第94話 一時帰還
正午過ぎ、メリッサとキャロライン、その他主要な人物は全員、指令室に詰めかけていた。アイスドラゴンの鱗を発見してからすぐに、オレ達は北東開拓拠点に戻っていた。鱗のことを知ったメリッサは即座に主だった者を召集し、三時間近く経った今でも会議を続けている。
「長引いているね。まあ、そうなるよねえ。ある程度は想定してはいたんだろうけど、いざ、ドラゴンと戦うかもってなるとねえ」
アンヌは昼食の干し肉をかじりながら、落ち着いた様子で指令室を見ている。それに比べ、オレは会議が始まってからずっとそわそわしてばかりだった。指令室の出入り口から時々、言い争う声が途切れ途切れに聞こえてくるが、会議が終わる気配は全くなかった。
「アンヌは怖くないのか。ドラゴンって、この世界で最強と考えられている種族の一つだろ。まして、あんな恐ろしいものを見た後じゃあ――」
オレは立ったまま凍死したオークやゴブリンを思い出した。エマニエルの魔法でもああはならない。あんな恐ろしい光景を作り出せる、とんでもない怪物と戦うかもしれない。そう考えただけでもぞっとする。
「もちろん怖いさ。でも、開拓者として生きていく以上、こういった危険は避けようがないのさ。――覚悟を、決めるしかないんだよ」
アンヌは優しい笑みを浮かべてそう言ったが、最後は自分にも言い聞かせていたようにも聞こえた。そして、彼女が干し肉を食べ終えた時になって、ようやく指令室での会議が終わった。指令室から出て来たキャロラインは普段と変わりなく、落ち着いていて余裕のある様子に見えた。
「みんな、アンカラッドへ帰る準備をしてちょうだい。『暁の至宝』はアンカラッドへ一時帰還して、ここで戦ってくれる新たな仲間を募ることになったわ」
「待って下さい。どうしてですか。私達がわざわざ帰らなくても、拠点の連絡係がギルドに伝えて、ギルドの職員が募集すれば良いだけじゃないですか。今は拠点の守りを少しでも薄くしたくないはずです!」
キャロラインが口にしたチームの方針に、オレは思わずあんぐりと口を開けた。アンヌもさすがに驚き慌てて、キャロラインに理由を問うた。すると、キャロラインは少し言いにくそうに頭をかいて、それでもため息をついて白状した。
「私達に白羽の矢が立ったのは、ベルンブルクでの一件で有名になったからよ。私達の知名度を利用して、仲間を短期間で一気に増やそうって魂胆ね」
キャロラインはかすかにだが眉根を寄せ、口調を尖らせた。アンヌも一応は納得したようなことを言ったが、不服そうな表情を隠し切れていなかった。これから他のメンバーにもこのことを伝えることを考えると、胸が少し苦しくなった。
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