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ホゴシャな日々  作者: 望月 沙夜
お屋敷で傭兵編
11/15

2-5

 「おう、セント嬢ちゃん!ちゃんと飯くったか?」

 「はい。おはようございます。」

 「おー。セントちゃん!この間みたいに奇麗な格好しないのかい?」

 「あれでは動きづらいので」

 「なんだ、残念だなぁ。セントちゃんのあの姿にみんなみとれちまって、すっかりファンになっちまったんだぜ!」

 「しかしなんだなぁ。そこで怖ーい顔して睨んでるハンサムが居るけど、にいちゃん、ライラお嬢様の警護じゃなくてセントちゃんの警護してるみたいだな。」

 

 翌日からセントは大人気だった。

 

 歩く度に誰かしらに声をかけられる。

 中にはセントの頭を撫でようとしたり、手をつかもとしてくる奴までいた。

 

 見張っていないと何をされることか!

 セントの背後に立ち、それを阻止する。

 それが俺のここ数日の勤めだ。ちゃんとライラ嬢にも了解を得ている。

 「ライドさんのことなら気にしないでください。ここ数日変なんです。お風呂の行き来までついてくるぐらいですから流石にトイレはお断りしましたけれど。」

 そう言うとガハガハ笑っていた男達は静まり返り、俺を見て来た。

 「…なんだよ?」

 まるで信じられないとでもいうような表情だ。

 俺の声なんか聞こえていないんだろうな。

 セントも何か変な事言ったかな?と少し困惑気味の表情だ。

 「あんた、本当にセント嬢ちゃんの事…」

 「そんなにハンサムなのに、そんな趣味が…」

 そう言うと男達は黙って俺のそばまでやってくると俺の肩や背を叩き、黙って頷き去って行った。

 最後に頑張れよ、と言葉を残して。



 「…何を頑張るんだ?」

 ーなんだか勘違いされてるんじゃ…

 

 「さっきのアレ、どうゆう意味だったんですか?ライドさん、何か頑張る事あるんですか?」

 

 「おわっ!?お前っ!どこから現れて…っ!」

 

 突然目の前にセントの顔が現れ、俺は驚き後ずさった。

 

 「さっきからずっと声かけていたのに、聞こえていない様子だったので近づいてみました。」

 

 本当に鼻の頭がくっつきそうなくらい近くにセントの顔があり、その大きな青い瞳に俺の顔が映っているのが見える。

 「なにか考え事ですか?」

 「あ、ああ」

 「あまり悩んでいるとご飯を食べる時間なくなりますよ?」

 「へ…?」

 言われ顔を上げると時計の針が一時近くになっていた。

 「いつの間にっ!」

 「ライドさん、だいぶ長い間ぼーっとしていましたよ?何度も声かけたのに聞こえていないみたいだったし」

 セントは俺から離れ、自分の席へ戻る。

 「お茶も冷めちゃってますね。淹れ直しましょうか。」


 いつここにやってきて飯を食べ始めたのか、全く覚えていない。

 ただ、セントが俺の手を引いて歩いていたような記憶がある。

 

 昼はいつも従業員用の食堂とは別に用意された個室で飯を食べているのだが、結構豪華だ。

 はっきり言って、傭兵が与えられるような食事ではない。

 俺が受けて来た待遇の中では一、二を争うくらいのVIP待遇だ。

 食事がテーブルに用意されていて、メイドまで控えていて食事を運んで来てくれる。

 けれど、大体の食事を運んでもらうとメイドには下がってもらい、俺とセント二人で食事をとっている。

 「はい、どうぞ」

 メイドが居なくなった室内でセントが茶を淹れ、俺の前に置いてくれた。

 「サンキュ」

 急いで滅多に口にする事が出来ないものばかりの食事を済ませる。

 「それにしても、何をそんなに悩んでいたんです?」

 茶を一口、優雅に口に運ぶと俺をまっすぐ見つめ尋ねてくる。

 「や、別にとくに悩んではいないけどな…」

 「そうですか?他の傭兵の方々とお話した後辺りからなんだか様子がおかしくなって、動かなくなったんで、すっと手を引いて歩いていたのですが…覚えていないですか?」

 

 ゴフっ!

 

 思わずむせると、セントが少し心配そうに見つめてくる。

 「手を、ひいて…?」 

 「はい。なんだか考え込んだ様子になっていたので…」

 体中から変な汗が吹き出て来た。

 「途中、誰に出会った?」

 「えーと…メイドの方々に執事さんに…ライラお嬢様…それに…」

 「待て!」

 俺はパンを置くとセントを見据え尋ねた。

 「屋敷全て歩いたのか?」

 「はい。ライラ様の護衛が仕事ですので。でも途中でライドさんが元に戻らないからって早めに昼食にしていいって言われて…。最初は無理矢理食べさせていたんですけど…記憶あります?」

 「…ない」

 ー無理矢理食べさせるってなんだ!?

 頬を汗が伝うのを感じた。そんな事に気がつきもせずセントは話しを続ける。

 「記憶、ないですか。面白かったからいいですけど…ともかく、早く食べてしまってください。」

 セントに言われ俺はスープだけでもすべて食べようとスプーンを手に持った時、ドアがノックされ、返事をする間もなくライラ嬢が現れた。

 「ライラ様」

 セントが慌てて立ち上がり、俺も続いて立つと頭を下げる。

 と、ライラ嬢は俺を見るとほっと息をはき、俺の前にやってきた。

 「お二人とも、お顔をあげてくださいませ。」

 顔を上げるとライラ嬢が俺を黙って見つめていた。

 「元に戻ったのですね。よかった。」

 そういうと息をはき、そして俺とセントを見笑みを浮かべる。

 「セント様、ライド様が元に戻ってよかったですわね。」

 「は。ご迷惑をおかけ致しました」

 「すみません…俺、記憶になくて」

 セントが言った後俺が続けるとライラ嬢は少し驚いた表情になりそしてフウと息をはき、頬に手をやった。

 「あんなに仲睦まじかったのに…覚えていないなんて、残念ですわね。」

 「は…?」

 ー仲、睦まじい…?…俺とセントが?

 「ライラ様、私とライドは特別仲が良い訳ではありません。」

 セントが珍しく反論すると、ライラ嬢はセントの元へ行き、その顎に手をやり上向かせる。

 「誰がどう見たってあの様子はとっても仲睦まじかったですわよ、セント様。あんなにライド様の事を大切に扱ってらっしゃるの、初めて見ましたわ。」

 そう言うとクスッと笑い、セントから手を離す。

 「ライド様。どうやらセント様にミャクが無い訳ではないみたいですわよ」

 「…!?」

 ライラ嬢の言葉の意味が分からない。

 最近良く言われる、俺とセントの事らしいが。

 俺が怪訝な顔をすると、ライラ嬢は少し笑い、そして俺とセントを見、背を向けた。

 「少し、お部屋でのんびりしますわ。あなた方は昼食をとったら庭のバラを二人で摘んで来てください。そうね、三時のお茶の時にバラを飾りたいわ。それまでにゆっくりと吟味して選んでください。」

 そう言うとカツカツと靴の音を鳴らし部屋を出て行った。

 そして再び沈黙が訪れる。

 「なあ。別に問いつめるつもりもないけどな。お前さん、一体どんな風に俺を連れて歩いていたんだ?あの話し振りだとなんかおかしなことでもあったんじゃ…」

 俺が沈黙を破り話し始めると、黙ってライラ嬢を見送っていたセントが俺の元へやってきた。

 「ちょっと立ってください。」

 「?」

 言われるがままに立ち上がると、セントが突然俺の手を握って来た。

 「なっ!?」

 「まず、こんな感じで。」 

 それから…と、今度は俺の左側にやってきて、俺の腰に手を回す。

 「こうしないと変な方向に歩いて行っちゃうから。」

 そう言い、俺の手を自分の肩に回す。

 「!?」

 必死にセントが俺を誘導する姿を想像し、なんだか悲しくなると同時に恥ずかしさがこみあげてきた。

 コホンっ

 咳払いすると、肩に回していた手をセントの頭にそっと乗せる。

 「…悪かったな。こんな事、させて。」

 セントはそのまま驚いた表情で俺を見上げると、すぐにフフっと笑う。

 「ライドさん、まるでご老体のようでしたよ。将来、こんな感じで介護されるんだな、って想像つきました?」

 「おい。どんな悲しい将来だよ。言っとくけどな、俺は年取っても一人で歩くくらい足腰鍛えてるつもりだ。」

 「そうですね、ライドさんくらい筋肉ついていれば年をとられても一人で歩けるかもしれませんね。」

 そういうとセントは俺からはなれる。

 「さ、ライドさんごはん早く食べちゃってください。ライラ様がご所望のバラを摘まなくては。」

 「ああ。」

 俺はそうだった、と席に再び座ると急いで残りの食事を食べた。





 「なあ」

 「なんですか」

 昼下がりのフェリーアーテ伯爵家の広い庭には何種類かのバラが広い範囲で咲いていた。

 きっとこの地域ではバラを育てやすい気候なのだろう。少し裕福な家の庭には大概、バラが美しく咲いているのだ。

 そんな中に俺とセント二人きりなんてロマンチックな構図なのだが…

 「痛っ」

 「ああ、刺には気をつけてください…って言っても遅いですね。手、見せてください。」

 そう言うとセントはバラを切る為に持っていたハサミを置き、俺の手を取った。

 「大丈夫だ、後で手当してもらう。」

 「血出てますね…随分強く持ったんですね。」

 「まさかこんなに突き刺さるなんて思いもしなかったんだよ。バラを摘み取るなんてやったことねぇしな」

 「そうですね。バラは一般的には高級な花。そうゆう家柄で育ったかもしくは庭の手入れをした事がなければなかなかやる事が無い作業ですからね。…結構血、出てますね。」

 そう言うとセントは俺の指先に自らの唇をあてた。

 「な…っ」

 俺は言葉が出てこなかった。

 まさか、セントがこんな行動に出るなんて思いもしなかったんだ。

 「これですぐ治るでしょう。」 

 「…は?」

 治る?血が止まるとかそうゆう類いでは無く“治る”とセントは言った。

 セントが唇をあててくれた指先を見ると、確かに血は治まっているが…

 

 「それで、何のお話だったんですか?」

 「え?」

 「さっき、呼んだじゃないですか手を刺で怪我する前に。」

 セントは再びハサミを手に取るとバラに顔を戻し、飾るのに良さそうなものを探す。

 俺はその背を見、そしてさっき言おうとしていた言葉を続ける。

 「お前さん、いつまでここに居るつもりだ?」

 しかしセントは未だバラを眺め、ハサミを動かしパチンと摘み取り振り返る。

 「これ、持っていてくれますか。」

 そういうと俺が持っていた籠に入れる。そしてバラに顔を戻す。

 「…別に、ここが嫌だからそう言ってる訳じゃねぇぞ。ただな、今後どうするか考えてるのか?狙われてるんだろ?もしかしたら、ここにもそうゆう輩がやってくるかも…」

 「わかっています。」

 そういうと振り返り、俯く。

 「もしかしたら、私と間違われてライラ様が狙われるかもしれない。雇われている傭兵の方々が亡くなってしまうかもしれない。考えていない訳ではない。…けれど。まだ、先が見えない。どうするべきか…私はこれから…どうしていくべきか」

 そこまで言うと口を噤み、バラに顔を戻しパチンパチンとハサミを動かすと籠に入れた。

 「ライラ様の侍女の所にお渡ししてください。私、少し部屋戻ります。」

 「おいっ」

 俺の言葉よりも早く、声をかけた頃にはテラスから屋敷内に入っていた。

 「…あいつも悩んでるんだな」

 呟き、頭をボリボリかいた。

 

 ーやってしまった、か。


 セントが置いていったハサミを持ち上げ、籠の中に入れると屋敷の中に入った。


  

 「んもうっ!何をやっているんですのっっ!」

 「!?」

 屋敷の中に入った所でライラ嬢に出くわした。

 なんだか怒ったような表情だ。

 てか、ずっとここに居たのか?

 気づかなかった…

 すると、ライラ嬢は片手を腰にあて、片方の手の人差し指を俺の鼻先に突きつけるようにして言い放つ。

 「なんであの状況で失敗するんですの!?」

 「は?」

 ー失敗?

 体何のことだか全く分からない。

 すると更に怒ったように珍しく眉間に皺を寄せてライラ嬢は俺に詰め寄った。

 「ですから、何故あんなロマンチックなところでうまくゆかないんですの!?せっかく雰囲気出る場所を選びましたのに!」

 「へ?」

 「もうっ!ライド様、ヘタレってお呼びしますわよッ!?」

 とにかく、まくしたてられ何がなんだか全く分からない。そしてヘタレまで言われている。

 言わせてもらうが俺は一度だってヘタレとか女々しいとか言われた事がない。

 すると、見かねた侍女がそっと俺とライラ嬢の間に入ってきた。

 「お嬢様、ちゃんと説明しないとわかりませんわ。それに、えぇと、男女の中はなかなかうまくゆかないものですのよ…」

 その言葉で俺は合点がゆく。

 そうか。このお嬢様は俺とセントをくっつけようと雰囲気のある場所に二人きりになるようにセッティングしてくれたのか。

 ライラ嬢も侍女の言葉に、ムッとしながらも、それもそうね、と俺に向かい直し説明を始める。

 「失礼しましたわ、ライド様。私、セント様とライド様にうまくいってほしくてお庭のバラを摘んで来てくださいってお願いしましたの。けれど…私が一人もやもやする終わり方となってしまいました…。ライド様、セント様とはうまくゆきませんの?」

 なんだか心配するような表情で俺を見上げてくるライラ嬢に、なんて答えようか考え頬をかく。

 「…俺とセントはライラお嬢様が考えているような中では無いんですよ。だから、その…」

 「だって…」

 そこまで言うとライラ嬢は言葉を飲みこんだ様子になり、すぐに背を向けた。

 

 「余計なお膳立てをしました。けれど、私、間違った事をしたとは思っていません。これからも勝手にお二人の事、応援致しますわ。」

 そういうと歩き出した。

 侍女は慌てて後に続く。

 「あ、これ!」

 俺は慌てて侍女に籠を渡すと侍女は受け取り頭を下げると急いでライラ嬢の後をついて行った。

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