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女心に、なってみた  作者:
高校一年生。夏。
6/12

解放のお泊り会

 家の前に着くと、俺は2人に向かって人差し指を顔の前に立てる。


「玄関近くは親の部屋だから、静かにな」


 二人は案外素直に了承した。


 音がならないようにすこーしずつ玄関を開けていく。一人が入れるスペースまで開け、一列になり入っていく。


 俺の部屋は二階だから、階段を上らなければいけない。こういう時だけぎし、ぎしと、小さい音にまで敏感になってしまう。


 忍者の如く忍び足で部屋に向かう。


「はー、なんか潜入ミッションみたいだったあ」


 部屋に入るなり、緊張が解かれたせいか、明日香が息をはぁーっと吐いた。


 時刻はもう21時半。まずは風呂に入らないといけないんだが、俺は予想する。麻里が、「一緒に入ろー」と、言うだろう。絶対。


「私、先入ってくる。借りるね」


 ウインクしながらそう言って、タオルを持って風呂に行ったのは、麻里。見事に外れてしまった。


 部屋に明日香と二人きり。俺はさっきの手繋ぎ事件について問う。


 って、そんな勇気、俺には無い。


 ベッドに座り、椅子に座っている明日香を横目に見る。


「ねえ、葵」


 明日香は俺を無表情に見つめてくる。初めてだ。明日香がこんな顔してるのを見るの。


「なに」


「あれ、なに」


 明日香からその話題を放ってきた。心臓が跳ね上がり、俺は思わず窓に目を逸らした。


 外には星がポツポツとあり、白く淡い月光が、窓から差し込んでくる。見ていたら吸い込まれそうな空だ。


 そのまま吸い込まれたいと思った。この緊張が走る空間から逃げ出したい。


 今、自分の顔はどうなっているだろうか。赤くなっているだろうか。引きつっていないだろうか。そんなことを考えるうちに、真っ白になってしまう。


 明日香をじっと見つめる。綺麗な顔立ちに、長い爪に赤いネイル。なんだかサキュバスみたいだと思えてくる。


 明日香が顔を横に向けた。


 そこには、なんともムッチリとした女の子のキャラクターのフィギュアが一つ、こちらを向いていた。


「葵、あんた女子が来るんだから隠しときなさいよ」


 確かに俺が悪いかもしれないが、お泊り会場をいきなり俺の家にした明日香たちも悪いと思う。片付ける暇なんてない。


「いいだろ。一応俺も思春期男子だぞ」


 男のプライドを守るため、少し強気に出る。なんか負けたくない。


「へー、思春期男子ねぇ」


「なんだよ、その目」


「こんな美女と部屋で二人きり、本当の思春期男子だったら襲うと思うけど?」


 またしても俺は駒を取られた。確かに、そう言われればそうだが、納得したくない。


 俺は女子に口論で勝てない。そう確信できた。


 

 俺は明日香の後に風呂に入った。部屋はシャンプーのいい匂いが充満している。


 そろそろ就寝の時間となり、俺はふと気づいた。


 どこで寝るのか、と。


 当たり前だがベッドはシングルだし、敷布団もない。


 ギリギリ二人くらい寝れるくらいのスペースしかない。


 ということは、この三人のうち、一人が床で寝ることになる。


「なあ、誰が床で寝るの」


「何言ってんの。三人で寝るに決まってるじゃん」


 何を言っているんだこのギャルは。


「そうだよ葵ちゃん。一緒にね」


 俺は、二人の圧に負け、顔を縦に振ることしかできなかった。


「どうやって寝るんだよ。スペースないぞ」


「三角形作るんだよ」


「三角形?」


 明日香が布団を整えながら答えた。


 三角形とはなんだろうか。とりあえす指示に従うしかない。



「葵ちゃん、軽くない?ちゃんと食べてる?」


「ちゃんと食べてる...というか、なんだよこの状況...!」


 ベッドには明日香と麻里が寝て、二人の右半身、左半身の上に俺が仰向けになっている。


 なんとか目を瞑るが、全然寝付けない。


 二人はスヤスヤと心地良い寝息を立てている。俺の気持ちも少しくらい考えてくれ。


 

 目を開けると、もう朝日が昇ってきていた。


 当然、まったくと言っていいほど眠れていない。


 二人はものすごく無防備に寝ている。ブラをしていないせいか、二人の豊満なものが服の上から分かる。


「葵ちゃん、早いね...。おはよ」


「おはよ、麻里」


 先に起きたのは麻里だった。麻里は目を擦りながらベッドから降りた。


 やっとふかふかのベッドに体を沈めれた。


 明日香が寝返りをうち、俺の方を向き、抱きしめてきた。力が強すぎて全然解けない。


「麻里、頼む、引き剝がしてくれ」


「はいはい、分かったよ。明日香ー」


 麻里は難なく明日香を俺から引き剥がした。


 

 二人を玄関まで見送り、俺はほっと胸を撫でおろした。なんとかお泊り会、成功だ。


 部屋に戻ろうとした時、部屋の扉が開いた。そこには、険しい顔をした、父さんの姿だった。


 この顔、なるほど。バレていたようだな。これから説教タイムかあ、めんどくさいなあ。


「...勝手にしろ」


 そう言い放ち、父さんはリビングに足を運び始めた。


 説教じゃないのはなんでだろう。もう期待してないってことだろうか。それだったら嬉しいな。


 というか、結局手繋ぎ事件のことなにも触れていなかったな。明日香はああいうことは満更でもないんだろう。

 

 夏休みも残り少しになってきている。早く課題を終わらせなければ。


 


 







 




 


 


 

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