第3話 遊と変態神
病により死をむかえた主人公は気がつけば草原に立っていた。
そこで神と名乗る男から突然愛の告白を受ける。
「僕はこれでも男だ!!」
お詫びとばかりにもらった身体能力と魔力、そしてエンチャント能力をひっさげ異世界に降り立った主人公。
ファンタジー世界に憧れを抱く少年の冒険譚。
今、僕の目の前には恋破れ、地面に両手を突きうなだれている変態|(アルトという名の一応は神)がいる。
僕としてはあまり関わりたくないのだが、今の現状を一番理解しているのが彼であろうだけに話を聞くまでは離れられないでいた。
「え~と、そろそろ顔を上げてくれると助かるのですが・・・」
僕が話しかけても反応はなく、一人でぶつぶつと『あの容姿で男なんてあり得ない・・・』などとつぶやいている。
正直に言って僕にはあまり触れて欲しくない話題だった。
もともと女顔で見た目は清楚系の女の子、病気により筋肉のついていないことから体の線が細く、後ろ姿だけだと髪を短くしていても男性には見えない。
さらには病状が悪化してはからは髪を切ることも疎かになっていた為、自分でも鏡を見たときに女性みたいだと思ってしまった。
更には入院中に看護師たちに遊び相手|(格好のおもちゃ)として無理矢理に化粧を施され、同室の別患者からは格好のネタとして扱われていた。
ある年配のおじさんに「遊ちゃんがいると退屈しないな~。娘に欲しいよ」と笑いながら言われた時には軽く殺意を覚えたくらいである。
「いい加減にこっちにもどってきてくださ~い」
「あんな可愛い子が男であった良いはずがない・・・」
幾度となく呼びかけても一向に戻ってくる気配のないアルト神。
なんだか面倒臭くなってきたなと僕が思ったとき、にわかに空が陰り轟音とともに雷がアルト神を直撃する。
舞い上がった土煙がはれた時、そこには服が見るも無惨に焼け焦げ、半ケツを見せて地面に顔面から突っ伏す変態の姿があった。
普通ならすぐそばに立っている遊にも何かしらの影響があってもおかしくないのだが、不思議なことに一切の巻き添えを食わずに傷一つ無い。
呆然とあたりを見回すとアルト神の足下の地面に炎でいろどられた文字らしきものが刻まれている。
近寄ってみると何故か日本語で次のように書かれていた。
『仕事をしろ。この変態が!
それと貴様がやった事を遊君に説明して許しを得ろ。出なければ次のボーナスは無いと思え!!』
神様にもボーナスってあるんだ~と僕が現実逃避をしていると変態神がうめき声を上げながらようやく立ち上がる。
「うぅ、いったい何が起こった?」
「え~と、なにやら上司らしき方からお叱りを受けたみたいですよ」
僕が地面に刻まれた文字を指さしながら答えると変態神の顔が青ざめる。
「え~と、読む限り僕に関係することで何やらしでかしたようですが・・・。
いったい何をやらかしたんです?」
僕がもはや神を見る目ではなく、変質者を見るそれで見つめつつ問いかけると、アルトは渋々と話し出す。
曰く、死に際の僕を一目見たときに恋に落ち、遊がやってくるまで他の仕事が手につかずにいた。
曰く、僕と添い遂げるために僕を輪廻の輪から解き放ち、ここにとどめようとした。
曰く、転生の輪からはずれたことで僕の転生先は決まっていない。
曰く、神には階級があり、イメージ的には会社員とあまり変わらない。
最後のは正直どうでも良い情報だが、2番目と3番目は聞き捨てならない。
確かにこの草原は気持ちの良い場所ではあるが、いつもまでもここに居続けるのでは病室だけの世界しか知らなかった僕にとって何も変わらない。
いくら体が自由に動かせようと、どこにも行けないのであれば意味がないからだ。
「どうしてくれるんです?
いくら神といえどもやって良いことと悪いことが有ると思うのですが?」
「どうにかしろと言われても・・・すでに輪廻の輪から外れている以上は生まれ変わることは無理・・・」
「何言っているんですか。全て貴方の責任でしょうが、僕は貴方と二人で此処で永遠と草原を眺めているなんて嫌ですからね」
「私はそれでもいいかな~なんて」
「黙れ!!」
「怒った顔もかわいい」
「せいっ!!」
「うぼぁっ!!」
とりあえず顔面を真っ正面からぶん殴ってやる。
いくら神とはいえ変態には良い薬だ。
「こうなったら雷撃を貴方に飛ばした上司とやらに直談判させてください」
「ちょっ、それは待ってくれ。そんなことをされたらボーナスどころか減俸をくらってしまう」
「そんなこと知った事じゃありません。とにかく何とかしてください」
「とりあえずちょっと考えるからまってくれ」
そう言ったまま変態神はブツブツと何か良いながら考えを巡らしている。
途中、あれをやると給料が~とか、面倒臭いしな~とか聞こえたのでもう一発ぶん殴ってやった。
「先ほども言ったとおり、一度輪廻の輪から外れてしまったため生まれ変わることは出来ない」
「じゃあどうするんですか!!」
「まぁ、落ち着け。生まれ変わることは出来ないが、そのままの体でもう一度新しい人生を歩み、死をむかえればいい。
ただ、その場合は元の世界に戻ることは出来ない。いわゆる異世界で生活することとなる」
「それだけ?」
正直、一度死んだ身だ。特に元の世界だろうが異世界だろうが菅家一が無いように思える。
むしろ今の自由に動ける体で生きていけるのならむしろそっちの方が良いのではないだろうか。
「それだけと言うがな、今までの価値観とは全く異なるかもしれない世界に行くんだぞ。
言葉や文化だって違うし、君が生きていた世界とは治安レベルだって異なるんだ、それに身内だって誰もいない。すんなり馴染むことは難しいぞ。」
「確かにそうかもしれませんが・・・そこはほら、神様の力でどうにかしてください!!」
「いや、どうにかと言われてもな。それに勝手に神の加護を与えると神王様になんと言われるか。
正直言って減俸は勘弁願いたい。私としては此処にずっといてくれても良いんだぞ。男でももう気にしないし」
「この変態が!!」
変態発言にもう一発ぶん殴ろうとした瞬間、再び空が陰り始める。
「ちょっとまって、これはまさか神王様の雷撃っ!!」
変態神がそう叫んだ瞬間に閃光が走り、再び轟音が響き渡る。
そして今回もボロボロになった変態の足下に文字が刻まれてる。
『安心しろ。すでに貴様の減俸は決まっている。
とっとと遊君の願いを叶えて仕事に戻れ。このままでは輪廻システムが不具合が発生するだろうが』
どうやら僕は無事に異世界に行くことが出来そうだ。
異世界への旅立ちまで思いのほか時間がかかってます。
まだ神様からもらう能力のついての話も出てきていません。
多分次で旅立てると思います・・・