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第8話 遊と決意と初めての戦闘

怒声が飛び、激突音とともに激しい揺れが馬車を襲う。


「きゃっ」


全てから目をそらし頭を抱えうずくまる僕の耳に小さな声が飛び込んできた。

先ほど魔獣と戦っていた女性とは異なる幼い声。

おそるおそる目を向けると一人の少女が短剣を握りしめ、魔獣の爪により切り裂かれた幌にすがりつくように身をかがめていた。


「このままじゃ、お父さんとお母さんが死んじゃう」


小さな手は強く握りしめられ、目には涙をいっぱいにためている。

その姿、表情に僕は覚えがあった。入院中、僕以外にも重い病気を患った人たちと知り合う機会があり、そんな人たちを見舞う家族の中に心配そうに見つめる子供姿を見かけることがあった。

それに僕の両親も僕が体調を崩すと心配そうに見つめていた。

そしていつしか僕が思い描く空想世界の中では国や王様に言われて戦う勇者としてではなく、家族や友人、そして名も知らぬ人たちの笑顔を守るという名目で剣を振るう僕がいた。

名誉や誇りといった形のないものではなく、多くの笑顔を見るために。


「僕は・・・」


僕自身がこの世界を望み、そして力を欲したにも関わらず、いざ事が始まれば恐怖に怯え現実から目をそらしている僕。

これじゃ病室で魂の抜け殻のように窓ばかりを眺めていたときと変わらないじゃないか。震える膝に力を込めて立ち上がる。


「こっちへ!」


魔獣は幌を切り裂く爪と牙を持っている。幌に近接していると万が一と言うこともある。

そう考えた僕は少女を引き寄せて馬車の中央へ座らせる。


「大丈夫。僕も手伝ってくるから。きっと助かるよ」

「で、でも」

「お兄ちゃんには神様からもらった不思議な力があるんだよ」


心配を取り除くように努めて微笑みをつくりだす。

正直にいうと恐怖がないわけじゃない、でも僕が望んだ結果なのだから立ち上がらなきゃ。


「あ、あの。これを」

「ありがとう」


少女がおずおずと短剣を差し出してくる。

僕は心配させないように笑顔でお礼を返し、絶対助けると決意を胸に幌の切れ目から飛び出した。


********************************


「ちくしょう、何だってこんな時期にっ!!」

「知らないわよ! それより手を動かして!」


愚痴をこぼす俺に向かってローラから失跡が飛ぶ。

俺たちはグレイウルフの群れに囲まれていた。本来こいつらは森の中を縄張りとしていて街道まで降りてくることは殆ど無い。

冬の繁殖期により多くの獲物を求めて森から出てくることがあるが、今は初夏だ。

とすれば去年生まれた若い個体が新しく群れを作り、これまでの群れを離れて新しい縄張りを探してうろついていたのだろう。


「全くついてねぇ!」


声を出しつつ斧を振るうも相手の動きが速すぎて攻撃が当たらない。

ローラが俺の背後から弓で援護してくれているが分厚い毛皮に遮られて大して効果がなく、かすり傷を負わせているぐらいだ。


「右に回り込んだ奴がいるわっ!」


グレイウルフ共は俺たちを嬲るかのように組んで取り囲み、隙をついては攻撃を仕掛けてくる。

このままじゃ不味いという感情が心をしめ、せめて馬車にかくまっている娘のアイナだけでもと思い始めたとき、そいつは現れた。


「ひぃっ!!」


黒髪に黒い瞳。そして武器一つ持たない軽装の子供がこちらを見てかたまっている。


「なっ! 何でこんなところに子供がいやがる」

「君、逃げなさい!!」


恐怖で動けずにいる子供を仕留めやすいと見て取ったのかグレイウルフが一匹猛然と襲いかかった。

かろうじて避けたようだが左肩を爪で切り裂かれたようだ。


「くそったれが!!」


へたり込んでしまった子供を背にかばうように立ち声をかける。


「何やってやがる! 馬車の中に隠れてろ!」


しかし腰を抜かしてしまったのか移動する気配がない。


「ちっ、しかたねぇ!」


身動きとれずにいる子供の腕を掴みあげると馬車の幌めがけて放り投げる。多少乱暴だが幌にうまいこと落ちたようだし大してケガはしまい。

それにしても娘のアイナだけじゃなく、見知らぬ子供の命まで背負い込んじまった。

こりゃ娘だけでもなんて弱気な考えじゃ駄目だな。そう思い直し声をあげる。


「さぁ! かかって来やがれ!!」


********************************


僕が外へ飛び出るとジュドーと呼ばれていた男性が雄叫びを上げ斧を振り回していた。しかし魔獣たちの動きは素早く、そして数も多い。

このままじゃ押し切られる。そう判断した僕は加勢に加わるべく駆けだした。


「手伝います!」

「子供が何言ってるの。馬車に戻りなさい」


僕が駆け寄ると弓を放っていた女性が馬車へ戻るように促す。


「駄目だ!。もう囲まれてる。今離れると格好の餌食だぞ」

「だけどっ!」

「少しなら魔法が使えます。僕が奴らの足止めをするのでトドメをお願いします」

「囲まれちまってる以上仕方ねぇ。おまえ名前は何という」

「遊です」

「ユウか。俺の名はジュドー、そっちは妻のローラだ。魔法が使えるって言うなら俺たちが奴らの注意を引くからその間に頼む」

「もうっ、勝手に話を進めないで!」


ローラさんが文句をいうがジュドーは気にせず魔獣たちに向かって飛び出した。


「魔法に必要なのは十分なイメージ・・・思い描くのは拘束するためのロープ」


二人が魔獣を牽制している間、僕は魔法のイメージが固めていく。思い描くは張り巡らされたロープ。トドメは二人がやってくれると信じて集中する。


「シャドーウィップ!!」


僕がそう唱えると同時に僕の影から複数の鞭が飛び出す。それはまるで意志を持っているかのように魔獣たちに絡みつき拘束する。


「いまよ!」

「任せろ!」


動きの止まった魔獣たちの首をジュドーが斧で切り飛ばし、ローラさんの放った矢が魔獣の目を射貫く。魔獣たちが倒れいく中、唯一拘束から抜け出した一匹が馬車に向かって駆けだしていく姿が見えた。

あの馬車には少女が残っている、そう思った時には体が勝手に反応し魔獣を追いかけていた。


「エンチャント:ファイア」


とっさに持っていた短剣にファイアの魔法を付与し、今まさに馬車によじ登ろうとしていた魔獣の首めがけて力一杯突き刺す。


「ぐぎゃうっ!?」

「ファイア!」


刺した場所から炎が広がり内部から魔獣を焼いてく。


「エンチャント:ウィンドカッター」


止めとばかりにウィンドカッターを付与した短剣によって首を切り落とす。


「これで終わりだ。ウィンドカッター!」


そして血と肉の焦げる臭いと共に戦いは終わり静寂がやって来た。

エンチャントで付与された魔法は魔法名を唱えることで起動します。


それにしても戦闘描写って難しい。

次回は異世界で初めての村に到着予定です。

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