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女心に、なってみた  作者:
高校一年生。夏。
2/12

JKの始まり

 目が覚めたら、もう朝日が昇っていた。昨日は夕方に寝たから、まさに12時間も寝てしまった。


 そうだ、今日は学校に行かないと。女の子になったんです、って。いや、こんなこと言っても信用されるのか? 学生証とか見せたらなんとかなるかな。


「ゆう姉、おはよ」


「お、葵。その服似合ってるよ」


「あんま言わないでくれ」


 上半身はピンクのリボンがついたを着て、下はいつもどおりショートパンツである。正直抵抗がなくなってきた。


「スカート履いてほしいのにな」


「残念だったな」


「む~、お母さんたちに言っちゃうよ?」


「善処させていただきます」


「よろしい」


 女の子になってからは、両親には顔を合わせていない。なんか気まずいというかなんというか。でも、いずれは話さないといけないな。



 俺は制服に袖を通し、ベルトを締め、鏡を見る。


 もちろん、男子用の制服しかない。当たり前だ、男子高校生が女子用の制服を持っていたら、家族会議どころでは済まないかもしれない。


 違和感がすごい。黒髪がきれいに垂れているのに、服装はこれだなんて。なるべく人目につかない道を通っていこう。



  

 容赦なく差してくる日差しに耐えながら、学校につき、職員室に向かう。


 落ち着くトランペットの音色が学校中に鳴り響き、外からはファイトー、と掛け声が聞こえる。こんな猛暑の中、部活があるなんて俺は耐えきれないだろう。


 ちなみに、俺は無所属だ。ゲームをやりたいから部活には入らなかった。...だからこんな陰キャに仕上がったのかもしれないが、それには目を背けていよう。


「失礼します、1年2組の城代葵です。中村先生いらっしゃいますか」


「ん、はーい...って、え?あ、葵くん...?」


 担任の中村凛先生は、生徒人気が熱く、美人な先生だ。


 廊下に来てもらい、緊張しながらも話をする。


「...そんなこんなで、女の子になっていました」


「んー、信用できないなぁ。なんか証明できるものない?」


「あ、はい。学生証を...って、あれ...」


 ポケットを何度も探っても、学生証が見つからない。まさか、家に忘れるなんて、大失敗もすぎる。


「な、ないです...。ほかのことでなんとか証明させてください」


「ん~、じゃあ質問に答えてもらおうか」


 またか、と呆れた顔をしそうになるのを我慢する。


「1学期に遅刻した回数は?」


「5回です」


「期末テストの順位は?」


「23位です」


「クラスでの立ち位置は?」


「陰キ...って、なに言わせるんですか」


「あっはは、でも本当に葵くんなんだ」


「よかったです。あと、相談したいことが」


 息をすぅーっと吸い、真剣な顔で伝える。


「女子用の制服ありませんか」


「午前10時26分、城代葵容疑者が女子用の制服を...」


「あの」


「ちょっとからかっただけよ。で制服だっけ?」


「はい。流石にこの服で学校生活を送るのは...厳しいです」


「確か学校に予備の制服あった気がするんだよね。ちょっとまってて」


 中村先生は早足で職員室に戻り、いろんな先生に伝え、制服を探しにいったようだ。


 ふう、と胸をなでおろした。ほんと、からかい上手すぎて会話が難しい。


 

「葵くん、あったよ」


 廊下の奥から声が聞こえ、顔を上げると中村先生が制服を抱えながら歩いてきていた。


「サイズはあってると思うから、着な」


「え、ここでですか...?」


「うん」


「...先生」


「冗談だって、そんな目で見ないで」


 この先生はほんと...。優奈に似ている部分があるな。女子ってこんなものなのか...?



 流石に廊下で着替えるわけにもいかないから、更衣室を使わせてもらい、女子用の制服に着替えた。初めてスカートを履いた。ものすごくスースーして仕方がない。


「あら、似合ってるわよ。よ、JK!」


「うるさいです、先生」


「まあ、とりあえずよかった。じゃ、また二週間後ね」


「はい、失礼しました」



 夏休みもあと二週間なのか。早すぎる。課題も終わらせないとな。




「お、JKの帰還だ~。制服似合ってるよ」


「からかうな、ゆう姉。もう寝る」


「ソファで寝ると体痛くなるよ~?」


「別にいい」


 優奈の忠告を無視し、リビングのソファに寝っ転がり、目を閉じた。


 


「葵、私そろそろ行くね。鍵閉めてくから」


「んん...わかった...」


 まだ眠い目を擦る。すっかり日が落ちていた。


「また合コン? ゆう姉飢えすぎ」


「あのねぇ、そういうこと女の子に言っちゃだめだよ?」


「別にいいだろ、女子同士」


「あ、自分が完璧に女子であること認めたね」


「...」


 自分で墓穴を掘ったとはいえ、少しイラつく。


 俺は体は女子ではあるけど、元々は男なんだ。それは絶対に忘れてはいけない。


 膨れっ面の俺をなだめ、優奈は、「いってきまーす」の声とともに、家を出た。


 

 しばらくソファでぼーっとしていたら、玄関が開いた。忘れ物でもしたか?と思い、リビングの入り口に目をやると...。


「...父さん」


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