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女心に、なってみた  作者:
高校一年生。夏。
8/12

くつろがせて

 俺は教卓に立たされ、じょうだいあおい、と書かれた黒板を背にする。


「まずは自己紹介からだよ、葵ちゃんっ」


「えーと、ご存じの通り、城代葵です...。」


 もちろん、みんなのご存じの通りの俺ではない。なんせ、女の子だし。


 少し顔を上げ、みんなの顔を少し観察する。目を輝かせる女子、盛り上がる男子達、中々カオスだと思う。


 やっと俺は教卓を降りれて、自分の席に座る。


「先生にもいじられてるね、葵ちゃん」


 麻里が後ろの席からニヤニヤしながらいじってくる。


 まあ、腫物にされなかっただけよかったが、これはこれで注目の的だから大変になることは避けれない。


「えー、今日は始業式と課題回収くらいしかないから、早く終われるよー。みんな、寝ないようにね」


 また内容もよく分からない先生たちの話を聞かなきゃいけないと思うとしんどい。けど、多分お昼前には帰れるからそれくらい我慢は余裕だ。


 もう九月というのに体育館は蒸し暑い。汗の粒が頭のてっぺんから、額、頬と伝う。黒色のでっかい扇風機が風を起こしているが、それだけではこの暑さに太刀打ちできない。


 汗をかくということは、下着が透けるということだ。男ならそのくらい気にするなと言われそうだが、今は女子だし。


 それにブラが透けるというのはあまりにも恥ずかしいし、絶対守らなければならないゾーンだと思う。


 校長が人という字は~、とか言ってるけど正直誰も聞いてない。


 うとうとしながらしていると、後ろから少し痛みが走った。


 チラ見程度に後ろを向くと、明日香がご自慢の長い爪で制服の上から背中に少し食い込ませていた。


 やめろ、と言いたいところだが、声出すと怒られそうだし、どうせ言っても明日香はやめないだろう。何が目的なんだ?


 

 時刻は十一時前。長い始業式を終え、課題も提出した。やっと帰れる。早くこんな灼熱な空間から飛び出して冷房の効く部屋に籠りたい。


「幸田、帰ってなかったの?」


 幸田が校門近くの柱に背中を預けていた。


「よ、葵。俺がここで待っていた理由を知りたいか?」


「なんだよいきなり。まあ、一人で帰るのが寂しいとか?」


「それもあるけど違う。他!」


 寂しいのは認めるんだ。


 他に理由なんて思いつかず、頭を傾げていると、幸田が痺れを切らしたのか、口を開いた。


「課題! 写させてくれ!」


「は? お前、終わったんじゃないのかよ」


「ワークあるの忘れてた...。」


「バカだな。で、俺に頼んできたと」


「そーゆーわけ! だから頼む!」


 幸田が頭を深く下げてきた。まるでセールスマンの情けない姿みたいと思った。


「今日課題提出なんだからワーク持ってるわけないだろ」


「じゃあ答え! 答えのプリント!」


「解答も一緒に提出だぞ。というか自分の持ってないのか?」


「失くした」


 何やっているんだこのバカは。まず答えを見ずにやるという発想には至らなかったのか。


 どっかの誰かさんも答えを写していた気がするが、あれは不可抗力ってことで。


 

 家に帰ると冷房の涼しい風が入ってきた。あれ、誰か家いたっけ。


 母さんと父さんは仕事だし、優奈は五限まであるって言ってた気がする。


 だったら誰がいるんだ? まさか、不法侵入者がくつろいでるとか...?


 鞄を置き、玄関にあった箒を持ってリビングへと向かう。


「だれだ!」


 声を大きくだしながらリビングに体を出した。


「ん、葵。まだそういうことしてるの?」


「は? 明日香?」


 リビングにいたのは襟元を緩めソファに寝転んでいる明日香がいた。


「なんで勝手に上がってんだよ」


「いいじゃん。鍵開いてたし」


 そうだった、今日鍵を掛けるのを忘れていた。


「防犯対策になったということで勘弁して。ね?」


 明日香はウインクしながらそう言った。


「で、何の用だよ、防犯対策さん」


「私の部屋のクーラー壊れちゃってさ。だからここでくつろがせて、お願い!」


「うーん、まあいいよ。特別」


 流石に俺もこんな灼熱に追い出すほど鬼でもない。


「おい、何食べようとしてる」


「お菓子だけど、なにか?」


「俺の好物なんだが」


 明日香が食べようとしているのはポテトチップス。俺の生命線でもある貴重な、貴重な食料だ。


「お菓子が好きって、あんた太るよ」


「明日香だって今食べようとしてんじゃん」


 俺は引き際がいいから無駄だと思ったらもう諦める。これまでで慣れてるしな。


 特に会話も交わすことなく、スマホをいじっている。明日香も同様、ずっとスマホに釘付けだ。


「明日香、もう時間だから帰って」


 日が沈み、空はオレンジ色に染まる。そろそろ母さんが帰ってくる時間だ。


「ん、もうこんな時間か。さんきゅーね、葵」


 明日香は鞄を持ち、帰っていった。


 ここ最近、母さんに会ってないな。同じ家に住んでいるのに会ってないってものすごくおかしいけど。


 まあ、あんな人関わるだけ無駄だろう。大事な時だけ頼ればいいだろう


 早めに風呂とか済ませてしまおう。ばったり会ったら困る。


 いつから母さんとこんな関係になったっけ。父さんはもう小さい頃からあんな感じだが、母さんが昔どうだったかがまったく思い出せない。関わっていなかったのか、それとも忘れたいくらい嫌な思い出があるのか、知らない。


 優奈とは案外仲良く接しているようだから、もしかしたら良い人になっているのかもしれない。


「はぁ...」


 思わず溜息が漏れてしまった。なんか考えるだけ疲れる。今日はドライヤーはいいや、めんどくさい。


 部屋に戻っても、ゲームする気は起きなかった。幸田は課題にがっついているだろう。多分。


 幸田以外に相談できたらなあ、なんて考える。


 とりあえず寝よう。寝たらスッキリするはずだ。


 


 


 








 

 

 


 

 


 

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