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女心に、なってみた  作者:
高校一年生。秋。
10/12

恋愛感情

 ぶーっ、と不意にスマホが鳴った。電話のようだ。


 相手は明日香から。


「やっほー、元気?」


「元気だと思うか?」


「学校来てないけど、なんかあった?」


「ん、まあな...」


 生理、と言うのは恥ずかしく思う。別に女子に言うくらいならいいと思うのだが、喉でつっかかってしまう。


「てか明日香、授業は」


「サボりー」


「...どうせトイレから掛けてんだろ」


「正解。流石ね」


「授業出ろって。補習食らうぞ」


「私が赤点取ると思う?」


 明日香は俺より頭いいから、あんまり強くでれない。


「じゃ、放課後家行くね」


「またかよ。まあいいけどさ」


 こいつ、ずっと入り浸ってんな、俺の家に。


 来るのは正直嬉しい。どこか、心の空いた穴が埋まるような感じがして。


 そこで厄介になるのが、父さんと母さんだ。明日香が家にいるところを見られたらなんて言われるか分からないくらいやばそうだし。


 さてと、そんなことよりナプキン変えないと。またなんか、ぐちゃっとした感覚があって気持ち悪い。


「さっき誰からの電話だったの?」


 優奈が湯気が立ったお粥を持って机に置いた。


「明日香から。前泊りに来た」


「心配してくれてんだ。優しい~」


「まあな」


 なんで俺が照れてるんだ。


「ならちょうど良かった。私ちょっと大学に行かないといけなくてさ。面倒見てもらって」


「分かった。じゃ気をつけてな」


 明日香と、二人きり。い、いやいや、相手は女子だ。そうだ、女子だ。


 俺の恋愛対象って、なんなのか。女の子になってからずっと考えている。


 もちろん心は男だ。それは嘘偽りない事実。


 でも、今の俺は女の子だ。恋愛対象は男子のはずだ。


 女の子になってからの一ヶ月、男子と喋ってドキドキする、といった感覚に一切落ちていない。


 なんなら、明日香に落とされている。花火大会のときの手繋ぎ事件から始まっている。


 今の俺って、同性愛者なのだろうか。いや、心は男だからそうとも言えないのか?


 いくら考えても結局、女子...明日香にドキドキしてしまっているのは変わらない。


「あっつ!」


 お粥はまったく冷めていない。ふーふーしなかった俺も悪いんだが、もっと食べやすい温度にしてほしいものだ。


「なんか子供みたいだね」


 前、明日香が勝手に家にいた時もバカにされた気がする。俺、やっぱ子供なのか。


 

 日も落ちてきたころ、短いメロディーを繰り返し鳴る音がする。


 明日香が来たようだ。


「うわ、ほんとに体調悪そう」


「おう...。入って」


 明日香をリビングに案内し、俺はまたソファにぐったりとした。


「ナプキン変えてる? 薬とかも」


「大丈夫。全部優奈に教えてもらった」


「ふーん」


 明日香はなんとなくご機嫌じゃない顔をしながらそう言った。


 明日香が椅子から立ち上がり、俺に近づいてくる。


「私じゃ、だめなの?」


 思考が停止した。俺一人だけ、世界に取り残されているような。


「は? なんだよいきなり...」


「なんでもない。忘れて」


 それ、何かある時言うセリフ第三位くらいのセリフだが。


 空気はさっきと一変し、緊張が走る雰囲気になった。


「ま、いいや。とりあえず生きててよかった」


 明日香は玄関に向かい、少し振り返り、ウインクして家を出た。


 俺はなにも呼び止めれず、ただを口を半開きにしながら見送ることしかできなかった。


「私じゃ、だめなの?」


 さっきの景色が鮮明に頭の中で再生される。


 もうすぐ、結論にたどり着けるのかもしれない。


 明日香は、俺のことが好き、だと。


 自意識過剰に見えるが、これまでの行いを見ているとそう言いたくなくても言えてしまう。


 そこで一つの疑問が浮かぶ。


 なんで俺なのか、だと。


 もちろん、明日香が同性愛者で、女子の俺に好意を向ける。これは普通だと思う。


 元男の女子に、好意向けるか?


 それが一般的にどうかは、俺は分からない。


 考えることは男のときと大差ない。欲だって、人並みにもある。それが暴走したら、それこそ明日香は心に傷を深く持ってしまう。


 だから俺は、女子だとしても、好きという感情を持っても、明日香とは付き合わない。後悔させないために。


 それが明日香にとって、最善な選択なのかは分からない。


 それでも、一番穏便に済む選択だと思う。


 誰も、傷つけたくないから。


 玄関が開く音がする。多分母さんが帰ってきた。


「葵、ちょっと話があるんだけど」


 俺は重い体を起こし、母さんと対面する。


「なに、母さん」


「葵、男の子に戻る気はないの?」


 久しぶりに話すというのに、どんな話題を持ってくるんだ。


「...ない、かも」


 正直半々くらいの気持ちだ。慣れた男の体の方が良いと思うときもある。


 でも、女の子だと、なんとなく安心感もある。複雑な気持ちだ。


「それだけ? もう寝させて」


 冷たい言い方をし、俺はソファに寝て、体を背ける。


 こういう言い方、良くないと分かっている。正直になれない、まさに思春期だ。


 でも、母さんは他になにも言ってこなかった。気遣ってくれてるのか、失望されてるのか、分からないけど。



 







 


 






 



 

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