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ホゴシャな日々  作者: 望月 沙夜
出会い編
6/15

「…ライドさん」

 ゆさゆさとゆすられ眼が覚める。

 「なんだ?朝か?」

 眼をこすり起き上がると、セントがこくんと頷く。

 「そろそろ戻りましょう。どうやら昨夜は襲撃してきた人たちのおかげで町中の案件はなくなったみたいですね。皆それぞれ見回りなどしているみたいです。今なら戻りやすい。」

 いつの間にか身支度を整えたセントがどうやって調べたのか俺らのねぐらの情報を教えてくれる。

 「わかった…。」

 セントが用意してくれたらしい洗面用の水で顔を洗い脱いでいた上着をはおり、腰に剣を携える。

 「さ、行きましょう。」

 準備が整ったのを確認するとセントに促され部屋を出た。

 娼婦宿を出るとき、セントがめいいっぱいの笑顔を振りまいて出て来たので、入り口で見張りをしている男達やそろそろ仕舞にしようとしていた女達に嫌な顔をされずにでて来れた。

 

 「寒っ!」

 

 外に出るとまだ薄暗かった。 

 一年中温暖な気候とは言え、朝晩はやはり冷える。

 俺は隣を歩くセントの肩を引き寄せた。

 「こうするとあったかいな。」

 「ヤメロ!」

 セントは俺を押しのけ離れる。

 「なんだよ、一緒に寝てたのに連れない奴だな」

 「ただ単にいつの間にか眠ってしまっただけじゃないですか。」

 セントの冷たい眼差しが俺を突き刺す。

 「…お前さん、冷たいよな」

 「貴方には私じゃなくても優しくしてくれる人は他にたくさんいらっしゃいますし、私の優しさなんて無くったっていいと思いますけど?」

 「なんだか、言葉にドゲを感じるんだが」

 「気のせいじゃないですか?」

 

 ーいや、気のせいじゃない。

 

 歩きながらそんなやりとりをしているといつの間にか宿に到着していた。


挿絵(By みてみん)

 


 宿の戸を開くと、残って後処理…片付けをしているのはダダンとフランクさん、それに何度か仕事を共にした事が有る奴が二人程だった。だいぶ食堂は荒れていた。

 まあ、始まったのはここだったから仕方が無いと言えばそれまでなんだが。


 「お。無事だったか、二人とも!」

 ダダンが俺とセントに気がつきこっちにやってきた。フランクさん、他二人も俺達を見て少し表情を和らげてくれる。

 「ああ。あの後すぐにセントが見つかったんだが、ここが騒ぎのまっただ中だったから少し避難していた。手伝えなくて済まなかった。」

 「いや、戻ってこなくて正解だった。どうやら最初に話をしてきた奴らはセント君をどうにかしたかったみたいでな。随分大騒ぎしていが、あいつら強くはないんだがやたら仲間を集めていてな。それでなかなかケリがつかなくて、最後には誰が通報したのかカプリチオ国王直属の兵までやって来てそれでようやく騒ぎが収まったんだ。しかし、ズイ様がここにいらっしゃるなんてなぁ…」

 「ズイ!…様?て、あのすっげー腕が立つって噂の国王の右腕の?」

 「ああ、そうだ。この一件をどうやって知ったのか…。すぐに奴らを引っ捕らえて連れて行ってくれてな。…ああ、それからセントくん?」

 ダダンに呼ばれ黙っていたセントは驚いたようにビクっと体を大きく動かした。

 「何か驚かせちゃったかな?」 

 セントの驚きようにダダンも何かをしてしまったのかと、セントを見るが布を深くかぶっていてどんな表情をしているのかわからなかった。が、すぐに「いえ」と。いつもの低めの声が聞こえた。

 「なんでもありません。」

 「そうか?なら、いいが。さっきまでいらっしゃっていたズイ様が人を捜していてね。丁度君くらいの子どもを探しているようだったんだ。まさかとは思ったが、どんな理由で探しているか分からなかったから居ないと答えた。…君、そんな子見た事あるかい?一応、何か情報があったら連絡してくれ、とのことだったから聞いておこうと思ってね。」

 皆、掃除をしつつも聞き耳を立てているようだった。

 セントは俯いていたが、すぐに顔をあげる。

 「知りません。旅をしている、同じような年頃の人に出会った事はありません。」

 「そうか。…変な事聞いて済まなかったね。今日はゆっくりと休むといい。」 

 「はい、ありがりがとうございます。」

 セントは答えるとそのまま背を向け歩き出した。俺も続こうとするとダダンに肩をつかまれた。

 「話がある。」

 「?」

 俺はセントを見送り、無事だったカウンター席に腰掛けると、隣にダダンが座った。

 「あの子…女の子だろう」 

 「…ああ」

 ダダンはより声を潜めて続ける。

 「ズイ様はセントと言う名の女の子を探していた。年の頃もあのくらいだ。」

 「…」

 言葉が出ない。

 「何をしたのかはわからないが、あの方に探されていると言う事はよほどの事だ。…お前、あの子どうするつもりだ?」

 「何も…。ただ、行き倒れていたから助けただけだ。」

 俺の頭の中で昨夜セントが襲って来た手だれと思われる男達を二人も倒してしまった事を思い出す。

 子どもにしては強すぎる。そして手慣れている。

 一体今までどんな生活を送って来たのか想像できない。

 ただ、分かる事は普通の子どもではないと言う事。

 そして家出してきたと言う事。

 

 「助けたのはいい。子どもだし、悪い子じゃなさそうだからな。けれど、これからの事、きちんと考えろ。…俺のカンだとあの子は何かあるぞ。命かけられる気持ちがあるなら一緒にいていいだろうが、ただ単に同情して一緒にいるなら止めろ。死ぬかもしれねぇぞ。」

 

 「…死ぬ、って。随分大げさな…」


 俺はかすれた自分の声に驚く。

 

 「大げさじゃない。あの子は少なからず、何かを引き寄せる不思議な力がある。お前にしろ、今日の奴らもそうだ。」 

 「は?何言って…」 

 「今日の奴らはいずれはここへ襲撃にきたかもしれん。けど、お前は確実にあの子に引き寄せられた。…違うか?」

 「どう、引き寄せられたんだよ?」

 「…まあ、わからんならいい。決めるのはお前だ。よく考えてきめろ。…引き止めて悪かったな。」 

 「…」

 そう言うとダダンは掃除に戻った。俺は黙って立ち上がると部屋へ向った。

 セントが待っている部屋へ。

 

 ◇


 キィ、と小さく音を立ててドアが開く。

 陽が昇り始めた空から窓に光がわずかに差し込んでいた。

 ベットでは布を取ったセントが剣の手入れをしていた。

 「どうした?寝ないのか?」

 「切れなくなると困るので、先に剣の手入れをしようと思って。」

 「そうか」 

 俺はソファーに腰を下ろすと上着を脱ぎ、両腕を天井に向かってのばす。

 「あーあ。なんだか疲れたな。」

 「そうですか?」

 「そうだろ。いろんな事が起こったからな。」

 くすっと笑う声が聞こえ、セントを見る。

 「ライドさんはなんにでも首をつっこみ過ぎなんですよ。」

 「そんなつもり、ないけどな…」

 俺はその笑みに引き込まれて行く。

 「それじゃあ、自覚すべきです。私を助けた事、追いかけて来た事。自分に関係ない事に首、つっこみ過ぎじゃないですか?」

 キンっと鞘に刃を納め、俺をまっすぐ見つめてくる。

 「それは…お前さんが子どもで、一人じゃ危ないからだ」 

 「そんな事ばかりしていたら、貴方はいくつ命が有っても足りない。」

 カタン、とベット脇に剣を立てかけるとセントは口の両端を吊り上げ、俺がセントにするように顔を覗き込んで来た。

 「そろそろ、さよならです、ライドさん。」

 「なんだよ、突然。」

 「ダダンさんに言われたのでしょう?私からはなれろって。」

 「…」

 「私に近づくと、ろくな事が待ち受けていない。そう、言うなれば、人生を棒に振るかもしれない程に。」

 そしてセントは俺から離れ、背を向けた。

 「今日中に出て行きます。今までありがとうございました。」

 「…」

 すぐに言葉が出てこなかった。

 ただ、その背を見つめる。

 セントはもそもそとベットに潜り込むとそのまま寝息を立て始めた。

 俺はしばらくそのままセントを見つめていた。

 ー俺は…どうすればいいんだ?


 ◇


 「!」

 眼が覚めると陽が落ち、部屋の中は真っ暗になっていた。あまりにも部屋の中が真っ暗でどこに居るのかさえ分からない程だ。

 いつの間にか眠ってしまったらしい。

 俺は慌てて起き上がる。と。毛布がかけたあったのか床にぱさっと落ちた。

 「…セント、か?」

 呟いてハッとなる。

 ーセントの気配がない!?

 俺はそのまま部屋を飛び出した。

 一階の食堂に向かうと、皆集まり今夜のミーティングを行っていた。

 「よお、ライド。だいぶ疲れてたみたいだな。起こしに行ったんだが、熟睡してたみたいだからそのままにしちまった」

 「セントは?」

 俺はダダンの話なんて聞こえていなかった。

 「セントくんなら陽が落ちる前に出かけてくるって出て行った…きり戻ってこないな」

 ロイが答え、俺は呆然としていたがすぐに部屋に戻ると剣と荷をまとめる。

 「おい、ライド。どうしたんだ?セントくんならみんなで手分けして探そう…」

 俺の後を追って来たダダンが言うが、俺はいや、と答えた。

 「あいつは出て行ったんだ。」

 俺がそう言うとダダンは持って来たカンテラで部屋の中を照らした。追いかけて来たロイや他のやつらも黙って部屋の中を見渡す。

 「確かに部屋の中はなんもねぇが、出て行ったってのは早合点じゃねぇのか?」

 「あいつは、今日中に出て行くって言ってたんだ。」

 そう答えると俺は荷を持ってダダン達を見る。

 「今日まで世話になったな。俺は旅に出る」

 「ライド!?」

 「セントくんを追いかけるのか」

 「おいおい…」

 飽きれた様子の奴らも居たが、俺は頷き答える。

 「ああ。」

 「だけどな、ライド。お前が考えるよりも危険な事に巻き込まれるかもしれないんだぞ?」

 「ああ。」

 「あの子は…普通と違うかもしれないんだぞ?」

 その言葉に皆驚いたようにダダンを見る。

 俺は黙ってダダンを見る。

 「分かってる。」

 そういい、思わず笑う。

 「もし、セントを追いかけてきた奴とかいたら悪いが、頼んでもいいか?」

 俺の言葉に皆息をのんだ。

 「…死ぬかもしれんぞ?」

 「かもな。けど、あいつが居れば大丈夫だろ。」

 俺がそう言うとじっと俺を見ていたダダンはフと笑った。

 「なんで自信満々なんだよ?あの子がそんなに大切なのか?たった数日しか一緒に居なかったのに。」

 確かに数日しか居ないし、そこまで踏み込んだ会話もしていない。あいつは俺の事なんて何もしらねぇ。だけど。

 「さあな。けど、子どもの一人旅には保護者が必要だろ?それに、俺は行く当てもねぇしな。」

 俺も笑い答えるとダダンが背を向けた。

 「少し待て。金くらい持って行け。今までの給料渡してやる」

 そういうとダダンは自室へ戻って行った。

 俺は黙ってダダンの背を見送る。

 「ライド!おまえ、セントくんといつの間にそんな関係になってたんだよ~!」

 意味の分からない怪しげな事を言ってくる。

 「どんな、だ?そもそもお前のあの薬のせいでセントと…出会って…」

 そこまで言い、不思議そうに俺を見てくるロイを見る。

 コイツの変な薬を飲まされて女に追いかけられて、逃げた先でセントが降って来て…。

 「なんだか、変な出会いだな」

 俺は呟く。と、ロイは首をかしげ、そして床に眼を落とし何かを拾った。

 「ライド、セントくんから手紙だよ。…随分達筆だな」

 中を覗くロイから手紙を奪う。

  


 ー随分疲れているようなので、起こさず出て行きます。

 短い間だったけれど、お世話になりました。

 宿の皆さんにもよろしくお伝えください。

                セント


 「…あいつ」

 「よろしく、か。随分大人びた子だったな、ライド」

 「ああ。」  

 「しかし、ライドが居なくなったら、からかう相手居なくなって寂しいなー」

 ロイはそう言い頭の後ろで腕を組んで部屋を出て行った。

 

 ◇

 

 暗闇の中を駆けて行く。

 宿から持って来た灯りを片手に、片手には手綱を。

 

 ◇

 

 宿を出てすぐに行きつけの飲み屋へ寄った。

 短い間だったがだいぶ世話になったし挨拶をするつもりだった。

 「あ!ライドさん!セントちゃん、出て行っちゃったよ!」

 「ああ。知ってる」

 マスターは俺の顔を見て何かを悟ったらしい。突然、待ってて、と言うと店の奥へ入って行き、その後店の入り口から現れた。

 「ライドさん、こっち」

 呼ばれるがままに外へ出ると店先に立派な馬が居た。

 「どうしたんだ?こんな立派な馬。」

 「餞別だよ。ライドさんとは短い間だったけれど、随分楽しく過ごさせてもらったし、馬、必要だろう?」

 確かにあれば便利だ。荷を乗せて運ばせる事も出来るし、なにより乗ってゆけるから移動が楽だ。

 

 だが。


 「餞別っても、こんなすげぇ餞別もらえねぇよ。」

 俺が言うとマスターは黙って俺を見つめ、馬の頬を撫ぜた。

 「セントちゃん、馬買って行ったみたいなんだ。挨拶に来てくれたとき、馬に乗って行くって言っていた。だから、ライドさんも無いと追いつけないだろ?」

 「マスター…」

 「ライドさんの事応援してるよ。セントちゃんは誰か側に居てくれる人が必要なんだよ。強がって見えるけれど、寂しいんだと思うんだ。たまになんだかとても思い詰めた顔するだろう、あの子。だから、ライドさんが側に居てあげて、その心少しでも癒してあげて。ね?」

 マスターは一人旅をしていたセントがよほど心配なのか、俺に手綱を握らせた。

 「わかった。遠慮なくもらうよ、マスター。本当にありがとな。」

 マスターは頷くと笑みを浮かべた。

 俺は馬にまたがると、マスターにまた必ずやってくる、と約束をし、そのまま走らせ始めた。

 

 ◇


 ーしかし、あいつ金無かったんじゃねぇのか?馬買う金なんてどこから…

 少し考え、俺はなんだか嫌な予感がした。

 途中、休憩した時に懐にしまっていた財布を引っ張りだした。

 「あいつ…」

 仕舞っていた金が無くなっていた。

 いや、しかし俺の持っていた金だけじゃ到底馬なんて買えない。

 ーまさか、盗み…いや、あいつがそんなことするはずない。

 じゃあどこから金を…少し考えるがどうにも分からない。

 これ以上考えるのを止めることにした。

 いくら考えてもわからない。それなら当人に聞くまでだ。

 それに、今の俺にはダダンからもらった金がある。それがあればしばらくはなんとかなる。

 休憩をそこそこにマスターが聞いたと言うセントの向かった方角へ再び走りだした。

 「絶対見つけ出して金返してもらうぞ!」

   


 その頃。

 セントとライドが居なくなった町中では(にわか)に騒ぎが起こっていた。

 夜更けに闇に紛れてカプリチオ国王が右腕ズイが再び現れ、子どもの事を調べていたのだ。

 それと同時に町中にやたら体格のいい旅人風の男達が何人も訪れた。

 その男達は普通の旅人を装っていたが、ダダン達のような特殊な仕事をしている者から見れば到底普通の者ではない事が分かった。それ故、その夜、悪さをする者は一人として居なかった。

 

 

 「あの…」

 宿の一人が躊躇(ためら)いがちに尋ねてみる。

 「その、お探しの子どもは何か悪いことでもしたのでしょうか?」

 「…いや」

 質問にズイはまだまだ現役だが、いくつもの修羅場をかいくぐり、いつの間にか眉根に少し皺が増えた顔を向けた。

 彫りの深い顔にきりっとした力強い眉が特徴で涼しげな目元が何か違う事を考えて居るようだった。

 質問者に顔を向けては居るが見ては居ない。

 少しの間を開けフと尋ねて来た人物を見、ズイが答えた。

 「悪い事と言えば悪い事ではあるが…。刑に処されるような悪い事ではない。」

 「?」

 意味深な言い方に首を傾げ、ズイを見ると、ズイはああ、とかすかに笑う。

 「分かりづらい事を言ってしまったね。忘れてくれ。さて、夜更けに失礼した。」

 そう言うと宿を後にした。

 明け方には、町にやってきていた旅人風の男達はどこにも居なくなり、また、セントを襲撃した闇の者も男達が姿を消すと同時に消えていた。

 


 終章

 

 賑わった町中に白い、物売り風の後ろ姿が見える。

 周りの物売りの声がBGMのごとく流れる中。

 俺は駆け出し、その腕をつかんだ。

 「!」

 振り返った人物の深くかぶったマントの下では驚き、大きな瞳をさらに大きく見開いた顔があった。

 「よぉ。」

 「なんで…ここに?」

 驚いたまま、まるで機械のように話す。

 「そりゃ、保護者だからだろ?」

 俺はニィっと笑った。

 だが、セントはなんだか府に落ちない表情で俺を見る。

 「よく見つけましたね」

 「カンだ。」

 「カン、ですか。」

 「ともかく、ここじゃなんだしどっかで話そうぜ。お前さん宿、決めたのか?」

 「…いえ。と、言いますか私は一人で大丈夫ですから。私と居ると命の保証、出来ないっていいましたよね?」

 強い口調で言ってくるが、そんなことで俺は怯まない。

 

 「ああ。聞いた。けど、俺はお前さんが思う程弱くねぇよ?それに、お前さんだってどうなるかわかんねぇだろ?実験体にされたら酷い目にあうかもしれねぇし。それなら、一人より二人で居た方が楽しいし、なんとかなるだろ」

 「べつに、楽しいとか楽しくないとか、そんなのはどうでも…」 

 「よくねぇよ。楽しい方がいいに決まってる。ま、とにかく飯食おうぜ。」

 俺はまだ何かを言いたげなセントの手を握り、逃げないようつないだまま歩き出した。

 「手、離してください!」

 「離したら逃げるだろ」

 「大きな声出しますよ」 

 「おお、出してみろ」

  すうっ

 大きく息を吸い、セントは声をあげようとする。

 が。

 俺はその細い腰に手をやり引き寄せた。

 「キスするぞ?」

 「!!」

 セントは驚いたように目を見開き、絶句した様子だ。

 道の真ん中だったから人目はあったが、殴り合いの喧嘩をおっぱじめる輩も居るくらいだ。皆見慣れているのか誰も何も言わない。

 ときたま、冷やかしの声が聞こえてくるくらいだ。

 「なんだ?声、あげないのか?」

 「…。」

 セントはムっとしたまま目をそらす。

 俺は笑い、セントを離すと手を引き歩き始めた。

 「ま、お前さんが無事家に帰れるようになるまでついててやるよ。」

 「!!」

 俺の言葉にセントから嫌そうなオーラを感じたが、何も言って来なかった。

 「それに、俺の金、盗んだだろ」

 「!」

 更にセントから無言だが何か言わんとする空気を感じる。

 「とりあえず金あるからいいけどな、返してくれるだろ?」

 「…いたいけな子どもからお金を巻き上げるつもりですか」

 振り返ると少し俯き加減でポソっと答えたのが聞こえた。

 「巻き上げるんじゃねぇよ。俺の金だろ。てか、金足りなかっただろ。馬、どうやって手に入れた?」

 「…秘密だ」

 「なんだよ、盗んだのか?」

 「ライドさんからしか盗んでいない。とにかく、秘密だ。」

 「そういや、馬いねぇな。どこに置いたんだ?」

 「…」

 「なんだ、キスしてほしいのか?」

 腕を引き、体に手を回すとセントは嫌そうに答える。

 「馬屋がある宿に置いて来た。」

 「そうか。ならお前さんの宿に行こう」

 「!」

 「どっちだ?」

 セントは観念したのか黙って指差した。

 俺はその方向へ歩き出した。

 

 ◇


 その後、セントは不満そうだったが、俺が言う事を聞かないし言っても無駄だと思ったのか、俺の問いに答えられる範囲で素直に答え、共に居ても何も言わなかった。

 その日の夜、宿の食堂じゃなくて外で食事を済ませ宿へ戻ろうとしたところで俺とセントは立派な馬車に遭遇する。

 大きな町だから人口密度も多く高貴な人間も住んでいるのだが、夜も更けてきた時間帯の市場の立つ所に位の高い人間が現れるなんて珍しい。なんて思いながら俺とセントは行き過ぎるのを待っていた。

 の、だが…

 突然馬車が停まったかと思ったらドアが開き、行者がそっとドアを開くと中から淡いピンク色のドレスに身を包んだ見るからに貴族のお嬢様が現れた。

 降りて来たのはお嬢様だけだ。他には誰も乗っていないらしい。

 その人物は俺たちの前までやってくるとにっこり笑みを浮かべた。

 「初めまして。貴方、雇われ傭兵やりませんこと?」

 「…は?」

 「…」

 俺は思わず変な声をあげたが、お嬢様は気にした風でもなく、俺とセントを興味深げに交互に見る。

 「私、この町の西に屋敷を構えるフェリーアーテ伯爵の屋敷に住んでおりますの。」 

 「はあ」

 「たまに町中を見物したくて馬車を走らせてもらうのだけれど、貴方達にとても興味を覚えました。うちへいらっしゃらない?なんなら泊まってもらってかまわないわ。ああ、そうしましょう。じい!この方達のお荷物を屋敷へお運びして!…ねえ、お宿はどちら?」

 「いや、その…おい、セント…」

 俺はなんと答えればいいのか分からずセントを見るとセントはだまってお嬢様を見ていたが、なんだか楽しげにニコニコ笑うお嬢様に小さく息を吐き静かに答えた。

 「町中の中央の通り沿いの二つ目の角にある大きな宿です。馬も…私とこの男のものが二頭程…」

 「おい!?」

 

 ーナニ素直に答えちゃってるんだよッ!?知り合いなのかッ!?


 俺の言葉を無視し、お嬢様は楽しそうにじい、と行者に声をかけた。

 「きっと、トライトだわ。この辺りの馬屋付きの大きな宿と言ったらあそこしか無いもの!じい、後で取りに行って来てちょうだい。さ、あなた方は私と共に屋敷へ向かいましょう!」

 「は?え!?ちょっ…おい!」

 俺とセントは引きずられるようにお嬢様に手を引かれ、無理矢理と言うべき強引さで馬車に乗せられた。

 「おい、セントっ」

 小声でセントに話しかける。

 と、セントがどうやって固定しているのか、さっきからピクリとも動かない顔隠しの布の下から静かに答えた。

 「こうゆう場合は抵抗しない方がいい。…私は女性には弱いのだ。」

 「はあ!?お前さんだって、女だろーがっ」

 「どう見られるかにもよるが、基本的に男に見られやすいからそれで通している。自分から性別をバラスのは時に不便な時もある。」

 確かに、一人で旅をしているならば女だと言う事はわざわざ言わない方がいいに決まっている。

 俺はセント論に一人納得しているといつの間にか馬車が動き出していた。

 

 ーいや、待てよ!納得してる場合じゃねぇ!なんでこんな展開!?つーか、セント、何も言わないなんておかしいだろッ!俺には冷たい事を言ってくるくせに!

 

 唸りたい衝動を抑え、ふと顔を上げるとお嬢様は嬉しそうに俺とセントを交互に見つめていた。

 


 何故俺とセントに目をつけたのか。

 何故傭兵と切り出して来たのか。

 何故、こんなにも強引で突然なのか。


 謎だらけだが、こうなったらどうやら従うしかないようだ。

 セントは何を考えているのか窓の外を眺め黙っている。


 ーあーあ…まるで拾われた猫みたいに大人しくなっちまってる…


 仕方ない。俺も黙って言われるがままに屋敷へ連行されることにした。

 

 そうだ、名前くらい聞いておこう。

 そんな事を考えている間に馬車は森の中へ突入していた。

 

 セントと折角出会えたのに、俺の今後、どうなることか。

 物語はまだ、続きそうだ。

ご愛読ありがとうございました。

一旦ここで完結です。感想等、何でもよいのでいただければ幸いです。

話しはまだ続く予定ですので引き続きご愛読よろしくおねがいします。

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