第十話
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一瞬、誰か俺を呼ぶ声が聞こえ、辺りを見渡していく。……動く影なし。当然だ。こんな静かな暗闇、いないに決まっている。
ここは俺が住んでいる家であり、仕事場であるクリエイト・モダンミヤビでもある。クリエイト・モダンミヤビはショーをメインに制作している家族経営の会社だ。頼まれた場所に仮想空間を出現させ、ストーリー性を持たせたショーを流すことが主な仕事であり、ショークリエイターが担当をしている。もちろん、俺はそこのショークリエイターとして在籍している。
のだが、それも今日で引退した。騒動の始末をつけるためだ。俺のせいで家族だけでなく、仕事にも迷惑かけたから、当然といえば、当然だ。
そんなこともあり、俺は今からこの家を出て行こうとしている。夜逃げみたいでやましさを感じるが、今までのことを思えば、そんなことばかりだ。
ある日突然、俺が作品をパクったという噂がネットで拡散された。またある日、不正な取引をしたという噂がネットで拡散された。またある日、不正な受賞があったという噂がネットで拡散された。俺は連発して拡散される噂に全く覚えがなく、フェイクニュースの類いと思っていた。
そしてある日、とんでもないものを目にした。それは、ウチにある花壇がめちゃくちゃにされ、壁に『盗人野郎』と書かれていた。またある日、壁に凹んだ跡があり、凹んだ上には『不正してんじゃねえ』と書かれていた。そしてまたある日、たまたま庭にいた妻のヒナが花壇を直そうとしゃがんでいるとき、後ろから鈍器のような物で頭を叩かれた。ちょっと思い出すだけでもこれだけ簡単に出てくるが、実際にはもっと色々とあった。もちろん、犯人は逮捕されたが、減ることはなかった。
これ以上、状況を悪化させたくなかった俺は、会社のサイトから訴えることにした。全て実力とセンスで作ったもの、と。
その後は、火に油を注ぐようにもっと過激になった。クリエイト・モダンミヤビのサイトの改ざん、ファンサイトの炎上だけでなく、俺が作った作品がいかにパクリ作品か分析する人まで現れた。
さらに俺の予想の上にいくことが今日あった。上の子が「パパ、キライ。出てって」と言ったのだ。よくよく話を聞くと、同級生の子が「お前のパパ、悪いヤツだ」と言って頭を叩かれたらしい。その話を聞いた俺はショックを受けた。子どもの世界までいっているなんて、思いもしなかったからだ。
そんなこともあり、練っていた計画を早く実行しなくてはと思い、準備している。
練っていた計画、それはフォトグラファーとして生計を立てることであり、一日でも早く技術を身につけなくてはいけない。一番手っ取り早いのは、活躍しているフォトグラファーのアシスタントしながら学ぶことだが、今の騒動で引き受けてくれる人がいるとは思えない。となると、ネットの情報から目ぼしいものを見つけ、見よう見まねでやっていくしかない。回り道をしているみたいで嫌になるが、これしか方法がないのだ。
あとは、一週間前に買った大増量詰め込める黒いリュックで当分の生活に必要なものを詰めこんだ。このリュックは重さに対し、1/20も軽くなる機能が組み込まれているだけでなく、総量も見た目の5倍多く詰められる優れものだ。
今回の騒動で俺は悪い方で顔が売れまくったから、顔も変えないとまずい。それはついさっき、貰った機械で顔が薄い膜が張ったように別人の顔に変えた。
そんな顔を端末の鏡モードにして見ていると、突然、横から声をかけられる。