第九話
男が行った後、すぐに俺はシートを片付け、滞在している宿に戻った。
ファンサイトが存在していた事実に驚愕したとはいえ、同時に見ることに対して恐怖を感じている。被害があったときの状態を覚えているからだ。それでも、どんなことが書かれているのか気になりつつも、教えてもらったサイトを確認した。
さっき男に教えられた通り、すぐにテスト画面が現れた。当然、俺に関するものばかりだから特に悩むことなくクリアし、サイトが表示された。
すると、そこは騒動前と変わらないサイトが表情され、俺が以前作った作品に対する感想と共に、新しく騒動に関するトピックが立ち上がっている事に気がつき、順番にチェックした。それらは知らないことばかりで、俺は時間を忘れ、片っ端から見ていった。
俺の騒動が始まったとき、ファンサイトはサーバーダウンするほどのアンチ意見が溢れかえった。そんな状態で管理を続けることが難しく、一旦閉鎖すべきと管理している会社から勧められ、閉鎖手続きをしたと聞いていた。けど、このトピックを見るかぎり、ファンが言い合える場が欲しいと有志が立ち上がり、サイト継続するための対応策に知恵を出し合ったり、対応策にできる技術を探し回ったりと苦慮している様子が想像できた。
また、ファンの中には襲われて足をひねったり、腕を骨折して病院で治療したり、治療キットでリカバリしたという話も見かけた。そんなファンがいることすら忘れ、いかに自分しか考えていなかったか、このトピックで思い知った。
ある日突然、作品のパクリ、不正な取引、不正な受賞、全て俺に有利になるよう裏取引したという噂が突拍子もなく、ネットで拡散された。これらはウソなのは、俺が一番知っている。だが、そのウソがキチンとウソだと伝わっているのか、このサイトを見ている限り、適切ではなかったかもしれない。
騒動当時、堂々と主張すればわかってくれると思い、会社のサイトから俺の実力とセンスで作ったものと訴えた。その結果、火に油を注ぐようにもっと過激になった。
俺の作ったものを分析する人が現れ、過去の作品から似ている演出や絵を探し出しては、次々とネットで拡散していった。しまいには、1800年以上前まで調べている人が現れた。映画が始まった初期の時代や漫画の初期の時代、アニメやドラマの初期の時代といったところまで現れ、ここがそっくりだと言ってきたのだ。
そんな状態に俺は驚きと恐怖しかなかった。たとえ、新しいものを作ったとしても、またパクリだと騒がれることにためらいすら感じた。
ただ、残っている仕事に穴をあけるわけにもいかず、意地とプライドで作って納品したら、相手先で拒否されてしまった。そして、俺に残ったのは、不正とパクリのレッテルだった。
そんなときでもファンは俺のことを見放すことはなく応援していたことに、このサイトを見て知った。妨害にあったり怪我をしてもめげもせず、みんなで支えあってやっていたことに尊敬した。
本当のことをいうと、ファンを軽く見ていた。ファンの数イコール人気のバロメータとしか見ていなく、俺のセンスは特別だから当然と、どこか押しつけがましい気持ちと、良い作品を作り続けたからうまくいっていた、と思い込んでいた。
この騒動で思い知ったことは、俺はちっぽけで強くなく、ほかの人のお膳立てで実力だのセンスだのというだけのただのかませ犬だった。
今の俺に騒動をうまく対処する方法を思いつくかというと、全くない。もしかしたら、今までの俺の振る舞いがあのような騒動を引き起こした、といえるかもしれない。もし、そうだとすると、二度とできないだろう。
そのため、ほかの道で食べていく手段を得るべく、フォトグラファーの真似事を始めた。フォトグラファーなら同じ景色でも人それぞれがちがう景色を写し取っていくから、パクリを気にする必要がない。
けど、俺はフォトグラファーでやっていくことに自信をなくした。こんなに熱量を持ったファンが再び活躍して欲しいと願っていることが、ありありとわかるからだ。これからも、フォトグラファーとして活躍することが良いのか、わからなくなってしまった。
暗澹たるものを感じ、ベッドにダイブするように横になると、ちがう思いが俺を引っ張って行く。