第五話
そんなことを思い出しつつトアンの様子を見ていると、うまくラムネのビン開けられず、悪戦苦闘しているところだった。そんな様子にちょっと可愛く見えつつも、ちょっとかわいそう、と相反する気持ちになった。
「貸な。トアン」
そこで俺はそのラムネを開けようとリュックからハンカチを出し、俺が座った席にラムネのビンとハンカチを置いた。そして、俺は床に腰を降ろしておっちゃんがやった通りにやると透明なビー玉が窪みに落ち、ビンの中でシュワシュワと弾けた。
「ぅお〜」
トアンもいつの間にか俺と同じように床に腰を下ろしており、目を輝かして俺が開けたばかりのシュワシュワと弾くラムネのビンを見つめている。ラムネが落ち着くと俺はハンカチで飲み口を拭き、トアンに渡した。
ハンカチで手を拭きながらトアンの様子を見ると、ビー玉が引っかかってうまく飲めないようだ。
その様子に俺は飲んで見せればいいんだと思い、席の端に置きっぱなしの飲みかけのラムネのビンを持ち、また席に座り直した。
「トアン、見てみろ。この丸っこいのはわかるか?」
「うん、これだね」
この丸っこいのは、俺が鼻を摘んでいると見えた場所だ。もちろん、トアンには言うつもりはない。
「この丸っこいのを自分の方へ向け、傾けて飲むんだ。あんまり傾け過ぎると塞がっちゃうからな」
トアンは俺の言う通りにして飲んでいるようだ。さっきとは違い、うまく飲めているようだ。
トアンに誘われるように俺も一緒に飲んだ。最初の一口飲んだときと味は変わっていなかったが、一緒に共有した空間が溶け込んできた。透明で爽やかなラムネをさらに引き立てるように。
案外、おっちゃんが言ったことは正しかったかもしれない、贅沢だと。そう思っていると、遠くから何かが聞こえた。