第1話 プロローグ
初投稿、初作品です。
文章がつたなく読みにくい部分もあるでしょうが、お付き合いくださると幸いです。
よく世界は広いと言われる。
だけどそれを実感できている人はどれ位いるのだろうか。
僕、鏡 遊にとって世界とは病院のベット上だけ。
一人でトイレまで歩いて行くどころか、最近では呼吸ですら人工呼吸器のサポートがないとおぼつかない。
幼い頃から体力が無い子だと周りから良く言われていた。
そして成長するにつれ体力がつくどころか逆に衰えていくことに気がつき、難病を患っていることを知った。
色々と治療を試してきたが、病気の進行を若干遅らせることが出来たくらいで解決には至っていない。
おそらく遠くない将来、僕はその命を終えることになるのだろう。
満足に動かせない体、窓からしか見ることのない外の景色。
僕にとって世界とは窓から見える景色だけであり、まるで壁に掛けられている絵画のような物。
どれだけ憧れてもあちら側へは行くことが出来ないという現実が僕の精神を少しずつ蝕んでいく。
そんな窓の外ばかりを眺めている僕を見かねて父親がある日沢山の本とわずかばかりの携帯ゲームを持ってきてくれた。
「実際に外に行くことは出来ないけど、本に書かれた世界やゲームの世界で気分を紛らせたらと思ってね」
それからは空想世界の虜となった。
父親が思う以上に本にのめり込み、ゲームで遊び、実際には存在しない世界に思いをはせた。
中でもお気に入りはライトノベルの定番、剣と魔法あふれるファンタジー物とRPGゲームだ。
まぁ、ゲームの方はアクション性の高い奴は僕にとってハードルが高すぎたと言うこともあるが。
「遊は本当に一日中本とゲームばかりだな。目が疲れるんじゃないか?」
疲労を心配する両親にいつも笑ってこたえる。
「大丈夫。逆に元気になれる気がするから」
実際には存在しない世界に思いをはせ、空想の中で剣を振り、魔法を唱える。
そうやっていると、いつしかまるで自分がその世界で冒険をしているような気になってきて読み終わった後も興奮が収まらない。
ゲームはもっと顕著で、本と違って自分で操作できる部分もあって興奮の度合いが高い。
あまりに昂揚しすぎて看護師さんに窘められしまったときには流石に自重したけど・・・
だけど時間は無慈悲で残酷だ。
至福の日々もあと少しで終わってしまうだろう。
最近では本のページをめくること、ゲーム機のボタンを押すことも厳しくなってきている。
いつまで本を読み続けられるのかわからないが、それまで出来るだけ多くの物語に触れたいと僕は心の底から思い、新たな本に手を伸ばした。
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季節は巡り、今は暑さが気になり始めた初夏を迎えている。
僕の周りには涙を流している両親と沈黙を守っている医師がいる。
どうやら旅立ちがきたようだ。
思えば両親には苦労をかけっぱなしだった。
看病でどれだけ精神をすりつぶしてきたのだろう。
何も親孝行は出来なかったけれど、最後に思いを伝えておこうと僕は満足に開かない口で声にならない感謝の気持ちを伝え、意識を手放した。
「いままで育ててくれてありがとう」
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作中の病気について、特に何でも良かったのですが、満足に体を動かせないということを前提において記載しています。
同様の症状を持つ病気がありますが、私個人としてその患者さんを差別するような意図は一切無いことを明確にしておきます。
また、筋力が衰えていく病気についてはある種のホルモンや遺伝子治療が有効とのことですが、未だに特効薬が開発されていない状況とのこと。
一刻も早く特効薬が開発されて多くの人命が救われることを願います。