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それでも、アリスは行く~~無秩序のハーモニー~~  作者: 石山コウ
第一章 奇跡を起こすロボット
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第七話

 程なく時間が経ち、ハジメに変化があった。


「終わった」


 硬質フレームの表示画面が変わり、『ただいまソフトウェアへ加工中』となった。



 そこから数分ぐらい経つど、『ただいまソフトウェアへ加工中』が消え、白い画面へ変化する。その変化を病室内の全員が固唾を呑んで注目した。


 そして、一人の人物の顔が現れた。


「何だか感覚が違う。どこだ、ここは?」


 硬質フレームにはアオキ・ヒュウガが映っていた。その様子はどこか戸惑っていた。


「ここは病院です。感覚が違うのはデジタル変換したからなんです」


 アリスは教科書通りに答えた。この展開は事例通りだからだ。


「デジタル変換か……」

「……久しぶり」

「ヒナ、久しぶりだな。これからはデータ生命体として、もっと頑張っていかないとな。それには、今まで以上に技術を磨かなければ」

「……そうね。そうだよね」

「…………」


 硬質フレームの中のヒュウガの表情が少し歪んだ。


「あなたに見てほしいものがあるんだ」


 ヒナは持っている端末を操作して、男性の立体映像を出現させた。



〈‐‐今、目の前にいるヒュウガに言っておきたい。お前がこの二年間、家族に会うこともなく、色んなところに行ってきたそうだな。確か、フォトグラファーだっけ。


 けどな、そうやってできるのは誰のおかげだと思っているんだ? すべて、ヒナさんが色々と手を回したおかげなんだよ。それも子ども二人を世話しながら。


 お前はこの二年間、家族のことを顧みなかったのか? ヒナさん、よく子どもの写真やら動画やら送ったそうだが、何も感じなかったのか?


 実はな、お前が心停止になってから家族全員が集まって、お前の今後について話し合ったんだ。そしてな、結論として、データ生命体のお前はいらない。現代の技術で死ぬ前に固まった思考パターンは変えることができないし、いつまでもヒナさんの手を焼かせてまで生きてほしくない。見ていて可哀想だったんだよ。


 ああ、もちろん、子どもたちもヒナさんもこっちで面倒見るから心配するな。まあ、お前に心配する気持ちが残ってたら、いいがな‐‐〉



 それを見終わったヒュウガは、考えるように黙った。


「みなさん、大変申し訳ありませんが、夫のデータはなかったことにしてください。私のことはいいんです。けど、子どもたちのほったらかしだけは、どうしても許せなくて。もう、子どもたちはパパいないと思っているし、今さらパパとして振る舞っても戸惑うだろうし。さっきの会話で決心がつきました」

「……本気で言っているのか?」

「そうよ、本気よ。もう、あなたの存在なんていらない。ここ二年、送ってもちゃんとした返事は来なかった。子どもたちは成長しているのに、何も感じないなんて、最低」

「待て、おい?」

「これ以上、らちがあかないから、このまま消去をお願いしてもいいですか?」


 ヒナの言葉にアリスは嫌なものを感じた。アオキ一家のやり取りが否定的な感情ばかりで気分が沈んでしまった、ということもある。が、それ以上にデータを消した後の対応が面倒になるのは目に見えていたからだ。


「それはまあ、……できますけど。その場合、ヒナさんご自身でボタンを押してほしいんですけど。後ろのリセットに」

「データ関門士か? 頼む、もう少しヒナと会話させてくれ!」


 アリスは硬質フレームで訴えかけるヒュウガに気にしつつも、渋々と裏返してヒナに渡した。


「ここね。というわけで、これで全て終わりね」


 色々と言ってくるヒュウガを気にする素振りもなく、ヒナはリセットボタンを押した。次の瞬間、プツっと全て切り替わった。硬質フレームの表示画面は黒く変わり、何も聞こえなくなったのだ。その硬質フレームをヒナはアリスに返した。


「これで大丈夫でしょうか?」

「問題ありません。あとはこちらでやる作業ですので」

「みなさん、お騒がせしました。もちろん、やっていただいた作業分もお支払いします」



 ここは病院前の桜並木。季節はまだ冬。枝のみの殺風景な場所をアリスはカゴを持って歩いていた。そのカゴの開いた口には、ハジメが顔を出している。


「いや〜、面白いものを見た。これって、どんでん返しっていうんでしょ。こういう場面って」

「もう、ハジメったら。人ごとのように思っているんでしょ? 私、これから、報告書を書かないといけないんだから。一回で通るかな、今日のこと」

「さあ、どうだか。データでも滅多に見かけないから、二、三回往復するんじゃない」

「あ〜。やっぱり、人ごとのように見てるし」

「人ごと? 僕、ロボットだよ。人ごとに見るなんて、できないよ」

「ハジメ、冷た~い。こういうとき、応援するとか言うんじゃない?」

「応援? 報告書を書くときって応援必要なの? 僕がデジタル変換のとき、アリスの応援なくてもやったよ」

「…………」


 アリスは痛いところを突かれたのか、目線を横に向けた。


「まあ、アリスがそう言うんなら応援してあげるよ。はい、ガンバレ、ガンバレ」

「…………もういい。十分、伝わったから」


 アリスはため息をついた。



 アリスがため息混じりにトボトボと歩くのを横目に、ハジメはふと考えを巡らせた。


――今回のデジタル変換、たぶん普通に終わらない。単純に消し去ったという理由だけでない、重要な事件があるにちがいない。


 ハジメはデジタル変換で漏れ出た記憶を見て、何か大きなものが背後にある印象を受けたからだ。それはアオキ・ヒュウガの消去の裏に、陰謀がうごめいている可能性も考えられたのだ。そして、ハジメは記憶をもう一度見直す必要性を感じ、『やることリスト』に『アオキ・ヒュウガの記憶見直し』を追加した。


 後に、この考えがアリスにも影響を受けることなど、この時点には知るよしもなかった。


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