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第七話

 そんな思いに俺はふけっていながらも、俺の隣でしゃがんでいる男にどう対応しようか悩んだ。正直に言って、さっさと片付けてこの場から出ていくのはできる。けど、穏やかに接してくる男との会話は心が弾むほど楽しい。何よりも、騒動以後から目の敵にされた俺にとって、家族以外の会話は久々なのだ。


 今はこんな場所で呑気にいられるが、騒動は突然、やってきた。


 作品のパクリ、不正な取引、不正な受賞、全て俺に有利になるように裏取引したという噂が突拍子とっぴょうしもなく、ネットで拡散された。もちろん、全てウソであり、すべてそのように訴えた。けど、うまく伝わることなく騒動をさらに大きくさせ、家族にも迷惑をかけ続け、毎日が罪悪感に駆られる日々だった。そんな毎日に残された手段は、仕事だけでなく家族から離れることだった。


 こんな経験したおかげで差し障りない会話であっても嬉しく、気持ちの向くままに口を開く。


「ここはよく来るんですか?」

「ええ。ここなら大声出したり、走ったりしても問題ない所ですから、重宝してます」

「そうですか。見た感じ、活発そうなお子さんたちですね。何歳になるんですか」

「七歳と三歳の双子です。七歳の方が長女で、双子が長男と次女ですね」


 ありきたりとは言え、聞いたことに答えてくれることに俺はさらに心が弾むものを感じた。騒動の前、こんな差し障りない会話に価値を見出すことはなかった。もしかしたら、こんな会話で心を動かすことなんて、今までなかった事かもしれない。


 さらに気持ちをおもむくまま、俺は話を続ける。


「ということはかわいい盛りでは?」

「可愛いと言うより、騒ぎ盛りですよ。ケンカもしょっちゅうですし」

「……うらやましい限りです」


 ふと、残した子ども二人のことを思い出してしまった。ケーキの取り合い、ハンバーグの取り合い、と何気ない日常だが、今となっては遠い昔のように感じられる。騒動から全て変わり、家族との日常も幻に変わりつつある感覚に、全てウソの虚像だと言われても、今の俺ならきっと信じるだろう。


 そんな俺の心情を知ってかどうか知らないが隣の男は黙り続け、波の音と子どもたちの騒ぐ声が遠く聞こえる。


 正直に言って、隣の男はうらやましい。何事もなければ、隣の男と同じように子どものお守りしたり、何かにつけて俺を困らせているにちがいない。今となっては、ケンカで困ったことすら遠い思い出だけとなった。


 それが今の俺にとって一つの疑問が生じる。『本当にこれでいいのだろうか? 家族の側で見守る方が価値あるのでは』と。


 それに、たまに妻からの連絡が俺の苦しみとなっている。近況やら、子どもの成長やらと色々と書いてくれるのだが、遠い昔のように感じる俺に返事など書けなくなってしまった。


 今日もこうして外で活動できるのは、家族の支えがないとできないのは十分わかっている。わかっているからこそ、自立して稼げないことに許せない自分がいる。だから家族の元に帰らずにいるのだ。


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