吹雪の山荘
「妙な話なんですよね……」
S工業大学でワンダーフォーゲル部に所属する矢木さんは、コーヒーカップをぼんやり見つめたまま語りはじめた。
「高柳先輩は左腕がないでしょ、植田先輩も同じ、佐山先輩にいたっては右足ですからね……。誰に訊いても凍傷にかかって切断したとしか答えません。でも以前顧問をやっていた准教授に訊いたら、救助隊が山荘に到着したとき、すでに彼らの腕や足はなかったって言うじゃないですか。ありえます? いくら凍傷にかかったとはいえ、生きた人間の腕や足を医者でもない者が切り落とすなんて……」
彼らは毎年、新人錬成合宿と称して南アルプスの聖岳から光岳にかけてを縦走登山する。そして現在の四回生がその合宿に参加したとき事故がおきた。滑落した仲間を助けようとしてテントと食料を失い、仕方なく彼らは一時、光岳にある山荘へと避難したのだ。
「ずいぶん体力を消耗したと思いますよ、シュラフにくるまってガタガタ震えながら過ごしたんですから。とてもじゃないが何か口に入れないと体が保たない。でも彼らが所持していた食料といえば、板チョコ二枚とノンシュガーの飴が袋に半分ほどでした」
建物へ避難するとすぐ猛烈な吹雪に襲われ、やがて備蓄されていた燃料も底をつき、彼らは暖房も食料もないままそこで六日間というものを過ごしたという。
「警察には、切断した腕や足は腐ったからどこかへ捨てたと説明したらしいです。でも……こんなことは想像したくないんですけど」
そこで矢木さんはいったん話を区切り、しばらくしてコーヒーカップのふちを指でぴーんとはじいた。
「止めておきましょう。今夜はM看護学校の女の子たちと合コンなんですよ。五反田の焼肉店で」
お読みくださり、ありがとうございました。
実際に自分で書いてみるまでミステリー小説の難しさが分かりませんでした。なのでミステリー書きの作家さんはスゴイと思います。イボヤギさんのミステリー小説はかなり本格的で、推理小説を専門に読むかたでもじゅうぶん楽しめる内容となっています。興味を持たれたら、ぜひ一度ご覧になってみて下さいネ。
でわでわ