3話 騎士団長の憂鬱
「でん...団長!」
城のような建物の中、廊下に響き渡る靴音。
爽やかな赤茶色の髪と緑の瞳を持つ青年が
団長と呼ばれた人物を追いかけ呼び止める。
「はぁ...なんの用かな『副団長』」
ため息をつき、少し棘のある言い方で返すのは
金色の髪に青い瞳を持つ長身の青年。
「そう嫌そうな顔すんなよ。
俺だって間違えたくて間違えてるわけじゃ...」
「ギルバート副団長」
言い終える前に笑顔で名前を呼ばれる。
目は笑っていない。
「以後気をつけます。フランシス団長。」
「よろしい」
納得のいかない顔で礼の姿勢をとり本題に入る。
「平民の居住区で瘴気と共に魔獣の出現が
目撃されてる」
「またか。最近はもう珍しくもなくなったな。」
本日何度目かのため息をつきながら目頭をおさえた。
ここ数ヶ月、魔獣の目撃情報が増えつつある。
王立図書館の最重要機密に記されている
数百年に一度現れる現象が、わが国に起こっている。
「歌姫の選定は」
「終わってるよ。中央広場に集まってもらってる。」
「そうか...」
【歌姫】それは、瘴気を浄化するとされる存在。
数百年前の文献には詳しいことは書かれておらず
【歌】【姫】という言葉だけを頼りに妙齢の女性だけを集め、
瘴気で凶暴化した動物を弱らせ、捕獲し、檻に入れて
カーテンで隠した。
その動物に向かって1人ずつ歌を唄ってもらうのだ。
本当に、この方法で見つかるのか?
瘴気が現れ、動物が凶暴化し、魔獣まで出始めてから
約1年。
我こそは歌姫だと自信ありげにやってくる
令嬢相手にも疲れていた。
歌姫ではないと告げるやいなや発狂するその高慢さ。
僕に猫なで声で擦り寄ってくる卑しい態度。
全く進展のない日々に苛立ちを覚えていた。
「おいフラン、大丈夫か?隈がヒドイぞ...その顔で
お嬢さん達に会いに行くのか?」
「ギル、僕の顔が歌姫選定の足枷になるとでも?」
いつもの笑顔を張り付けながら睨みつける。
「へいへい、せっかくのお綺麗な顔が。
笑顔の1つでも見せてやれば嬢ちゃん達のやる気も
上がるんじゃねーの。」
フランシスは大きなため息をついた。
令嬢達がやる気を出したところで状況が好転するものか。
むしろ、妙な勘違いをする令嬢が増えるだけだ。
「無駄話はいい。行くぞ」
相変わらずの態度にギルバートは降参とばかりに手を挙げ、
2人は沢山の令嬢達が集まる中央広場に向かうのだった。