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女心に、なってみた  作者:
高校一年生。夏。
3/12

期待なんかされたくない

 今、俺は一番会いたくない人物と対面している。父さんだ。


「お前、葵だな?」


 ダイニングテーブルに導かれ、椅子に腰を掛ける。相変わらず上から目線だな。父さんは。


「そうだよ、何で分かったの」


「優奈から聞いたんだ」


 あいつ、口止めしてたのに...。いや、今はそれどころじゃない。


「そのふざけた格好はなんだ」


「制服だけど」


「そういう事を言っているんじゃない!」


 父さんは、机を少し強く叩いた。


 やっぱり、なにも変わってない。


「なんでこんな格好してちゃダメなんだ?」


「勉強に腰が入らないだろ!」


「それとこれと何の関係があるんだよ」


 確かに、髪を少し巻いて、リップもしていたので、オシャレはしていたと思う。だけどこれは、女性として当たり前のことだろう。


 

 いつも、父さんはそうだった。勉強しろ、勉強しろって。勉強をして、安泰の人生を送ってほしい、と願うのは親としての義務だろう。


 昔から、勉強という呪いの言葉に取り憑かれていた。英才教育といってもいい。


 

 中学三年生の頃。そんな日々に嫌気がさして、家を飛び出した。受験の年ということもあって、俺は何もかもから逃げ出したかった。


 深夜の公園のベンチにうずくまっていた所を見つけてくれたのは、優奈だった。ぽろぽろと、涙を流しながら。その時、初めて優奈の泣いている所を見たっけ。


 初めて、家族として。優奈の弟として、心が温まった。


「もういい」

 


 気づくと俺は部屋へと逃げ出していて、布団にうずくまった。


 俺の意見なんて、最初から通らないんだ。そんなこと、分かってたのに。あんなことで反抗したの、アホらしいな。


 そういえば、優奈も言ってたっけ。「期待されないくらいがちょうどいいんだよ」って。


 俺も、期待される程優秀でもないし。あいつらの期待になんぞ、応えたくない。




「葵、起きてる?」


 部屋をコンコン、とノックされ、聞こえた声は優奈だった。出かけて行ってから一時間ほど。意外と早いな。なんて思いつつ、部屋へと入れた。


「うわ、汚い」


「いいだろ別に。てか帰ってくんの早いじゃん。合コンダメだったの?


「下心満載のやつしかいなくて帰ってきちゃった」


 呆れた顔で、嫌みを言う優奈に、苦笑いした。


「で、なんか用?」


「パパと話したの?」


「うん、相変わらず嫌な奴だった」


 俺が女の子になったこと言っただろ、と言いそうになり、唇を噛む。


「色々、考えることあると思うけどさ。私は葵の味方だからさ」


「...おう」


 心が温まる。これが、姉弟ってやつか。


「あとね。私、そろそろ一人暮らししようと思ってるの」


「あー、前も言ってたね」


 優奈は大学1年生の間は、一人暮らしする気はないと言っていた。理由は、大学まで電車でなんとか行けるからと、自炊とかお金の管理めんどくさい、だと。


「でも、1年生の間はしないんじゃなかったの?」


「そうは言ってたけどね、ママとパパにはもう負担掛けれないな~って思って。冬ぐらいにするつもり」


 優奈が親の負担を考えていたなんて信じられなかった。


「何その顔」


「意外だなって。あいつらの心配してるの」


「私も一応大人だからねっ」


「まだ20歳にもなってないくせに」


「1歳2歳の差とか関係ないよ」



「...あ、あのさ」


 部屋を出ていこうとする優奈を呼び止める。


「ん? どうしたの?」


「...やっぱいい」


「何それ、変なの」


 そう言い、優奈は部屋を出た。


 聞けなかった。優奈の昔のこと。聞かない方がいい気がした。


 あと、唯一の味方である優奈が、離れていくのが怖かった。って、なんかシスコンみたいだな、俺。




 母さんに、俺のことが伝わるのも時間の問題だろう。めんどくさいなと思いつつ、ゲームをし始める。


 ゲームだけが、俺の生きがいだ。嫌な現実から突き放してくれる。早く俺も一人暮らししたいな。こんな親の元でずっといられるわけない。



 ぷるる、とスマホが鳴った。液晶に映し出された名前は、幸田だった。


「おう、どした」


「明後日が何の日か忘れたのか。バカ野郎」


「明後日? あー、ゲームのシーズン変わる日だっけ」


「ちげーよ! あと、シーズン変わるの明々後日な」


「あれ、そうだっけ」


 俺はもう日にち感覚もなくなっているようだ。


「んで、明後日なにかあったっけ?」


「花火大会だって、夏休み前話したじゃん」


「完全に忘れてた」


「まあ、忘れても仕方ないかもな。女の子になったりして」


「珍しい。お前がそんなこと言うなんて」


「あーあ、俺から金盗ったこと言いふらしちゃおうかなー」


「言い方変えろ。なんか犯罪してるみたいでやだ」


「まあ、返すのはいつでもいいよ」


 こいつ、意外と友達思いだな。なんて思いつつ本題に入る。


「メンバー集めたの? 誰?」


「俺と、葵と、麻里と、明日香」


「...え?も、もう1回言ってくれ」


「だから、俺らと、麻里と、明日香だって」


 予想外すぎるメンバーだった。


 安藤麻里は、数少ない女友達だ。まじの陽キャすぎて、いつも周りには誰かいる。もう一人の、小澤明日香も同じように、ギャルっぽい人だ。ネイルは当たり前にきれいにやっている。


「お前、モテたいがために誘ったろ」


「それ以外何の理由あんの?」


 なんでこいつは平然といられるんだ。と思ったが、幸田は陽キャだからこういうのは慣れっこなのかな。てか、こんな奴にホイホイくるなんて、二人の理由がわからない。


「麻里たちはなんでお前の誘いに乗っかったんだよ」


 気になりすぎて、思わず聞いてしまった。


「なんか、もう一人イケメン呼ぶからさ。って言ったらOKしてくれた」


「おい、俺別にイケメンじゃないし。そして今どっちかって言ったら可愛いだろ」


「自分で言うんだ。可愛いって」


 思わぬ失言をしてしまい、顔が真っ赤になりながら枕に顔を埋めた。


「とりあえず把握しといてな。んじゃ!」


「あ、おい! ...切れた」


 俺が女の子になったこと、絶対言ってないよな。不安が溢れ出てきて止まない。なんて顔して行けばいいのやら...。


 


 


 


 

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