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懐かしの國

作者: なと

夏は懐かしい記憶を風に乗せて

夕暮れの唄を口ずさんでいる

寒天ゼリーの入った袋をぶらさげて

昭和歌謡はお好きですか

昔の想い出に触れていたくて

街並みを眺めていると

自分の中の獣が静かになってゆく

涙も静かに去って行く

街灯の光は優しく

今夜も不思議な夢を見られそうだ

宿場町の帰り道

懐古病を患って古い家を眺める事に

意義を見出す午後五時の事

幽霊船に乗っている気がする

死にそうな気持ちの夜は

想い出ばかり売っている浅草の仲見世通り

遊女の気配のする金魚が泳いでいた

吉原の古き火災の悲しみに寄り添う

都会の銭湯には

不幸漂う熟女と一緒のお湯の中

私の不幸とよく似ている








風は秋を運んできて

独りぼっちな私をさらに吹き飛ばそうと

孤独ですね寂しいですね

それで嗤う人がいても

私は好きに生きるから

ざまあみろと思います

夏の風景は次第にこの指の間から

砂の様に落ちて行ってしまうけれど

まるで騙されて

奪われていくような

そんな気がしてなりません

悲しい子の様に







丸みを帯びた太陽が沈んでゆくと

黒いマントの怪人が夜を支配してゆきます

ゆっくりと電灯のような月は昇ってゆき

光はなんて凄い生き物なんだと嘆息します

そして闇と私は重なり合う生き物だから

時折、自分の境界線を忘れてしまいます

闇の中で光を想うのは好きな映画を見て

風の中を走っている様な







懐かしい日々を幾歳数えて階段の下で毬をつく遊び

こうべを垂れた向日葵がゆるやかに死んでゆく夏

私という現象は雨の日の白靄のようにやはらかく

微かなため息と夕餉の味噌汁は同じものでできていて

ゆっくりと下降してゆく自分の人生は不幸ですねと

誰も居ない部屋の中で孤独を食いつぶしてゆくのも






秋の風は透き通っている

影法師の唄

旅人の影法師はよく

何処かへ行ったまま

戻って来なくて

宿主を困らせる

良く晴れた日の故郷は

祖母の匂いがする

陽だまりに猫を転がせたような

孤独は人の心を豊かにする

切った梨は帰って来ない人へ

何処迄行っても

道は終わらない気がする

不思議な迷い道







夢のうつつの境い目に宿場町は建っている

孤独な風が吹きます秋の夕暮れ

落ちてくる柿の実

雨の日は探さないでね

あの神社で狐面を被って踊っている

雨に打たれて

赤いドレスで宿場町を行く

彼岸花をたずさえて

繭の中の私

夕暮れは果実に似ているから

グレープフルーツを窓から落とす遊び

古い音色は







故郷の空と溶けてゆく躰を抱きしめて、朝焼けの唄

電信柱は幾何学模様の不思議な人形ただ立ち尽くして

白粉花の匂いで首筋のむずがゆい

何かを思い出しそうで思い出せない午前十一時

遠い空の下、心は一つ、想い出ふたつ

旅人は赤い夢を見て、夜行列車の中で神社に行こうと

真っ黒なたましゐが私に宿る







ぼんやりと路地裏を歩いていると

不意に仏様と肩がぶつかったり

夕方の日差しは寂しい夜になる前の優しい温もり

宿場町にな何か居そうな気がする

あちこちに散華する不幸な影

価値観が狂っていて不幸と聞くと

胸がときめいてしまう困った病気だ

誰か慰めておくれ雨に打たれて泣いている駒鳥を







やがて夏は静かに匣の中で干からびていって

来年の夏にまた蛹から羽化するのだろう

赤い娘は私を嫌うがその頭の血管切れそうな

ヒステリックな叫び声をまず辞めてくれ夏が逃げ出す

静かな朝には昨日の月がおもむろに錆びたナイフを手渡して、

世界を変えようじゃないか

夢の中では銀河鉄道は幸福行きで






懐かしい想い出は寫眞の中で蠢いている、夏だから

扉の向こうは赤い紐で埋め尽くされていた、夢の形

古きは闇を呼ぶ、死んでしまった人の想いを炎にしたら

仏様の像に木漏れ日がきらきらと、人の想いを形にしたら

夏は炎で出来ているみたいだ、灼熱のお参りには陽炎立つ

何時までも子供のままで





夏の神社には夢が詰まっているから陽だまりを浴びに

鳥居の中は不思議な國、私は私に「あなたは誰」と聞く

遠い記憶の中で夏は境内に引きずり込まれてゆく空だけは青い

神聖な場所なのに妖しい感じがするのは何故、風に聞きたい

陽炎立つ揺らめく木漏れ日、此処は確かに此の世じゃない







霧雨は人の欲求に答えられるか、花が咲く

梅雨時の私を見ないでください、濡女は振り返らない

誰も居ない町の中を紫陽花だけがニコニコ笑って

迷路に迷い込んだような謎めいた町は今日も雨

雨は人を癒しまた闇へと引きずり込む魔物の様で

合わせ鏡の中の十三番めで過去の私は真っ赤な服

もうすぐ夏







夜の虫、干からびて死んでいるから謎の漢方薬にしよう

街灯は夢ばかりを映し出す皆で幸せになりましょう

真っ暗闇であなたのまなこだけがピカピカ光って

テールランプがあの世への道しるべになるかも深夜帯

どうしても涙が宵を彩ってしまう不幸症という名の病気

赤い扉の向こうに夜の秘密が隠れている







夜には夜の、言い訳がある

ため息と共に旅人は赤い夢を見た

やわらかな二の腕に噛みつく夜の幻

確かに死ぬほどの理由はないけれど、夏を想いすぎたか

ガラス戸に小さな夕陽が、味噌汁に入れたい

遠くの汽笛はあの櫻が美しいシネマを思い出す

あの神社で祭りが開かれていると知り狐面の知らない子






夕暮れ時には心臓から夢がこぼれ落ちそうになる

伸びた爪をぱちんと切ると何故か夕陽が落下した

子供のいない子宮に確かに闇の生き物が着床した

前世の秘密は凡て黄昏の中に沈殿している

線香花火をしていたら袖の中の夕陽が嫉妬している

良い旅を、車掌さんが幸福行きの切符を手渡すが

夢うつつ








朝焼けも夕焼けも同じ成分で出来ている

だって試験管の中で温かくほのかに輝いているから

夜は夜行列車の中であの街の秘密を探しにゆこう

夜の風は静かに人間を眠りへと誘う

夜雨が降ったようで通りは外灯にちかちかと光っている

風鈴をまだ閉まってない家には幸福が訪れる

夢ばかり







夢の欠片は月の舟に乘って

きらめく星屑をお茶碗に入れたら

宿場町も旅人のコートに入り込んで

柳行李で遠くの昔町へ

冬の訪れはすぐそこで

暗闇の支配する黄昏横丁まで行きませう

風が夜を運んでくる

暗闇は安寧な眠りの國

影法師が街角を散歩していても

怖がることはない

凡て夜の仕業

蜉蝣の幻






沈む夕日に暮れなずむ影法師

午後五時のチャイムと夕焼け小焼け

影は口ほどに物を言う

牡丹餅喰いたいとか団子喰いたいとか

夏の施餓鬼供養をしっかりやっておくべきだった

地獄の底で苦しむ衆生

それでも通りは夕陽に暖かく照らされて

風は何処か冷たく遠くまで行くのか

仏壇の花がせめてもの手向けか








静かなピアノの音が秋空をかなでる

晴れ晴れとした秋の空はどんどん暮れてゆく

冬至までは我慢だ

古い屋敷は地下の座敷牢に夏を眠らせたまま

額にまじない札なんか貼っちゃって

冷蔵庫の中の夕方は

いずれお前も卒塔婆小町だと呪いの様に

今年最後の梨には見知らぬ文字が

宿場町には風が吹いている








秋のお寺に風が吹く

誰も居ない枯れ葉だらけのお寺に

鬼子母神の像が立っていました

何も言わぬ像は何を考えているのでしょうか

秋の夕暮れは寂しい

からりころりと下駄の音がして

甚平姿の親父さんが新聞抱えて家に帰る

賽銭箱に描かれた真言には何の意味がある

気が付くと私の腕にも見知らぬマントラ








宿場町の夏は静かだ

昔なじみの顔がカキ氷屋へやってきて

野球中継ばっかり見ている女将さんの

ぱたぱたとあおぐ団扇を見ている

地球は大変であちこち痛んでいて

僕もなにかしなきゃいけない

宿場町は何も言わず只

昔の人たちの鎮魂歌を口ずさむ

酔いどれ親父のお土産は

小さな竹籠の鈴虫だった







夢の街に夏の訪れ

おたまじゃくしが田んぼの隅で

小学校を開いている

空は何処までも眩しくて

蝉の鳴く道を何処までも歩いてゆく僕ら

壊れているオルゴールは

永遠と調子っぱずれのカノンを流し続けて

宿場町の片隅で日本人形の影は色濃く

吊るし雛は風もないのに揺れている

カキ氷は綿飴の味がした






過去の記憶は墓の底

眠る宿場町は婚姻届けに判を押してくれない

昔の記憶はゆめまぼろし

夜に腰かけて朝焼けに鎮魂歌を唄う

呪いのような声を神社の方角から聞く

優しげな唄は海からやってきて

そっと布団の中で丸まっている

想い出に逢える日はそう遠くないのかも

水平線のきらめきに

呪いは解けて






想い出の夏

懐かしき記憶は小さな匣の中

蝉の抜け殻が入ってゐました

宿場町は祭りも終わって眠ります

私も夏が終わって眠ります

夏の景色は脳裏の裏側でまたたいている

陽だまりの経典には光の粒を狩りに行けと

宿場町の片隅に小さな祠

お地蔵様にはいつも花が供えられ

雨が降る頃には

静けさが立つ






青の季節はやはり夏

誰も歩いていない道で

無人販売所に菊の花が咲いている

夏でも小さな船町は眠っている

私は異邦人で金を探す様に

町を練り歩くケダモノ

満月の夜に獣になって月を奪う

月は朝に金塊になって私の腕の中に

金塊は味噌汁に浮かべると

遅かったな待ちくたびれた

と闇の様な声を上げた






夏の空は青い

何処か遠くへ行きたくなる

脳は冷たい物を欲しがる

夜顔の花は満月の汐を待って咲く

という迷信を作り出す

真昼の月にも昼顔を咲かす引力がある

なんていう迷信も作り出す

懐かしい記憶はカキ氷の裏側に

棲んでいる気がするから

そっとグラスを覗き込む

真夏の青空と宿場町の欠片が見えた






夏は懐かしい記憶を風に乗せて

夕暮れの唄を口ずさんでいる

寒天ゼリーの入った袋をぶらさげて

昭和歌謡はお好きですか

昔の想い出に触れていたくて

街並みを眺めていると

自分の中の獣が静かになってゆく

涙も静かに去って行く

街灯の光は優しく

今夜も不思議な夢を見られそうだ

宿場町の帰り道







古い町並みは問いかける

このままでいいのかと

抽斗の中の蝉の抜け殻は

置いていった夏の最後のたましゐ

夢でも見てたのじゃないか

洗面台には月の欠片が

夜を忘れて旅に出たいと

季節はかすかなため息

観覧車に乗り忘れた夏は

よもや自分のことか

宿場町の影はさっきから

頭を撫でていてくれるから






夢は私を置き去りにして

此の世も私を置いてゆく

しかしそれは小さな優しさ

もしもあなたが早足で季節を駆け巡り

早めに未来に到着した時

凡ての昔を忘れて仕舞ったら

懐かしい記憶にまた触れたくなったら

置き去りにされた私には過去の記憶が

残されているのだから

夢は私に昔のままでいいんだよと


丸みを帯びた太陽が沈んでゆくと

黒いマントの怪人が夜を支配してゆきます

ゆっくりと電灯のような月は昇ってゆき

光はなんて凄い生き物なんだと嘆息します

そして闇と私は重なり合う生き物だから

時折、自分の境界線を忘れてしまいます

闇の中で光を想うのは好きな映画を見て

風の中を走っている様な

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