女神、惚れさせてみた。
ギャグ多め、話の展開がとても早いです。
「まったく、使えなさそうなバカみたいなもん来たわね」
目の前に広がるのは、真っ白な空間。
天井もなく、床もない。
自分がどうやって立っているのかも、よくわからない。
「あの、ここどこですか?」
彼の名前は小林恋。
明日はどんな一日になるんだろう――そんなことをぼんやり考えながら寝室で眠っていた、ごく普通の男子高校生だ。
「……早く決めてもらえる?」
問いは無視された。
虚無のような目で、こちらをじっと見つめてくる。
腰まで流れる金の髪。
白いワンピースに、同じく白のケープ。
どこからどう見ても、女神としか言いようのない美しい女性だった。
「なにがですか?」
「スキルよスキル。ほら、好きでしょ? そういうの」
たしかに、視界の真ん中には「スキルを選択してください」とゲームのようなウィンドウが浮かんでいる。
そんな非現実的な状況に、レンは困惑するしかなかった。
「僕、死んだんですか?」
「そうよ、だから異世界転移ってわけ。で、そのうち現れる魔王を殺してほしいの。
もうここいらで騒ぐような時代じゃないでしょ?」
聞けば、彼の死因は「寝返りを打った拍子にベッドから頭から落ちた」らしい。
そんな簡単なことで人は死んでしまうのかと、一つ学びを得る。
「でも女神様、表示されているスキルが一つしかないのですが」
「異世界転移時に付与されるスキルは【アナライズ】ってものと、任意で選べるスキルを一個。
そのスキルは、その人の素質で変わるのだけれど……ぷぷぷ、あなたは一個しか選べるものがないみたいね。その程度の素質ってとこかしら」
嘲笑うように、女神は口元を手で隠した。
「なるほど。じゃあ、この一個のやつにするしかないみたいですね」
「飲み込みの早さだけは評価してあげる、レン・コバヤシ。じゃあ、もう準備はいいわね?」
眩い光が視界を貫いた。
気づけば、足元に水色の魔法陣が輝いている。
「あ、一つ教えてくれませんか?」
「なによ。私はこれからあと11人の異世界召喚が……それから私は……」
「僕のスキルって、神にも効きますか?」
「その【ラブ・ザ・ハンド】? たしか何にでも効くって――」
「えい」
ぴと、と女神に触れてみた。
「――ッッッ!!??」
その瞬間、稲妻が走ったような衝撃が、女神の全身を貫く。
目の前の彼に対する、これまでの感情が反転していく。
めんどくさい、興味薄、無関心、静寂――それらがすべて塗り替えられた。
『好き』『まだ話してたい』『行かないで』『もっと知りたい』
スキル【ラブ・ザ・ハンド】
効果:手で触れた異性を、無条件で惚れさせる。
「ぁ……ゎ――わたしも、異世界てんいすりゅぅ!」
この日が、全ての神に震撼を与えた日である。
すなわち「時空の女神・スフィ」の、急遽な退職日であった。
――
陽光を浴びた、王都の白い石畳がまばゆく輝く。
レンガ造りの家が並び、通りには香ばしい食べ物の匂いと人々の笑い声が満ちていた。
市場では商人たちの声が飛び交い、街角の楽師が笛を奏でる。
中央には金色の像を囲む噴水があり、そこを中心に街は円を描くように広がっている。
ソラリス王国の心臓部――王都ルミシア。
その街の酸いも甘いも知らぬ男女二人――異世界人と女神――は、ぽつん立っていた。
「本当に効果あったんだ」
レンは異国めいた町並みを見渡したあと、すぐ隣に立つ女神――スフィへと視線を向ける。
「……っ」
しかし、目が合った瞬間、彼女はそっと視線をそらした。
――あ~! すきすきすき! なんで目が合うだけで私、こんな火照って……。
初恋だった。
神として生まれて以来、男をそのように見たことはなかった。
この赤くなった皮膚をどうしていいのかも、わからない。
しかし、我に返る。
スフィは女神。
あの低俗なスキルで貶めようったってそうはいかない。
「れ、レン・コバヤシ! 貴様この時空の女神に対しそのようなスキルを――」
「あの、この後どうしたらいいんですかね。でも良かった、女神様と一緒に来れて。頼れるの、女神様しかいないです」
「ぁ……しょ、そんな事言われたら嬉しくっ――任せてっ……わたしが案内してあげりゅっ!」
スフィは初恋だった。
時空の女神・スフィ
状態:恋愛
好感度:100/100




