2-6
「はー」
ボリボリボリ
息をはき頭をぼりぼりとかく。
セントの事、ライラ嬢の謎のお怒り。
確かに、俺が悪い。部分もあるけど。
「…別にそんなに責めなくたっていいだろ」
そんな訳で、どんなワケだ!
三時のティータイムはご立腹の様子のライラお嬢様にどこか悩んだ様子のセント、そしてどうにも居たたまれない俺。
そしてそんな空気になんとか耐える侍女達。
変な空気が流れる中、ライラ嬢が口を開いた。
「良い事思いつきましたわ。」
呟くと背後に立っていた俺とセントに振り返る。
「舞踏会開きます。二人とも、是非出席してくださいませ。」
「…」
「…舞踏会?」
セントは言葉を無くし、俺は反復する。
するとライラ嬢は楽しげに頷き答える。
「ええ!舞踏会ですわ。」
「…申し訳ありませんが私は出席しかねます。」
セントが静かに断る。
ライラ嬢の表情がみるみるうちに曇り始める。
「イヤ、ですの?」
「私とライドは貴女をお守りする為にここに居ります。舞踏会に出席するとなると職務を全う出来なくなる可能性があります。どうか、ご容赦ください。」
正論をライラ嬢に突きつけセントは頭を下げる。
するとライラ嬢は言葉無く不満そうに眉根を寄せセントと俺を見るがすぐにプイっと背を向けティーカップを傾けた。
「お前さん、誰にでも物怖じしないのな。ヒヤヒヤしたぜっ!」
夕食前で任務を解かれ自由時間をもらい、俺とセントは軽く手合わせをしていた。
「言うべき事を言っているだけです。」
普通に話しているが、木刀を振ってくる力、早さは予想以上だ。
ガキッ
木と木がぶつかり合う音が響いた。
「お前さん、力強いな」
「ライドさんも自画自賛されるだけありますね」
「そりゃどーも…っ!」
「!」
少し力を緩めるとタイミングを逃したセントはそのまま前のめりになり、体制を崩す。
「おっと…」
俺は木刀を下ろし、抱きとめた。
「今日はここまでだ。」
「ライドさん、手加減していましたね」
セントは腕の中から不満そうな声を上げる。
「初めて手合わせするのに全力でいくのも考えものだろ。お前さん、女の子だし」
ポカっ
「てっ」
セントが持っていた木刀を俺の頭に軽くぶつけた。
「失礼です!」
「はぁ!?」
そう言うとセントは俺から離れ、背を向ける。
「汗かいたのでお風呂に行ってきます。先に言っておきますが、ついて来たら酷い目に合いますからね」
少し振り向き言うとさっさと歩き行ってしまう。
「…何怒ってんだ、あいつ」
呟くと周りから傭兵達が現れ俺を取り囲む。
「あんたらすげぇな!」
「ただのハンサムじゃねぇとおもっていたぜ!」
「どこで覚えたんだ?自己流か?」
勝手な事を言われたり質問されたり、俺は適当に答えるのに精一杯だった。
そしてこの後日とんでも無い事に巻き込まれるとは思ってもいなかった。
それから数日。
いつの間にかライラ嬢の機嫌も直り、今まで通りの警護生活が過ぎて行った。
そんなあくる日。
朝目が覚め、身支度を整えセントと共に食事をし、その日の予定を聞きライラ嬢の元へ向かう為広く長い廊下を歩いていた。
セントが歩きながら何度か俺を見た。
「なんだよ?俺の顔になんかついてるか?」
尋ねるが、いや、と答えそれ以上何も言わなくなる。のが、大体いつもの事なのだが、その日は違った。
「…ライドさんは私の他に誰かの後を追いかけた事はあるんですか?」
「は?…なんだよ、突然」
思わず足を止めセントを見るとセントも歩みを止め俺を見上げる。
「聞いたらいけませんか?」
「いや…。」
自慢じゃないが女の尻を追いかけた事なんて一度も無い。むしろ追いかけるよりも追いかけられる方だったのだが…
俺は、コホンと咳払いをするとセントを真っすぐに見つめる。
「お前さん以外、誰も追いかけたことなんてねぇよ。」
セントはまっすぐ俺を見つめていたが、フイと視線を反らし、そして呟くように言った。
「それじゃあ今後の為に忠告しておきます。」
「なんだよ?」
そして俺に向き直る。
「もう、誰の後も追いかけない事だ。貴方は人が良すぎる。何かに巻き込まれて命を落としてから間違いに気づいても遅い…。」
「何の忠告だよ?」
「自分の命を大切にしろ、と言っているんです。」
そう言うとセントは俺の胸を拳で軽く小突いた。
「またその話しかよ。お前さん、なかなか強情だよなぁ。」
歩き出し言うとセントは俺の後を追いかけるように歩き出し、珍しく俺の服をつかみ強い口調で言う。
「強情とかそうゆう話しではありませんっ!貴方の事を心配して言っているのです!」
「なんだよ、心配してくれるのか?」
「…こんなに長く他人と共に居たのは貴方が初めてです。その間に不本意ながら何度か貴方に助けられた。…貴方にはずっと生きていてほしいと思っています。だから、危険な事にはもう首を突っ込むのは止めてください。」
「…」
「ライドさん?」
セントはなんだか不思議そうに、伺うように俺の顔をみつめる。
ーやばい…なんか嬉しい。
初めてセントの気持ちをキチンと聞いた気がする。俺を心配だの、ずっと生きていてほしいとか初めて言われた。
もしかしたら俺は笑っていたかもしれない。自分ではどんな顔をしていたかはわからなかった。
ポンポンっ
セントの頭に軽く何度か手を乗せた。
「そんなに心配しなくても俺はそう簡単に死なねぇよ。」
セントは黙って俺を見上げていた。
そんな出来事にほんわり嬉しかったりするのだが、それからすぐにその余韻を打ち壊すようなバタバタとした足音と、傭兵の叫び声が響きわたった。
「ライラお嬢様っ!」
「何事ですの?」
「大変ですっ!カプリチオ国王直属部隊がいらっしゃいましてっお嬢様にお話がしたいそうで…っ!」
ーカプリチオ国王直属部隊…?こんな国境近くの町までなにしに来たんだ?
「すぐに向かいます。部隊隊長殿を応接室にお通しして。」
「ハッ」
「かしこまりました」
傭兵と、控えていた侍女がすぐに部屋を出て行く。
するとライラ嬢は振り返り、俺とセントを交互に見、そして肩をすくめた。
「こう大々的にいらっしゃるとお断りすることもできませんわ。流石国王の右腕、ズイ様」
ライラはフウっと息を吐くとセントの元に行き、そして何事かを呟くとセントは頭を下げ足音も無く部屋を出て行った。
「ライド様。一仕事してくださいます?」
「はっ」




