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女心に、なってみた  作者:
高校一年生。夏。
4/12

可愛いは大変

 忘れていた花火大会が、明日まで迫ってきている。


 こういうのって、普通に私服で行くべきなのか? いや、祭りだとよく、女性は浴衣着たりしてるよな。うーん、どうしよう。


 

 

「浴衣でしょ。何言ってんの」


「即答だな...」


 頼み綱の優奈に聞いてみたら、食い気味に答えてきた。また乗り気のようだ。


「お姉ちゃんに任せなさい!」


 優奈が部屋のクローゼットから二着、浴衣を差し出してきた。


「どっちがいい?」


「どっちでも」


 少し適当に返事をする。


「じゃあこっちのやつね」


 優奈が指さしたのは、ピンクの花柄の浴衣。いやいや、こんなの着れるわけない。


「や、やっぱこっち!」


 俺は、咄嗟に水玉の模様が入っている水色の浴衣をさした。


「だ~め。男に二言はないよ」


「俺、今男じゃない!」


「じゃ~あ、元男に二言はないね」


「はぁ...もうそれでいいよ...」


 めちゃくちゃな発言に、もうどうにでもなれの精神で、優奈に従った。


 そうだ。幸田のやつ、俺のこと話したのかな。もし話していなかった場合、面倒なことになりそうだ。




 花火大会当日。俺はしかたなくピンクの浴衣に袖を通した。かんざしとかはよくわからなかったから付けない。


「結局ピンクにしたんだ」


「なんだよ。悪いか」


「別に~?」


「優奈は花火大会行かないの?」


 ふと、からかってくる優奈に問いかける。


「めんどくさいからいい」


「だから男付き合い下手なんじゃないの」


 軽くいじると、優奈は目つきを変え、俺の髪を軽く引っ張る。


「いたいいたい! 髪抜けるって!」


 少し髪が崩れてないか気になりながらも、優奈の手を振り払った。こいつ、ムキになりすぎだろ。


「お姉ちゃんをいじったらこうなるから」


「はいはい。行ってくるわ」


「気を付けてね。変な人についてっちゃダメだよ?」


「ガキか、俺は」


「まだガキだよ。高1とか」

 

 まだガキ、か。


 1人で生きていくことができないなら、まだガキだと思う。でも、それは自堕落な生活を送っている優奈も同じだと思うけど。


 

 久しぶりに花火大会に来た。勉強で行く暇なかったから。


 道には屋台がずらっと並んでいる。チョコバナナだったり、じゃがバターとか。祭りの時しか見たことのないフリフリポテトもある。香ばしく、誘惑するような匂いが鼻の中に駆け抜けていく。いかんいかん、俺は飯を食いに来ているんじゃない。


 てか、屋台の食べ物って、異様に高い。こんなのに金だすのもアホらしいな。

 

 ....うん。思ってた通り、視線を感じる。男女問わず、道行く人々にチラ見されてる気がする。俺、いまそんなに可愛いんだな。って、何自意識過剰になってんだバカ。


 人混みを抜けた先に、ゆったりとした服に、ショルダーバックを掛けている幸田を見つけた。


「きたぞ。幸田」


「お、しっかり浴衣着てきたんだな」


「まあな。女子っぽいっしょ」


「意外と、な」


「あ?」


「ちょ! まじ痛い! ギブ!!」


 からかってくる幸田の頬をつねる。なんかごちゃごちゃ言ってるがやめない。ほんと、こういうところがモテねえんだって。


「なあ、麻里たちに言ったのか?」


 俺はずっと抱えていた不安を解消させるために、頬を抑えている幸田に問いかけた。


「言ったと思う?」


「...言ってない」


「正解。よくわかったね」


 なにがよくわかったね、だ。なんで言ってないんだこいつ。トラブル起こっても知らないぞ...。


「麻里たち、中央広場にいるっぽいよ。行くか」


 そう言って、幸田は手を差し出してきた。


「...なんだよその手」


「え? 女子って誰とでも手繋ぐもんじゃないの?」


「なわけあるか。お前いつかしばかれるぞ」

 

 人によってはライン超えだぞ。と、横目に見ながら幸田の隣を歩く。



「あ、幸田くんと...」


 広場の入り口前で声を掛けられた。そこには、明るい茶髪の麻里と、イケイケギャルみたいな明日香がいた。二人とも浴衣だ。


「...あんた、ナンパは良くないと思うよ」


「ほんとほんと、サイテー」


 麻里と明日香は軽蔑するような目で、幸田を睨む。


 ほんの数秒後、目の前が真っ暗になり、顔に柔らかな感触がした。


「君、怖かったね~、大丈夫?」


 顔を上げると、明日香の顔があった。


 やっと今の状況を把握した。今、俺は明日香に抱きしめられている。目の前には...豊満なものがある。


 どく、どくと心臓が鳴りやまない


「幸田、この子の名前は?」


「あー、城代葵」

 

 幸田は躊躇することもなく答えた。


「「...え?」」


 二人は呆気に取られた。まるで時が止まったかのように、ピクリとも動かない。


「あ、あの、お二人とも...?」


「「かわいいーーー!」」


 麻里と明日香は、広場一帯に響かせるくらいのボリュームで叫んだ。


 か、可愛い? 今はそこじゃないだろ、絶対違うリアクションだろ。そんな思いをかき消されるように、二人からの畳み掛けが始まる。


「葵くん、じゃなくて、葵ちゃん! 浴衣似合いすぎ!」


「ねえねえ、ほんとに葵なの! マジカワじゃん!」


「お前らうるさい...! あと麻里! ちゃん付けやめろ!」


 数分に渡る質問攻めに、俺は応戦した。


 幸田は、微笑ましく俺らを見守っていた。絶対あとで一発食らわせるからな。


「やっと落ち着いた...?」


「うん。流石にびっくりしたけどね。ほんと、てっきり幸田くんが強引に連れてきたのかと思った」


「幸田なら、やりかねないからね」


「おいおい、俺になんのイメージがあるんだ?」


「「「性格クソ悪ナンパ野郎」」」


 三人で口を揃え、幸田に称号を付けてやった。


 しょんぼりする幸田を見て、みんなで笑う。これまでの行いでそうなったんだから、反省してほしい。


「落ち込んでないで、早く屋台回るぞ」


 4人で花火が見えやすいところまで歩いていく。


「いい匂いー。明日香ちゃんは何食べる?」


「やっぱ、りんご飴でしょ。麻里は?」


「私はあれかな、チョコバナナ。葵ちゃんも好きだったよね」


「あれだけは譲れないからな。でも屋台の飯って全部高いからちょっと躊躇するわ」


「傷ついた心癒してくれぇ...」


 いきなり幸田が後ろからうめき声をあげる。


「はいはい、前の借りもあるし、今日は奢ってやるよ」


「うおー! やっぱ葵は良い奴だー!」


 幸田はさっきまでが嘘だったかのようにはしゃぎ始める。周りの目もあるから抑えてくれ、まじで。


 並んで歩いていると、手に何か感触があることに気づく。これは、右隣を歩いている、明日香の手だ。え、ほんとに女子って普通に手を繋ぐのか? やばい、手が汗ばんでいないか気になる。


 そんな顔に気づいたのか、明日香はぎゅっと強く手を握ってくる。


 この心臓の高まりは、なんなんだ?

 

 女子っていうのは、わからないものだ。


 とりあえず今はいいや、早く花火が見えやすいところに行かないと。うだうだしてたら始まってしまう。


 











 


 


 

 


 


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