JKの始まり
目が覚めたら、もう朝日が昇っていた。昨日は夕方に寝たから、まさに12時間も寝てしまった。
そうだ、今日は学校に行かないと。女の子になったんです、って。いや、こんなこと言っても信用されるのか? 学生証とか見せたらなんとかなるかな。
「ゆう姉、おはよ」
「お、葵。その服似合ってるよ」
「あんま言わないでくれ」
上半身はピンクのリボンがついたを着て、下はいつもどおりショートパンツである。正直抵抗がなくなってきた。
「スカート履いてほしいのにな」
「残念だったな」
「む~、お母さんたちに言っちゃうよ?」
「善処させていただきます」
「よろしい」
女の子になってからは、両親には顔を合わせていない。なんか気まずいというかなんというか。でも、いずれは話さないといけないな。
俺は制服に袖を通し、ベルトを締め、鏡を見る。
もちろん、男子用の制服しかない。当たり前だ、男子高校生が女子用の制服を持っていたら、家族会議どころでは済まないかもしれない。
違和感がすごい。黒髪がきれいに垂れているのに、服装はこれだなんて。なるべく人目につかない道を通っていこう。
容赦なく差してくる日差しに耐えながら、学校につき、職員室に向かう。
落ち着くトランペットの音色が学校中に鳴り響き、外からはファイトー、と掛け声が聞こえる。こんな猛暑の中、部活があるなんて俺は耐えきれないだろう。
ちなみに、俺は無所属だ。ゲームをやりたいから部活には入らなかった。...だからこんな陰キャに仕上がったのかもしれないが、それには目を背けていよう。
「失礼します、1年2組の城代葵です。中村先生いらっしゃいますか」
「ん、はーい...って、え?あ、葵くん...?」
担任の中村凛先生は、生徒人気が熱く、美人な先生だ。
廊下に来てもらい、緊張しながらも話をする。
「...そんなこんなで、女の子になっていました」
「んー、信用できないなぁ。なんか証明できるものない?」
「あ、はい。学生証を...って、あれ...」
ポケットを何度も探っても、学生証が見つからない。まさか、家に忘れるなんて、大失敗もすぎる。
「な、ないです...。ほかのことでなんとか証明させてください」
「ん~、じゃあ質問に答えてもらおうか」
またか、と呆れた顔をしそうになるのを我慢する。
「1学期に遅刻した回数は?」
「5回です」
「期末テストの順位は?」
「23位です」
「クラスでの立ち位置は?」
「陰キ...って、なに言わせるんですか」
「あっはは、でも本当に葵くんなんだ」
「よかったです。あと、相談したいことが」
息をすぅーっと吸い、真剣な顔で伝える。
「女子用の制服ありませんか」
「午前10時26分、城代葵容疑者が女子用の制服を...」
「あの」
「ちょっとからかっただけよ。で制服だっけ?」
「はい。流石にこの服で学校生活を送るのは...厳しいです」
「確か学校に予備の制服あった気がするんだよね。ちょっとまってて」
中村先生は早足で職員室に戻り、いろんな先生に伝え、制服を探しにいったようだ。
ふう、と胸をなでおろした。ほんと、からかい上手すぎて会話が難しい。
「葵くん、あったよ」
廊下の奥から声が聞こえ、顔を上げると中村先生が制服を抱えながら歩いてきていた。
「サイズはあってると思うから、着な」
「え、ここでですか...?」
「うん」
「...先生」
「冗談だって、そんな目で見ないで」
この先生はほんと...。優奈に似ている部分があるな。女子ってこんなものなのか...?
流石に廊下で着替えるわけにもいかないから、更衣室を使わせてもらい、女子用の制服に着替えた。初めてスカートを履いた。ものすごくスースーして仕方がない。
「あら、似合ってるわよ。よ、JK!」
「うるさいです、先生」
「まあ、とりあえずよかった。じゃ、また二週間後ね」
「はい、失礼しました」
夏休みもあと二週間なのか。早すぎる。課題も終わらせないとな。
「お、JKの帰還だ~。制服似合ってるよ」
「からかうな、ゆう姉。もう寝る」
「ソファで寝ると体痛くなるよ~?」
「別にいい」
優奈の忠告を無視し、リビングのソファに寝っ転がり、目を閉じた。
「葵、私そろそろ行くね。鍵閉めてくから」
「んん...わかった...」
まだ眠い目を擦る。すっかり日が落ちていた。
「また合コン? ゆう姉飢えすぎ」
「あのねぇ、そういうこと女の子に言っちゃだめだよ?」
「別にいいだろ、女子同士」
「あ、自分が完璧に女子であること認めたね」
「...」
自分で墓穴を掘ったとはいえ、少しイラつく。
俺は体は女子ではあるけど、元々は男なんだ。それは絶対に忘れてはいけない。
膨れっ面の俺をなだめ、優奈は、「いってきまーす」の声とともに、家を出た。
しばらくソファでぼーっとしていたら、玄関が開いた。忘れ物でもしたか?と思い、リビングの入り口に目をやると...。
「...父さん」