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女心に、なってみた  作者:
高校一年生。秋。
11/12

新しい関係

「よ。体調良くなったか?」


 数日の地獄を越え、俺は解放感に恵まれながら教室に着いた。


 教室に入るなり、幸田が駆け寄ってきた。


「おう。ばっちり」


 正直、優奈がいなければ死んでいてもおかしくなかった。次からは自分でも備えるようにしよう。


「そうだ。葵がいないうちに文化祭の出し物決まったぞ」


「...メイド喫茶か?」


「女子になってテレパシーもできるようになったのか」」


 まあ、分かってはいたが。


 いや、俺がメイドになるということはまだ決まっていない。他の奴らの方が適任だろう。絶対。確実に。


 中村先生が教室のドアを豪快に開けて入ってきた。


「はい。朝のホームルームを始めまーす。席座ってー」


 それぞれの席で話していたクラスメイトは自分の席に戻った。


「まず、文化祭のことです。メイド喫茶をやるということで、メイドを担当する人を決めたいと思います。ちなみに、先生の中で一人、候補は決まってます」


「えー誰だろ! 私やろうかな!」


「僕やりたいです!」


 次々に言葉が飛び交う。


 候補って、どうせ俺だろ。あの顔、いたずらっ子の顔をしてやがる。


 メイド担当は、俺と、女子二人、男子一人に決まった。まさか、男子が立候補するとは思わなかった。




 家に帰ると、ソファに転がっている優奈がいた。


「あ、おかえり~ってうわ、なにその服」


「なにって...メイド服だが」


「...葵、お姉ちゃんにそういうことするのよくないよ」


「違う! 別にゆう姉に着させるわけじゃねえよ!」


 どこに姉にメイド服着させる弟がいるんだか。


「じゃあ文化祭かなんかで使うの?」


「ああ。メイド喫茶やるらしくてな」


「へ~。よく立候補したね? あの葵が」


「立候補じゃなくて確定枠にされたんだよ」


 放課後、メイドの担当が決まったメンバーは、先生からメイド服とカチューシャを貰った。どうやら、事前に買っていたようだ。うきうきすぎるだろ、あの先生。


 本番の前に着こなして慣れなって言われたが、家で着る方が何百倍も緊張する。


「いいじゃん。可愛いんじゃない?」


「これを披露したいとは思えないんだが」


「まあまあ。明日香ちゃんも喜ぶんじゃない?」


 明日香が俺のメイド姿を見たら、幻滅するんじゃないか。いや、逆に見惚れられるか? いっそのこと、明日香に着せたいんだが。


「今日は明日香ちゃん来るの?」


「多分来ないと思う。友達とカラオケ行くとか言ってたらしい」


「らしいって、今日話してないの?」


「まあ、タイミング合わなくて」


「女の子になってまで陰キャ発動してるんじゃないわよ」


「...弟を陰キャって言うな」


「妹ね」


 あの日、俺が生理でダウンしているときに言われた「私じゃ、だめなの?」が引っかかりすぎて、話したくても話せない。


 服を雑に脱ぎ、風呂に入る。


 やっぱり、邪魔すぎる。この胸。


 小さい方ではあるが、下着を着けていないと揺れて邪魔だし、着けたら着けたで汗やら窮屈で大変だ。


 この風呂の時間だけが、心を浄化してくれている。


 ポカポカの髪をブラシでとかし、部屋に戻る。


 今日はあいつらは帰ってこない。旅行? に行っているらしい。夫婦旅行ってやつだ。


 親がいない、ということは。


 徹夜パーティの始まりの鐘がなる合図だ。


 思わずベッドで跳ねていると、何かの振動音で我に返る。


「誰だ?」


 スマホの通知欄に、メッセージが来ている。


「...桐谷海斗?」


 確か、クラスの人だっけか。あまり関わったことがない。席も反対だから、余計に。


 そんな俺に、いきなりなんだ?


「一緒にメイド担当になった桐谷です! よろしくお願いします!」


 メッセージには、そう書かれてあった。


 思い出してみると、確かに先生からメイド服を貰っていた気がする。


「よろしくね」


 素っ気ないと感じられてしまうか不安になりながらも返信した。


 早めにメイド仲間と連絡が取り合えて良かった。また陰キャパワーを抑えなければならないところだった。


 女子三人、男子一人だし、心細いんだろう。だから、元男である俺に連絡してきたのだと思う。


「城代さん、先生に無理やりやらされてるね」


「ほんとあの先生、俺のこと贔屓しすぎだわ」


「でも、あんまり嫌がってなかったね」


「察してたからね。桐谷くんはなんで立候補したの?」


「僕? うーん、なんとなく?」


「なにそれ。面白い」


 ウサギが変顔しているスタンプで、メッセージは止まった。


 なんとなくでメイドをやりたいと思うなんて、中々に猛者だな。桐谷くん。


 て、そうだそうだ。早く徹夜に向けて準備をしないと。


「....ない」


 冷蔵庫からはすでに、エナドリは消えていた。前に飲んだので最後だったのか。


 仕方ない、手間だけどコンビニに買いに行くか。


「ゆう姉、ちょっとコンビニ行ってくる」


「ん、気を付けてね。怪しい人には...」


「だからもういいってそれ」






 




 


 


 


 


 


 


 



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