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第三話

「あと、僕、坊主じゃあなくて、トアンだよ」

「トアンね。んじゃあ、トアンはここまではお父さんとお母さんと来たの?」

「そうだよ。今、お父さんもお母さんも寝ちゃってさ。僕、つまらなくて、この中を探検してんだ」

「探検って、危なくないかい?」


 窓もなく、カダン、ゴトンと進む列車の中を子ども一人、出歩く危険を感じていたからだ。


「危ない? ぜんぜん。だって、トロッコって僕の歩く速さで走るんだもん。外、見るの、飽きちゃった」

「トロッコ?」

「あれ、ラムネ君。知らないで乗っていた? これ、観光列車だって、お父さんが言っていた」

「ヒ……」


 出かけた言葉を引っ込めた。「ヒュウガ」と名乗ることを。今さら俺はヒュウガだと名乗っても手遅れだと感じたからだ。それに、ここだけの関係にわざわざ名乗ることもないと判断したのもある。


 その代わり、トアンが言ったもう一つの言葉をつぶやいた。


「これ、観光列車だったんだ」


 観光列車という言葉から俺の少し前の記憶から呼び起こした。たまたまトロッコ列車の宣伝を見つけ、どんなものかと興味を持ち、乗ったんだっけ。


「僕、初めて乗るから楽しみにしてたんだ。けど、川や木ばっかだし、あんまり動かないから、つまんない。こんなんなら、ちがうのにすれば良かった」

「そうか。トアン、知ってっか? 大昔の人はこんなので移動してたんだ」


 これはトロッコ列車の宣伝文句をそのまま言っているだけだ。当然だけど、今の俺たちの移動手段は『ヒューマン・トランスポーテーション』という装置で目的地近くに移動する。


「え、そうなの?」

「着くまでずっと同じ席で座り続けたらしい。そんなことができる大昔の人たちって辛抱強かったかもな。大人も子どもも」

「僕、ずっとこんなんヤダ」

「だから、景色を見ながら乗ることが大昔の贅沢な楽しみだとさ。目的地まで少しずつ変わっていく風景が旅情を掻き立てるらしい」

「ふ〜ん」


 トアンは興味なさそうに外の景色を見た。ゆったりと流れる川のせせらぎ、濃く彩る木々が鮮やかに輝いている。そこから入る風はのどかで、ゆっくりな時間を感じさせた。


 そんな景色をつまらなそうに見つめるトアンに、俺は静かに苦笑をした。



 景色を見ることに飽きたトアンは、俺の足元に置いてある大きな黒リュックに刺さっている存在に目が止まる。


「あ! ラムネ、もう一本ある! これ、飲んでいい?」

「おう。いいぞ」


 そのラムネはトロッコ乗る前に、おっちゃんから二本買ったら割り引くとか言って無理やり買わされたやつだ。


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