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いってきます

作者: 創牙

マンションの屋上


『死にたいわけじゃない。でも、もうこれ以上生きようとも思わない』

 昨日の夜にSNSに書き込んだ投稿。誰にも見られることなく膨大な情報に埋もれた僕の声。

 僕はその書き込みを削除すると、新しく打ち込む。

『いってきます』

 きっと誰にも気づかれない。それでもよかった。

 ケータイを閉じる。


 死にたいほどつらいことがあった?

 ――――――違う。

 いじめられていた?

 ――――――違う。僕じゃない。僕がいじめられてたんじゃない。

 僕は見ていたんだ。ずっとずっとずっと見ていた。クラスメイトがいじめられているのを、ただずっとずっとずっとずっとずっと――――――

 見ていた。見てることしかできなかった。

 あいつらのことが許せなくて。あの子が可哀想に思えて。見て見ぬふりの周りが信じられなくなって。その人たちに紛れてしまえる自分が怖くて。弱い自分が許せなくて。嫌になって。

 ――――――違う。そんなんじゃない。そんなのは綺麗事だ。

 なんにもなかった?

 ――――――そう。僕にはなんにもなかった。

 個性も特技も趣味も、なんにも。頭の中は真っ白だった。

 いつからだろう?いつからそうなった?


 昔は絵を描くのが好きだった。絵を描いて見せて、褒められると嬉しくて、また絵を描いて・・・・・・いつしか自分は絵に関係した職業に就くんだろうなぁって思っていた。だから中学校に進学した時も美術部に入った。

 でも、そこには絵がうまい人がたくさんいて、次第にそういう人たちの前で自分の絵を描くのが恥ずかしくなったんだ。

 絵を描けなくなった。描き方が分からなくなった。

 そのうちに、もう、何にもわからなくなってしまった。


『死にたいわけじゃない。でも、もうこれ以上生きようとも思わない』

 

 落下防止用の柵を乗り越える。足がちょっと震えた。

「いってきます・・・・・・」

 呟くと目を閉じる。

 さようなら。


 ブーブーブー


 ポケットに入れていたケータイが小刻みに震える。そのせいで飛び降りるタイミングを失った。

 開く。


『いってきます』

 ⇒『今日も学校なんですか?大変ですね、頑張ってっ!!』from 納豆巻き

 ⇒『いてらー気を付けてー!』from はるぽ


 ポタポタとケータイの画面にしずくが落ちる。

 涙が止まらなかった。止められなかった。

 見てくれてる人がいた。

 こんなこと恥ずかしい話かもしれないけど、嬉しかった。

 僕の居場所はちゃんとココにあったんだ・・・・・・。

 已然、僕の頭の中は真っ白だけど―――――


 もうすこしだけ、生きてみようかな。

 

 『いってきます』

 ⇒『今日も学校なんですか?大変ですね、頑張ってっ!!』from 納豆巻き

 ⇒『いてらー気を付けてー!』from はるぽ


 ⇒『ありがとうございます!!行ってきます!!』to 納豆巻き はるぽ


 

 


 


 


 

 

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