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ホゴシャな日々  作者: 望月 沙夜
お屋敷で傭兵編
14/15

2-8

 「もう、いいか…?」

 俺は木を除け、辺りを見回した。

 フーっと大きな息をはく。

 

 「あーマジ見つかるかと思った!」

 

 地面に手をつき、ようやくやりすごせた事を実感した。

 

 「変な筋肉使ったぜ。」

 呟き、手と膝。そして体をパンパンとはたき葉っぱや土を落とす。

 そしてさっきまでいた場所を見ると男が固まってイヤ、強ばった様子で、俺を見ていた。

 

 「大丈夫か?」

 「…どうして」

 「ああ、馬なら大丈夫だ。国境越えればすぐ町だしな」

 「ルイル国に行くんじゃ…」

 「いや…なんだか気になってな。」

 

 そう言うと頭をポリポリとかきそっぽを向きながら言う。

 

 「いいタイミングだったな。間に合って良かったぜ。」

 「なんで助けてくれたんだ」

 「ダメだったか?…あんたが気になって仕方なかったんだ。変な意味じゃねぇぞ?」

 「いけない!どんな事に巻き込まれるか分かっているのか?貴方は…貴方と言う人は…!」

 その表情に、言い方に妙に納得したんだ。

 妙な感覚がしたのは、コイツがセントに重なって見えたんだ。

 

 「…セント」

 

 思わず名前を呟いてハッとなる。

 「な、ワケねぇよな!わりっ!…!?」

  


 突然だった。

 謎の光に覆われ辺りが見えなくなった。

 俺は目を押さえた。

 

 「おい!?なんだ、今の光は!大丈夫か!?」

 目が見えない。

 なんとかあの男を確認しようとするが、その姿さえみえない。

 何度か瞬きをし、ようやく辺りが見えるようになり男が居た場所を見るとそこに男の姿は無かった。代わりに居たのは。

 「……セント?」

 困ったような、驚いたような表情のセントがそこに腰が抜けた様子で座って居た。

 「お前さん、一体どこから…てか、俺くらいの男、見なかったか?アイツ、どこ行ったんだ?」

 ワケが分からない。

 頭がその場の状況を整理できないでいた。

 すると。

  

 「うわっ!?」

 

 セントが突然抱きついてきた。

 コイツがこんな事をするなんて初めての事だった。

 

 「どうしたんだ!?なんかしたか!?」

 

 抱きとめながらも、頭の中は処理が全く追いつかない。

 「何も考えなくていい。ライド。私の正体を見破ったのは貴方が初めてだ!」

 「見破る…?」

 セントはクスっと笑うと俺の顔に手を伸ばし、そのまま引っ張った。

 グキッ

 と、もれなく骨でも折れそうな音がする。

 「いでッ!!お前さんなぁっ!何すんだよっ!」

 涙目になり、わずかに睨むと目の前に現れたのは今までの日に焼けた姿ではなく、あの真っ白な美しい彫刻のような肌に金糸のような髪が一瞬見えた。

 思わず引き込まれるように、されるがままに顔を近づけるとセントは見た事のない笑みを浮かべそして、そのまま俺の首筋にその唇をあてた。

 「!」

 驚き過ぎて言葉が出ない。

 すると、セントは耳元で小さく呟いた。

 「…これからも、私の後を追うつもりですか?」

 「…ああ。お前さんが家に帰るまでずっと保護者だ。いくらでも、追いかけて見つけてやる」

 「そう、ですか」

 少し離れ、至近距離で俺を見つめるとすぐに笑みを浮かべそれじゃあ、と呟いた。

 

 「見やぶられてしまったからには仕方が無い。貴方には私の印…おまじないをかけさせていたさきます。」

 「…なんだ?印?」

 「しるし、ですよ。…いつの日かそれが貴方を助ける事もあるでしょう。」

 そういうとセント聞いた事のない言葉を呟きだした。同時にセントがキスした首筋が酷く熱い。

 「なんだ…っ!?」

 俺が慌て始めてもセントは不思議な言葉を呟き、そして再び俺の首筋に唇をあてた。

 

 その瞬間。

  

 ドクンっ 

 

 首筋が熱くなり、体に何かが、一気に流れてくる。それが一番わかりやすい表現だ。

 そして抱きとめているセントをどうしても自分のもモノにしたい衝動。

 「…これで、貴方は少しの事では死なない。ずっと、私の“印”が貴方を護り続けるでしょう。……ライド?」

 セントの言葉なんてこれっぽっちも耳に入っていなかった。

 かろうじて、印、おまじない、と聞こえていたがそれどころじゃぁなかった。

 

 だってこのままセントを押し倒してしまいたくて仕方が無かったのだから。

 それを押さえるのに必死だった。

 ぎゅっとセントを抱きしめると、セントは黙ってされるがままになる。そして、少し心配そうな声が聞こえる。

 「…ライド?苦しいよ」

 確かに、俺は普通に抱きしめるよりも強く、まるでしめつけるように抱きしめていた。そしてセントの肩に顔を埋めていた。

 「ライド?」

 再度呼ばれ、俺はようやく抱きしめる力を緩める。

 「…悪い…。」

 なんとか絞りだすように声を出す。

 すると、優しく両頬を包まれた。

 

 「具合でも悪くなった?少し休む?」

 

 瞳を覗き込むように、至近距離からセントが尋ねる。

 今までだったら絶対しない所作に言葉。

 俺は少し驚くが、いや、と返事をする。

 「大丈夫だ。ただ、その…お前さんが可愛くてつい…」

 そう言い頭を撫でるとセントはこつんと俺の額に自分の額をあてた。

 「大丈夫か?やはり、うまくいかなかったのかな。…熱はないな」

 そう言うと俺から離れて荷を探ろうと…

 「…ライド。離してくれないか?これじゃあ動けない。」

 未だ抱きしめたままの俺にセントは顔を戻し抗議するように言う。

 けれど。

 

 「もう少しだけ…こうしていたい」

 ここに居る事を、俺の側に居る事を…確認したくて。

 今まで感じた事のない、不思議な気持ちだった。

 「…甘えん坊だな」

 クスっと笑うとセントも俺の背に腕を延ばし抱きしめてきた。


 ◇

 

 「オラクル国に入ってなんかするのか?」

 セントの馬に俺の荷を乗せ、オラクル国に向かい夜道を歩きながら。

 「会いたい人が居るんだ。」

 「そうか。まず宿とらねぇとな。」

 「そういえば、ライラ様、荷の中に食料や旅の道具、それにお給金もこんなに弾んでくれてたみたいだね」

 セントは懐からゴソゴソ皮の袋を取り出し開くと中には金貨が大量に入っていた。

 「マジか!お前さん、胸が三つあると思ったら…ぐわっ!」

 「スケベライドっ!何を考えているんだっ!」

 セントは起用に飛び蹴りをし、俺はそのまま道ばたに倒れる。

 「もう近づかないっ!変態っ!」

 「あのなぁ。抱きしめれば体つきくらいわかるだろ…イテテ」

 俺は立ち上がりながら言うと更にベシベシッと頭を叩かれる。

 「痛っ!お前さん、ここで俺を殺すつもりかッ」

 その腕をつかみようやく止めるとセントは頬を赤らめ少し涙目だった。

 「…なんでそんな可愛い顔するんだよ」

 「可愛くないっ」

 「しかたねぇなぁ」

 「ちょっ…!?何!?」 

 俺はフーと息を吐くとセントを抱き上げ馬に乗せた。

 「俺が襲う前にいつもの顔に戻しておけ。いいな?」

 「襲うって!?何!?」

 「っるせ!ともかく!可愛い顔すんなッ!」

 俺はそういうと馬を歩かせはじめる。セントは荷に捕まり転げ落ちないようにしていたが、それ以上なにも言わなかった。

 

 ーヤバイ…マジで襲いそうだ。 

 さっきのセントの首筋のキスからこっち、セントが可愛くて、ずっと側に居て、抱きしめたくて仕方が無い。

 いや、そもそもセントに対して不思議な気持ちはあった。

 けど、妹のように可愛くて、そしてほおっておけない。ただそれだけだと思っていた。

 のに。

 なんで、こんなにも気になって仕方がないのか。

 ーいや、今もかわんねぇ。コイツは妹みたいに…

 セントを見上げると目が合った。

 

 ドキッ

 

 ドキンドキンドキンッ

 ーなんだ、俺?!どうしちゃったんだ!?

 

 こんなに胸が高鳴るなんて。

 ー俺、おかしいぞっ

 

 なんだかわからない気持ちを胸に秘め、俺とセントはオラクル国に入って行った。

 

 


 終章

 

 「ライラ殿。この度は大変失礼いたしました。壊れた窓、その他修繕カ所、王宮より修繕費が降りますので後日お届け致します。」

 「お気になさらないでくださいませ。それより、くせ者を全て捕まえて下さって大変助かりました。」

 フェリーアーテ伯爵家での騒動はすでに落ち着き、皆後片付けをしていた。

 その中で、ライラ嬢とズイ隊長は被害の無かった応接室で茶を飲んでいた。


 「…しかし解せませんね」

 「何を、ですか?」

 「いえ、我が隊では無い誰かが、くせ者を一人、捕らえていたようなのです」

 「まあ!それは我が屋敷の…」

 「ええ…そうだと思いますが、あの剣さばき、私が良く知るお方のモノと類似しているのです。」

 「まあ…!それは、ズイ様がお探ししておられるお方のことですか?」

 ライラ嬢の言葉にズイ隊長は眉をピクリと動かした。

 「フフ、噂です。有名な噂ではございませんか。知らぬものが居ない程に。」

 ライラ嬢はティーカップを持ちあげ一口飲んだ。

 ズイ隊長はフと笑う。

 「さすが、陰の外交を統べておられると専ら噂のお方ですね。耳も聡いようだ。」

 「あら、陰なんて…ただすこしお父様のお手伝いをしているだけですわ。」

 艶やかにフフフっと笑う。

 「少し、ですか。まあそこは我が国も助けられているところ。何も申し上げません。しかし…あのお方の事は申させていただく。」

 「お匿まいなさるな。貴女といえども手加減は致せませんぞ!」

 「あら…」

 ライラ嬢は扇子で扇ぐと、笑ったまま答える。

 「怖いお顔をなさっても…私、傭兵は沢山雇っておりますの。その中に、もしかしたら紛れ込んでいたのかもしれませんわ。」

 「シラを切るおつもりか!」

 「さあ…シラもなにも、本当に分からないのですからどうにも答えようがありませんわ。」

 その時。

 コンコンっ

 ガチャっ

 「失礼致します、隊長」

 ズイ隊長の兵が現れズイ隊長に耳打ちする。

 「何っ…」

 ズイ隊長はすぐにライラ嬢を見るとわずかに眉根を寄せた。

 「どうやら、こちらにはもう居られないようだ。他をお探ししていた兵から逃げ仰せられてしまったと報告が。」

 「そう、ですか。」

 「…どうやら貴女には一杯食わされてしまったようだ。」

 「そんなこと、ございませんわ。」

 「もう行かぬとなりません。失礼いたします。」

 「お気をつけて」

 立ち上がり、頭を下げるズイ隊長にライラ嬢も立ち上がり、式礼を取るとそのまま背を向けるズイを見送った。


 

 「お嬢様っ」

 現れた侍女にライラ嬢はふうっと息を吐き笑みを向ける。

 「大丈夫よ。さ、壊れた所の修繕をしなければね。それから亡くなった者達に花を。」

 「は、はいっ」

 「少し、忙しくなりそうね…」

 呟くように言うと濃紺と闇が混じった外を眺めた。

 空には星が輝いていた。


ご愛読ありがとうございます。

この部で一旦第二章は終了とさせていただきます。

第三章も用意しておりますので今後ともご愛顧宜しくおねがいいます。

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