第9話 遊と出会いと自己紹介
戦闘が終わった後も僕は短剣を握りしめ、その場を動くことが出来ずにいた。
「僕は・・・生き残ることが出来たのか・・・」
まるで夢から覚め多ばかりのように肉を貫いた感触がのこる両手を見つめ座り込む僕に声がかかる
「おいおい、大丈夫か?」
「どこかケガでもしたのかしら?」
顔を上げると体中に傷を負っているものの、しっかりとした足取りで歩いてくる姿が見えた。
ジュドーと呼ばれた男性とローラと呼ばれていた女性だ。
「あっ、はい。何とか大丈夫です」
「そうか。まぁ、見たところ左肩をやられたみたいだが傷は大して深くなさそうだな」
「でもちゃんと手当だけはしておきましょ。傷跡が残ったら大変だからね」
「それにしても無茶しすぎだぜ。嬢ちゃん」
「へっ?」
「そうよ。顔に傷でもついたらせっかくの可愛い顔がだいなしよ!」
「あの、嬢ちゃんというのはもしかして僕のことでしょうか・・・?」
「何をあたりめえなことを・・・ん?・・僕?」
「僕は男です・・・」
「「えっ!!」」
魔獣の死体が直ぐ隣に横たわるなか、生き残れた喜びや失う悲しみなどと一切関係無い魂の叫びがあたりにこだました。
「僕は男だ~!!」
その後は馬車から降りてきた少女(アイナちゃんと言うらしい)になだめられつつ、近くをの村に向かって歩いていた。
本当はケガの手当や疲労もあってもう少しとどまっていたかったのだが、血の臭いが他の魔獣を集めかねないという事で簡易的な手当をし急ぎその場を離れることとなった。
馬車は馬が魔獣の襲撃で死んでしまったため、怪我の痛みに耐えつつ歩いての移動となってしまったのがつらい。
なお、手当の際に痛みを我慢していたらローラさんに『かわいい~』と抱きつかれたのは
ちなみに倒した魔獣からはジュドーさんがちゃっかり毛皮などをはぎ取っていた。はぎ取る際にこちらを見ながらナイフを突き立てていたのは怖かったが。
「あ~すまん。その、なんだ。髪も長めだったし、体つきも細かったから、てっきりな」
「いいいですよ。どうせ僕は女顔だし、背もそれほど高くないし、筋肉もついてないし・・・」
「あっ!! でも可愛いから女の子にはきっと持てるわよ!!」
「16才にもなって男が可愛いと言われてもあまりうれしくないです・・・」
「「16!?」」
「なんです?」
「「いえ、なにも・・・」」
「お兄ちゃん、格好、良かった」
アイナちゃんが頭をなでながらほめてくれた。アイナちゃんだけが心のよりどころである。
微妙な空気の中10分程度歩いただろうか、そろそろ大丈夫だろうと言うことでケガの治療をかねて一端休憩を取ることとなった。話によると目的の村はロイスという名前で後15分程度歩けばつくとのことだが、流石に血をだらだらと流しながら行くわけにもいかない。
もらった魔法の中に回復魔法の『ヒール』があったので、それを使って回復することにした。
「ヒール!」
「お~、すげえな。みるみる傷口がふさがっていきやがる。これならもう一回襲われても大丈夫だな」
「馬鹿なこと言わないの。それから君、どうもありがとう。グレイウルフとの戦闘時といい本当に助かったわ」
「いえ、助かったのは僕の方ですよ。え~と、確かジュ、ジュドーさんとローラさんでしたか、お二人がいなければ僕はあそこで魔獣の餌になってましたよ」
「おっと、そういえばきちんと自己紹介もしてなかったな」
「俺はジュドー、鍛冶屋をやってる。こっちは妻のローラ、そして娘のアイナだ」
「ローラよ。彫金師をしてるわ」
「アイナ、です」
ジュドーさんは体格もがっしりしていて見た目通りというか豪快な性格っぽい。ただ、礼儀というかそういうところはしっかりしているようだ。
ローラさんは出るところはでて、引っ込むところは引っ込んでいる、抜群のスタイルをほこっている。ただ、可愛いもの好きというか何というか、僕を見て『かわいい~っ』とすぐ抱きついてくるのはやめて欲しい。ジュドーさんの目が怖いです。
アイナちゃんはあまり口数が多くなく、名前だけ言ってペコリと頭を下げるとそれっきり黙ってしまった。ただ、興味は隠せないのかチラチラとこちらの様子をうかがってくるのがとても可愛らしい。
3人はここから馬車で1日ほどの町に住んでおり、ロイスの村にある武器屋に商品を届けに行くところだったそうだ。
「鏡遊です」
「カガミユウ? 珍しいというか、言っちゃ悪いが奇妙な名だな」
「あ、名前が遊で鏡は苗字・・・家名にあたります」
「えっ、家名! 家名って事はもしかして貴族様でしょうか?」
家名があると答えるとローラさんが慌てて問いかけてくる。どうやら僕に対する口の利き方が不味いと思ったようだ。
「い、いえ、違います。僕が生まれた国では家名を持つのが普通なんです」
「そうなの? 貴族様かとおもって焦ったわ」
どうやらこっちの世界では貴族だけが家名を持つらしい。まぁ、日本でも苗字が法で正式に定められたのは確か明治時代だったはずだから、文明の度合いが中世頃のこちらの世界では驚くことではないだろう。
それから一通り治療が済んだ後、再びロイスの村に向かって歩き出す。
「ところで、ユウ君はあんなところで何してたの?」
「えっと・・・なんというか・・・迷子?」
「いやいや、俺らに聞かれてもな」
「う~ん、装備らしい装備はしてないし・・・普通はそんな格好、ましてや一人で森の中をうろつく事なんて無いわよ」
何というか視線が痛い。今着ているのは病室で着ていたパジャマだ。こんな格好で森の中を歩き回る人は普通いないだろう。特にこの世界では魔獣が存在しているのだから武器の一つでも携帯している常識のはずだ。
ただ、本当のことを話してもきっと信じてもらえないだろうし、頭がおかしいと思われると面倒臭そうだし、村に着いたら変人扱いで村人から敬遠されるなんて事になったら非常に困る。それ以上に仮に神の名を語ったとして罪に問われるようなこともあり得るかもしれない。
何せ中世時代の地球では異端審問や魔女狩りと言った反人道的な歴史がある。
そう考えた僕はとりあえず定番中の定番で答えることにした。
「気がついたら森の中にいまして、それ以前の記憶が曖昧なんです」
必殺記憶喪失だ!
「ほぉ~気がついたら森の中ね~、それに記憶喪失ときた」
「その割には魔法とかためらいもなく使ってたし、故郷のこととか覚えてるし、受け答えも結構はっきりしてるわね・・・」
「お兄ちゃん、目、泳いでる。怪しい・・・」
「え~、あ~、あははは」
「笑ってごまかしてやがる・・・。まぁ、いいさ。ロイズの村が見えてきたから話は村でじっくり聞くとしようや」
あれ~、ゲームやライトノベルなんかだと『大変目にあったんだね』とかいってみんな納得してくれたのに・・・
次は魔法実験中の事故とかにしてみるか。そう思いつつ僕は村の門をくぐった。
投稿時に一部内容が重複していたようですので修正しました。
他に誤字等があれば指摘ください。
更に重複箇所があったため修正しました。
onefield様、2度にわたるご指摘ありがとうございました。
眠いなか更新すると駄目ですね。コピペミスしまくりです。