第87話 みんなの目的
翌朝、無事に体調が回復したオレは、朝の巡回警備に参加していた。曇り空から粉雪が舞い落ちる中で、白い息を吐きつつ積雪を掻き分けながら、静かな森の中を進んでいく。生き物の気配が全くなく、まるで森全体が冬眠しているかのようだった。
「ここで少し休憩にしましょう。朝食を食べそこねた子は、私が簡単なものを作ってきたから、これを食べていてちょうだい。見張りは私がするわ」
キャロラインはそう言ってリュックサックから、ちょうど人数分のサンドウィッチを取り出した。マキナとエマニエルはすぐに食べ始め、アンヌとジャックは懐にしまった。特にアンヌは、妙に嬉しそうな顔をしていた。それぞれの反応を見てから、オレはサンドウィッチを口にした。
新鮮な野菜と厚めに切られたハム、それと目玉焼きが、サンドウィッチの中で一体となって、お互いを引き立てあっている。あっという間に完食してしまった。なんというか、食べ足りなくて、むしろ余計にお腹が空いてしまった。拠点に戻ったら、また作ってもらえるよう頼んでみようか。
「よう、ヒロアキ。元気になったみたいで良かったぜ。この前の夜はいきなり暗い話をして悪かったな。けどよ、『凶兆の流星群』については、もうそろそろ話さないといけないと思っていた。だからあの時、思い切って話すことにした」
いつの間にかオレの側に来ていたジャックは、最初は明るく話しかけてきたが、途中で真剣な表情へと変わった。粉雪は変わることなく、静かに空から舞い落ちている。マキナはエマニエルと一緒に楽しそうに、小さな雪だるまを作って遊んでいる。
「いいよ、気にしなくて。知るべきことを、ベストなタイミングで知るのは、良いことだと思う。いずれ向き合わないといけないことだから、なおさらね」
オレはなるべく明るい口調でそう言ってみた。だが、自分が口にした最後の言葉が、自分の胸に突き刺さった。『あの時』の罪と後悔に今までも、そしてこれからも向き合い続けないといけない。そのことが何よりも辛く、心に重くのしかかる。
「知るべきこと、か。マキナも新しくウチに入ってきたことだし、それぞれが何をしたいのかを、また改めて確認し合ってみても良いのかもしれねえな」
ジャックは空を見上げた。雪が止み、雲の切れ間から陽の光が差し込んでいた。キャロラインが休憩時間の終わりを告げ、オレ達は巡回警備を再開したのだが、ジャックの足取りが休憩前よりも軽くなったような気がした。胸のつかえがとれたようで何よりだ。
時刻はもうすぐで八時を過ぎる頃だ。オレは歩きながらさきほどのジャックの言葉を思い出していた。確かに、同じチームにいながら、お互いに知らないことはまだまだたくさんあるだろう。新たにマキナが加入して間もない今ならなおさらだ。
しかし、オレは話せるだろうか。過去の罪を。世界の秘密の一端を。そして何よりも、みんなに嘘をついていることを。オレは、話せるだろうか。
次回は11月24日に公開予定です。
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