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ハイリの存在証明  作者: 黒津ケイ


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24/25

◇エピローグ1

 ◇


 あれから数週間が経った。

 俺、三城時玄は、新しいアパートの部屋で段ボールの山に囲まれている。

 前の部屋は、結局引き払った。そりゃあ……住めるわけないだろ。

 新しい部屋は少し狭くなったが、窓から明るい光が差し込んで、悪くない。

 会社には、旭のアドバイス通り、大阪の有名店の菓子折りを三箱持っていった。「体調不良でご迷惑をおかけしました」と頭を下げると、上司は意外にも「まあ、年末は疲れるもんだ。無理するなよ」とだけ言ってくれた。

 そのうち同僚たちも、どこかよそよそしかった態度は消え、普通に接してくれる。

 どうやら、俺が「戻った」ことで、何かが正常になったらしい。


 日常は戻ってきた。

 満員電車に揺られ、パソコンの画面を睨み、時々理不尽なことで頭を下げる。

 以前なら「死にてえ」と呟いていたような瞬間も、今はなぜか、笑って受け流せている自分がいた。

 一度死んで、幽霊になって、自分の身体を他人に使われて。

 あんな経験をしたら、たいていのことは些細に思える。


 それに――俺には、生きる理由ができた。

 大層なものじゃない。

 週末に飲む一杯の酒とか、少し遠出して知らない街を歩くとか、そんな、ありふれたこと。

 そして、いつかまた、あの二人――灰里と旭に会うこと。

 それが、今の俺を支えている。

 灰里は、今どこで何をしているだろうか。

 あいつが見つけた「生きる理由」が、あいつ自身を少しでも救っているといいんだが。


 ポケットのスマホが震えた。

 画面には、知らない番号。

 少し傾けて、自分の顔が映らないようにしてから耳に当てる。

『もしもし、とっきー? 俺や、旭や』

 やけに明るい関西弁に、思わず笑みがこぼれた。

 もう、あの頃の俺じゃない。

 俺は、俺の足で、この世界に立っている。

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