売りでもしてんのか?」


「・・・。」


軽口を叩きまくる達也にこれ以上話しても何も得ることはない、と判断した翔梧は最も単純で効果的な、『無視』という手段に出た。さすがにこれでやり過ぎたかな、と感じ、


「ゴメンゴメン、俺が悪かった。ほれ、この通り。」


と、達也は軽く頭を下げる仕草を見せるが、まるで悪気はなさそうだ。というのもこの2人は中学校時代からの知りあいで何かとつるんでおり、この程度の軽口の叩きあいはしょっちゅうで、いつも通りのことだったのだ。


「・・・はぁ、もういい。急ぐぞ、もう間に合わないけど。」


無駄なやりとりをしてしまい落ちたペースを元に戻そうと翔梧は言い終わると同時に立ち漕ぎを始める。それを見た達也も面倒くさそうな表情を浮かべながらも後に続く。2人の身長は翔梧が175、達也が170で、並んでいると身長差が結構ある。


この身長の差が達也は気に食わないらしく、陰で牛乳を大量に飲むという最早背を伸ばすにはあまり信用のない方法で追いつこうとしている。翔梧は知るよしもないが。


いつか絶対追い抜いてやる!とか内なる闘志を燃やして達也は翔梧を背後から睨みつけたとき、学校の門から100メートルの角を翔梧が曲がる。悲しい闘志に火が付いていた達也は危うく気づかずそのまま真っ直ぐ通過してしまうところだった。


角を曲がるとふと翔梧がつぶやく。


「あ〜、怒られるんだろうな・・。」


「お前まだ怒られるとか気にしてんの?今まで散々怒られてきただろ。」


どうでもよさそうにあまり名誉でないセリフを達也は返す。


翔梧は県でもトップクラスの名門校に在籍しているが、もちろん同じ高校でも学力というのはピンキリであり、さらに2人は入学すると同時に勉強を放棄し、課題なんて出さなくて当たり前だろ、という学生生活を送ってきたため教師にはブラックリスト入りされたりしている。そのため何度も呼び出しをくらっていて、叱られることはもう慣れっこになっていた。


校内に入って駐輪場に自転車を置き、靴を履き替え階段を猛ダッシュで駆け上がる。教室は4階にあり、限界まで自転車をぶっ飛ばしてきた体はますます体力を奪われる。この学校は全教室が冷暖房完備という果てしない税金の無駄遣いをしており、夏休みも補習期間中は冷房がついている。


そのことを情けなくも去年の体験として知っている2人は早く涼もうと教室までの道を急ぐ。4階は吹き抜けになっており、太陽がまぶしい。階段を上ると教室まではすぐだが、今の2人にはそのわずかな距離も苦痛だった。


「「すいませんっ!遅刻しました!」」


天国のように涼しい教室に入ると同時に声をそろえて、さらには頭も下げて翔梧と達也は謝る。


「・・お前ら補習に遅れてくるとはいい度胸だな。その勇気をかって課題の量を2倍に増やしてやろう。とっとと席に着け。」


メタボ気味の腹を揺らし、数学教師が口元を曲げ嫌味そうな笑顔で笑う。何かとすぐ怒るこの教師は自分たちが課題を出さないに決まっていると確信しており、怒ってストレスを解消しようとしているに違いない、と翔梧は勝手に解釈する。あながち間違ってはいない事実だった。


「さて、中断してしまったがこのベクトルは・・」


教師が授業を仕切り直そうと話を始め、翔梧と達也は席に着こうと移動する。自分の座ると、他に補習にひっかかった哀れな生徒5,6人が席に着いた2人に何やってんだ、と視線だけで笑いかける。苦笑いでそれに答え、ノートを取り出し翔梧はまじめに授業を受けるポーズをとる。


ときおり名指しで当てられながらも数学が終わり、その後も物理、化学と続き、いい加減疲労で限界も近づいたころ、翔梧はふと窓から空を見ると雲行きが怪しくなっていることに気が付いた。予報では午後から雨が降るとなっていたが、寝坊して天気予報を見る余裕のなかった翔梧はそれを知らない。




(・・ついてねぇ。)


顔がわずかに、しかし確かに影を落とす。まるで雲の色が表情に表れたかのように顔色は暗くなる。


翔梧は雨が嫌いだった。

それも尋常じゃないまでに。


雨が降って体が濡れることが嫌いなわけじゃなく、行動が制限されることが嫌いなわけでもない。


ただ本当に、どうしようもなく嫌いだった。

書くの疲れました・・。

楽しいですけどね(笑)

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