第7話 遊と初めての恐怖
視界に飛び込んでくる全てのものが初めて見るものばかりだった。
木々の合間から差し込む光が幻想的な光景を作り上げる中、目に飛び込んでくるこれまで見たことのない植物に好奇心を刺激され、木々に実る果実を見つけては鑑定魔法で鑑定して口に運んでいく。
「う~ん、こっちのはすっぱいだけでおいしくない。あっ、こっちのは甘いや」
僕はまるでおもちゃ屋にやってきた小さな子供のようだったと思う。
いったいどれ位の時間を歩いただろうか。15分も歩けば街道に出ると言われていたが、寄り道ばかりしていたせいで思いのほか時間がかかっているようだ。
それでもてくてくと歩いていると少しずつ木々の感覚が広がっていくような気がする。
どうやら森の終わりが近いのだろうと思い、思わずかけだしてしまう。
「とりあえず村についたらお金を稼ぐ方法を探さないと駄目か。冒険者ギルドとかあるといいな~」
のんきにこれからの生活に胸を躍らせていると木々が途絶え視界が開けていく。
このときの僕は何もわかっていなかったのだろう。
僕が想像し憧れていた世界は剣と魔法が存在する世界。そして魔獣と呼ばれる人に仇なす存在がいる世界だと言うことを。
その世界は日本のように安全でなく、世界は死と隣り合わせなのだと言うことを・・・
「やっとぬけ「右に回り込んだ奴がいるわっ!」 えっ!!」
視界が開けたとき目に飛び込んできたのは街道とボロボロの馬車と血を流し戦っている二人の男女だった。男の方は背の丈もありそうな巨大な斧を振りかざし、女性の方はその背後から矢を放ち牽制している。
その二人を取り囲むように五匹の大きな犬型の動物が走り回り、背後から隙を見つけては飛びかかって攻撃を加えている。
二人も必死に応戦しているものの、相手の動きが速すぎて全ての攻撃に対応できておらず、体には赤い線が少しずつ増えていくのが遠目にもはっきりと見て取れた。
「ひぃっ!!」
今までののんびりした雰囲気から一転した緊迫した空気、血を流しながら必死の形相で戦う光景に思わず声を上げてしまう。
「なっ! 何でこんなところに子供がいやがる」
「君、逃げなさい!!」
僕に気がついた二人が声を上げるが既に遅い。内一匹が僕に向け走り出し、その牙を突き立てようと飛びかかる。
「──ッ!」
とっさに飛び退いたものの牙は左肩を掠め赤い線を描く。そして激痛が僕を襲った。
「くそったれが!!」
痛みと恐怖で肩を押さえてへたり込む僕の視界に大きな影が映り込む。
「何やってやがる! 馬車の中に隠れてろ!」
太い腕が僕の腕を掴み上げ、馬車めがけて僕を放り投げる。
「ぐあっ」
幸いにも幌の部分に落ちたものの、あまりの衝撃に息が詰まる。
「早く中に入りなさい!」
声にせきたてられ馬車の中に転がり込む。
馬車の外では怒声があがり、馬車にも攻撃が加えられているのか激突音とともに激しい揺れが襲う。
そんな中、僕は初めて遭遇した魔獣への恐怖に怯え全てから目をそらしうずくまり、耳をふさぐことしか出来ずにいた。
思えば僕はゲームやライトノベルの中で語られる冒険者たちの活躍に胸を躍らせ憧れているはずだった。
でもそれは憧れを抱いていただけで僕自身が魔獣を相手に戦うことを真剣に考えていた訳じゃない。いや、真剣に考えられる人の方が圧倒的少数だろう。
日本には多くのゲームや小説があふれかえっていた。その中にはファンタジー世界を題材にしたものも多く存在していた。
国民的ゲームとして有名なRPGゲームであるドラ○○やF○なんかその代表だろう。
数百万本のソフトが売れ、中古ソフトも合わせるといったいどれ位の人がプレイしたかわからない程の人気であったにもかかわらず、それに触発されて格闘技や剣術、サバイバル術を真剣に取得したいと思い高等を起こした人の話など聞いたこともない。
せいぜいが主人公などのキャラクターの格好をまねるコスプレに興じる程度だ。
ただただ全てから目をそむけうずくまることを現代の日本人に責めることは出来ないだろう。
しかし、ここは日本ではなく異世界レイルフィア。怯えるだけで前に進めないものは淘汰されているだけだ。
剣と魔法、そして魔獣と呼ばれる存在がいる世界。戦いの存在する世界なのだから。
普通の人間がいきなり血みどろの戦闘に遭遇すれば恐怖して当然ですよね。
なお、次回から週一回の投稿となります。
次回投稿は5/12予定です。