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1話

一部本物と違う魔法の効果がありますがストーリー進行上の都合で変更したものです。

あしからず。

ここで少し高津恭也という少年についてふれておこう。


高津恭也。地元の高校に通う二年生。

生徒会副会長。

成績優秀。品行方正。

あまり長い言葉で説明すると芯がぶれてしまう。

だから、一言で説明しよう。

彼の本質は裏方である、と。


決して目立たず、表に出ない。

しかし決定的な仕事をこなす。

彼自身頼まれれば口ではぶつぶつ文句を言いつつ仕事をこなしてしまう。

しかもそれがなまじ効果をあげるから、さらに頼まれる…


彼、高津恭也は、そういった人間なのだ。



その件の彼、恭也は今異世界の湖の前で途方にくれていた。

先ほどと今のこと、夢であってほしいと何度も頬をつねるが、ただ赤くなるばかり。

もう、分かっているのだ。

これが現実であることなど。でもなぁ、と思いながら湖面に映った自分の顔を覗く。



「だれだよあんた…」

呟いた恭也の顔は何時も見慣れた、あの人好きのする顔ではなかった。

目と髪はキラキラと煌めく美しい黒。

不摂生な生活をしていた恭也ではありない、いやどんな日本人にもここまで美しいものは無理だろう。

肌は透き通るような輝かしい白。

耳と顎はシャープに。

その幻想的で中性的な美人はゲームなどで良く見る、エルフのようであった。

「そういやヤロー、本来の姿になるとか言ってたな…」

俺はエルフだったのか、と困惑した表情を浮かべる恭也。



恭也は本当の自分についてうーん、うーんと唸っていると後ろの方でガサガサと音が立っていることに気づいた。


「んぁ?」

恭也は胡座をかいたまま首だけ捻って音がする方を向いた。

動物か何かだろうと油断していた。

あれだけ強大な力をもらったこともその油断に拍車をかけていた。


だが草をかき分け彼の前に現れたのは、鹿や鳥なんかの動物の類ではなかった。


それは、人形の光の玉だった。


「は?」

その奇妙な光の訪問者は困惑する恭也をよそに、言語を話した。


「ミツケタ、ミツケタ」

「な、なんだコイツ?」

立ち上がりおっかなびっくり光に近づく。


恭也の指が触れるとその光は輝きを増し、不意に、はじけた。

「うわっ!……ふぅ、もう何なんだよ…帰りてー…」

意味不明な物体に触れ、早くもホームシックになる恭也。


だが彼の目は再び来訪者を捉えた。

逃げ出すべきか悩んだが、結局面倒事の後回しになるような気がして止まることにした。


ものの二、三秒で来訪者はその姿を表した。


メイド服だった。

ネコミミだった。

おまけに尻尾までついていた。

恭也はあまりの異世界ぶりに泣きたくなった。

彼は存外リアリストであったらしい。


そのメイドはハッと何か驚いた後、恭也に泣く暇を与えず話しかけてきた。幸い彼女の言語は恭也に通じていた。

「あなた様は…伝説の…エルフ様ですか…?」

彼女は緊張しながら聞いた。

「伝説どうかは知らないけど、エルフではあるんじゃない?」

恭也はどこか投げやりに返す。

次いでメイドの彼女が感極まったかのように言葉を発した。

「あぁ…ついに…見つけました………はっ!こうしてはいられません!姫様をお呼びしなけば!エルフ様!ここでしばらくお待ち下さい、絶対に動かないで下さないね!」

そう一方的に言い残し、もと来た道ひた走って行く。

走り辛いであろう、草や木も何のその。

素晴らしい快速であっという間姿が見えなくなる。


「……テンション高ー…」

あまりといえばあまりな行動に呆気にとられた恭也は、やっとそれだけを喋ることが出来たのだった。




「そういや彼女が例の猫族キャットってヤツか…」

やっとメイドの呪縛から解けた恭也は今更な事実を確認する。

メイドはあれっきりいまだ帰ってこない。

あのスピードで走ったのなら大分距離があると言うことか…とひとりごちる。

律儀な彼は「ここにいて!」というお願いがあったので、さっきの場所から動かず、上半身だけ"考える人"になって情報を整理している。


「あの人はここの人だよな…ってことはわかわらないことを聞けるってことだな…えぇーと、ここがどこなのか、どういう世界なのか、どの程度の文化レベルなのか、伝説って何なのか、くらいか…あっ後帰り方聞かなきゃな」

難しい顔して疑問のリストアップする。

ぶつぶつ呟く恭也は完全に変質者の仲間入りを果たしているが、幸いここには誰もいなかった。


本当に誰も何も、動物の類ですら、生物の気配は全く無かった。

異常な程に。


そこで恭也はその異常に気がついた。

「おかしい…何の生物のいない。鳥ですら魚ですらいない森の湖なんて…この森は何かある…!」


そこで恭也の胸に一抹の不安がよぎった。

メイドがいつまでたっても来ないのは何か原因があるんじゃ…?

そんな不安が徐々に恭也を覆っていく。

あるいは生き物のように蝕んでいく。


恭也は言い知れない不快感のなか、ニヤリと、笑った。まるで不安なことなど全くないと言ったように。

「へへ、ドラゴンさんよ、あんたがくれた能力早速使わせてもらうぜ!」


〈ライブラ〉!


強大な力の一部が権限した。


その魔法は一瞬で広がり、対象者を補足した。

どうやら戦闘中であるらしい。

しかしその状態はボロボロだった。

毒を受けているようだ。

隣にいる子を庇っているらしい。


しかし相手はメイドよりも圧倒的に強い。


だがそれは恭也の敵ではないだろう。


彼は好戦的な笑みを浮かべた。


「待ってろよ…、今助けにいってやる!」

そう言い残し、走り出した。






森の湖から少し離れた所にある開けた空間でメイドのキリは絶望していた。


目の前にいるのはこのあたりで噂になっていた、力の強い魔物だった。


家ほどもある巨体を重厚な筋肉と皮、体毛で覆い、大きく発達した牙からは神経を麻痺させる毒が垂れる。

その大きなゴリラのような魔獣は狩りの成功を確信し、ニヤニヤといやらしく笑った。


後はエモノが張ったこざかしい結界を破るだけだ。


これももう壊れるのは時間の問題だろう。


キリにもそれがハッキリと分かっている。

だから。

恐怖した。絶望した。

せっかく、伝説のエルフを見つけ出したというのに…!こんな所で!


悔しさがこみ上げて来るが、もうどうしようもない。


そして、パキンっとどこか場違いに小気味良い音が鳴り結界が壊れた。

絶望の音が響いた。

キリは死を覚悟し、きたる痛みに備えきゅっと目を閉じた。


さようなら、姫様…



あれ…?


しかしいつまでたっても予想したような痛みはやって来ない。

それどころか、魔獣の驚いたようなくぐもった声が聞こえる。


どうしたのかと不思議に思い、ゆっくり目を開けていく。



そこには、黒い天使がいた。



否、黒い片翼を生やしとつもなく長い剣で魔獣の口を串刺しにしている……




エルフの姿だった。

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