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ほう…
誰もがため息をつくほど似合い、そして美しかった。
皆、セントを見てうっとりとしている。
「とってもお似合いですわ、お二人とも。」
「恐れ入ります。」
「ライラ様、どうやってこれを短時間で用意したのですか?」
セントの問いに、ライラ嬢は席に座り茶を一口飲むと笑顔で答えた。
「昨夜のうちに仕立て屋に連絡しておいて、今朝早く見繕ったものをもってきてもらったの。けれど、サイズがぴったりでよかったですわ。」
うっとりとした表情で俺とセントを見つめてきた。
「しかし…セントは昨日お会いしたとき顔も体系もほとんど隠していたのによくサイズが分かりましたね。」
俺が言うとライラ嬢はふふんと少し胸を突出した。
「セント様がどのようなお姿かは大体想像しておりましたの。でも、想像以上にお美しかったから…驚いてしまったわ。」
そう言い見つめる先のセントは茶色の髪を後ろで一つにしばるのはいつもどおりだが、水色の上衣に、白のズボン。そして羽がついた帽子。はっきりいってどこかの国の近衛のような姿だった。
それにしては少し派手すぎる気もするが。
セントは陽に焼けた茶色の肌に顔を隠すように長い前髪だが、その下には整った顔が隠れている。髪を結い、顔を見せればかなり美しいのだ。
少年傭兵のような出で立ちにメイド達はきゃあきゃあ言っている。
ライラ嬢も満足そうだ。
「とにかく、朝ご飯にしましょう?話はその後ですわ。」
そういうと俺とセントに食事をすすめた。
朝食の後、俺たちは屋敷を案内された。
「こっちが傭兵の方々に住んでもらっている宿舎ですわ。」
そう言い見せられたのは俺たちが泊めてもらった部屋よりも質素な所だった。
広い庭の隅の方に建物があり、人が多い時には二人一部屋で使っていると言う部屋はそこそこの広さにベットが二つに各部屋にシャワーが部屋についている。窓も必ずあるし、三食食事付きだ。それで金をもらっているなんて、俺が今まで働いて来たところを考えるといい暮らし過ぎる。
「それから、こっちが練習場。鍛錬は必要ですものね」
わりと広い運動場のようなスペースに十人程度の体格のいい男達がそれぞれ剣の鍛錬をしていた。
「今雇っているのがあの方々ですわ。みなさん長く勤めてくれてとても助かっていますの。」
俺たちに気がついた男達は軽くライラ嬢に会釈をしそして不審者を見るような目つきで俺とセントを見た。
ーーなんだか、あんまり歓迎されてねぇな。
第一印象がそれだった。
「さて、お返事をお聞かせくれますか?」
ライラ嬢はにっこり笑みを浮かべ俺とセントを交互に見た。
そっとセントを見ると出された紅茶を飲んでいたが、優雅にカップをテーブルに置くと立ち上がり、そして胸に手をやるとうやうやしく頭を下げた。
それはまるで騎士か城で使える従者達がやるかのような美しい動きだった。
「私でよければ是非、お力にならせてください。」
そして顔を上げるとニコッと笑みをみせる。
ーくそ、俺にもそんな顔見せたことねぇだろ!
しかもセントのその笑顔に、皆とりこになってしまっていたようだ。
ライラも少し頬を赤らめそして嬉しそうに笑みを見せた。
「嬉しいですわ!わたくし、可愛い妹が欲しかったんですの!」
「…は?」
ー妹?
俺とセントは目を見開いた。
ライラ嬢は尚も嬉しそうにしながら立ち上がるとセントの元へやってきて、セントをぎゅうっと抱きしめた。
「わっ!」
「美しく、可愛らしいセント様。どうか私の側に居てね」
「は…」
セントがなんとか声を出すとライラ嬢は嬉しそうにセントから少し離れ、そして手をぎゅっと握った。
ーえーと…俺は…
どうすればいいのか戸惑っていると、ライラ嬢がセントを抱きしめたまま俺に顔を向けて来た。
「ライド様も、もちろんここに留まってくださいますわよね?」
有無を言わせない笑みだった。
「は…はいッ」
慌てて立ち上がり、返事をするとセントから離れ俺の片手を、セントの片手を、それぞれ握ると嬉しそうに俺達を見た。
「それでは早速お仕事をお願いしますわ。」
「なあ。」
「なんですか。」
「これで、よかったのか?」
「とりあえずは、よかったと思っている。もし、いやなら…」
「お前さんを置いてどこかに行けないに決まってるだろ!」
俺が言うとセントは一瞬驚いた表情をし俺を見るが、すぐに正面に顔を戻した。
「しかし長いなぁ。買い物」
俺とセントはライラ嬢に連れられるがままに隣町までやってきていた。
ちなみに、俺もセントも元々着ていた服に着替えている。あの服では目立ちすぎるので変にやっかみを買ったりする可能性さえある。
それを避ける為にも着替えさせてくれと頼み、渋るライラ嬢を懐柔させたのだ。
ちなみにセントの顔を隠していた布も外していた。アレこそ妖しさ満点だからな。
そして今。
馬車は従者に見させ、俺とセントは荷物持ち兼付き人をしていた。
貴族の中では最近かなり有名らしい服屋へ連れて来られ、ライラ嬢は飾ってあるドレスを店の主人と共にあーでもない、こーでもないと見定めながら店内を歩き回っていた。
「セント様!」
呼ばれ、立っていたセントは足早にライラ嬢の元へ向かう。
しかし、セント様、って…。店の中の従業員らしき者達は驚いたような表情でこっちを見ている。
ライラ嬢は気にしていないようだがセントは少し困った表情だ。
するとライラ嬢はセントの腕をつかむと従業員に何かを言いつけ、奥へ連れて行った。
「ライド様、こちらへ!」
様なんてつけられて呼ばれること慣れてないから、どうしたもんか少し困るが。まあ悪い気はしない。
「どうかしましたか?」
ライラに尋ねるとドレスを何着か見せられる。
「どう?どれが好みかしら?貴方の意見を聞かせていただいてもよろしいかしら?」
「は?」
「やっぱりピンクだと思うのですけど…でもこの真っ白も捨てがたいですわ!それにこの赤いステッチがはいったこのレースなんてもう…!想像しただけでもおかわゆらしいにきまっていますわ!」
ライラ嬢は額に手をやるとクラクラとした様子になり、慌てて後ろから支えるとライラ嬢は微かに頬を赤らめ俺を見上げる。
「やっぱり、ハンサムですわ。貴方が私の傭兵になってくださって本当に嬉しいですわ!見てご覧なさい、世の女性達が貴方のことを見ていますわよ」
それは、あんたが大げさな身振り手振りだからなんじゃないかと思うが…。
俺は出かけた言葉を飲み込み、少し息を吐くとライラ嬢を立たせる。
「それで、どんな妄想をしておられたのですか?セントは?」
「妄想なんて…!貴方、カンが鋭くていらっしゃるのね。」
楽しげに俺を見るライラ嬢にそれだけ言葉にだしていたら俺じゃなくても気がつくと思う。と言う言葉を飲みこんだ。
「そう、もうすぐお可愛らしいお姿がみれますわ!」
「?」
少しの間、後。
「ちょっ…!!」
「どうでしょう、ライラ様」
従業員に手を引かれ現れたのはドレス姿のセントだった。
「まあ…!やっぱり可愛いですわ…!」
「…!」
ライラ嬢は胸の前に手を組み目をキラキラとさせている。
セントはあからさまに眉間に皺を寄せ衣装部屋へ戻ろうとしているのを、両側から従業員に押さえつけられていた。
それでも手足をバタつかせているんだから余程、嫌だったんだろうな。
「ライド様、どう思います?やっぱり、白かしら?」
尋ねてくるライラ嬢に俺は、答えることが出来ないでいた。
「…ライドさん。変な顔しているぞ」
あんぐりと口を開いたまま、俺はセントの美しさから目が離せないでいた。言葉が出ない程見とれて、その場に立ち尽くしてしまっていたんだ。
セントの言葉でライラ嬢が俺を見てにやりと笑い、従業員は少し苦笑した様子だったがセントを見、なんだか納得したような、満足したような表情で頷き、ライラ嬢の指示で俺の元へ嫌がるセントを連れて来た。
「隣に立ってみてくださる?」
ライラ嬢に言われるがままにセントは俺の隣に立つ。
観念したのか大人しい。
近くに来ると、なんだかいい香りがした。
「まあ!美男美女でとってもお似合い!セント様、そのドレスもお似合いになりますけれど、もう少し大人っぽい方がライド様ととても釣り合いがとれた雰囲気になりますわ。やっぱりさっきの赤のステッチの方がいいみたいですわ!」
ライラ嬢がそう言うと従業員が頭を下げそしてセントの腕を引き衣装合わせ部屋へ連れて行かれた。
その様子を黙って見ていると、隣りからライラ嬢の声が聴こえた。
「ライド様、お見とれになるのは仕様がないことですけれど、私の警護もしっかりお願いしますわね。」
その言葉に俺はハッとなり、ハッ、と慌てて返事をした。
「フフフッ♥︎今日は楽しかったですわねぇ」
満足そうにソファーにもたれかかるライラ嬢の背後で俺とセントは黙って立っていた。
別に中に入って警護は必要ないのだが、ライラ嬢は俺達の事を気に入ってくれたらしく、部屋の中まで入れてくれた。
「ねぇ、セント様、ライド様。」
そう言い、振り返ったライラ嬢に俺は思っていた事を言ってみる。
「あの」
「なんですの?」
「その…俺とセントの事なんですが、名前に様、付けして呼ぶのはどうかと思うのですが…。雇い主と傭兵なのですし」
ライラ嬢はう~ん、と考えた様子になるが、セントを見るとにっこり笑みを浮かべる。
「いいえ、ライド様もセント様もそのままお呼びしますわ。私がそうしたいのですから、いいでしょう?」
「ですが…他の傭兵達にあまり良く思われないのではないかと…」
そうなんだ。
俺らがライラ嬢を警護している他に屋敷の中には十名弱の傭兵が居る。
俺とセントだけ特別扱いされるわけにはいかない。
「そうかしら?」
「ええ」
「そうねぇ…それじゃあ、ライド様、セント様」
「「はっ」」
俺達は畏まってライラを見る。
「傭兵の中の誰かと手合わせして勝ってください。そうすれば、皆納得致しますわ。それに、ここで傭兵する方々は皆手合わせして力量を見てから雇うのが通例みたいですし…ねえ、じいや?」
ライラ嬢が声をかけると控えていた執事がそうですね、と頷いた。
「お嬢様がお気に召しているのであれば特別必要ないかと思っておりましたが、確かに特別扱いに不満を漏らす者もおります。セント様は参加されなくとも、ライド様は一番の腕ききと手合わせしていただいて勝っていただいた方がよろしいかと…」
「…俺!?」
思わず声を上げるとライラ嬢もそうねぇ、と呟く。
執事を見るとにっこり笑みを浮かべていた。




