第99話 砕氷の牙
酒盛りで馬鹿騒ぎをしつつ、時々、近くにいる若い女性にやたらと声をかける刺青の男。私には関係ないとばかりに、黙々と食事を続けるツバキ。とてもではないが、同じチームにいる間柄とは思えなかった。
「ずいぶんと騒がしいと思ったら、またお前達か、『星の円卓』。特にお前には、素行不良の件で、以前にも厳重注意をしたはずなんだがな。そうだろう、『獅子座』のタイソン?」
肉食獣を思わせる重低音の声が、ギルドの中にいる全員を沈黙させた。刺青の男は――タイソンは声の主を、奥から姿を現わしたスティーブンを睨んだ。スティーブンも負けじと上から睨み返した。周囲に緊張が走り、にわかにざわつき始める。
「はあ。下らない遊びは、そこまでにして、タイソン。今日、ここに来たのは、北東開拓拠点に、この人達と一緒に行く、ためだから。今回は一応、リーダーの命令で来ていること、忘れないで」
ツバキが食事の手を止めて放った言葉に、タイソンは食いついて席から立ち上がった。タイソンは全身の血管を浮かび上がらせ、筋肉を隆起させた。それを見たスティーブンは、険しい表情でタイソンの腕を掴んで制止する。
「はい、揉めごとはおしまい。さて、希望者は全員集まったみたいだし、具体的な目標や日程があるなら、もう発表しちゃいましょ。ね、ギルドマスター?」
一触即発の空気の中、キャロラインは明るく大きな声でそう言って、これ以上雰囲気が悪化しないように努めた。それを聞いてスティーブンも少しは冷静になれたのか、一つ咳払いをしてから、全員の顔が見える位置まで移動した。
「さきほどは見苦しい姿を見せてしまってすまなかった。今から北東開拓拠点での、お前達の役割を確認するために改めて説明する。お前達には特別連合チーム『砕氷の牙』として、目下、拠点の脅威として迫っている魔物共を一掃、もしくは撃退してもらう」
特別連合チーム。三つ以上の開拓者チームが、中長期的な目標を達成するために、期間を設けて結成する大型チームのことだ。ブルク・ダム遺跡と白銀の塔を攻略した時も、似たようなことをしたことはある。だが、特別連合チームはそれらよりも大がかりで、ルールも厳格になってくる。
開拓者ギルドが主導して、特別連合チームを結成するとは、かなりの力の入れようだ。しかも、チーム名にわざわざ『砕氷』とつけるとは。ギルドが一体何を一番警戒しているのか、よく伝わってくる。そんなことを考えていると、スティーブンが何かの書類を、一人につき一枚ずつ配り始めた。
オレは受け取ったそれをよく読んでみると、それは『砕氷の牙』として活動するための契約書だった。報酬と制約、制約に反した時のペナルティ、主な活動内容などが記載されている。一番下には、名前を書くための空欄がある。
契約書を一通り確認し終わった後、オレはこっそり周囲の様子をうかがった。さっさと契約書にサインした者もいれば、まだためらっている者もいる。自分の実力に自信がありそうな者ほど、サインするのが早い気がした。――オレは契約書にサインした。これで、もう後戻りは出来ない。
次回は1月19日に公開予定です。
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