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第85話 明晰夢

 ふと目が覚めると、オレは懐かしくも忌まわしい場所にいた。何年も使い回されてぼろぼろな机とイス、あちらこちらが白く濁った黒板、そして、小さな輪を作って何かをしている子供達。これら全てがモノクロの光景として、オレの目に飛び込んできた。明晰夢だとはすぐに分かった。


 子供達の小さな輪の中心で、もう一人の子供が床に座り込んで泣いている。その子は目でオレに助けを求めている。だが、オレは何も出来ない。何故なのか。簡単だ。何もしなかったからだ。――視界にノイズが走り、場面が変わる。


 次の場面もモノクロだ。古びたピアノ、乱雑に置かれたその他の楽器達、そして、窓辺には助けを求めていた子供が立っている。だが、今はもう助けを求めていない。その子供の目に宿っているのは、失望と絶望だけだ。


 何人かの大人が窓辺の子供に対して、必死に何かを呼びかけているが、当の本人に聞く気はないようだ。そして、その子供はこちら側に体を向けたまま、両手を広げ、窓の向こう側へと体を投げ出した。


 大人達は窓辺へ駆け寄り、子供達は悲鳴を上げる。そんな中、オレは身動き一つ出来なかった。当然だ。オレはただ見ているだけだったからだ。一人の子供が窓の向こう側へと消えてからしばらくして、救急車のサイレンが聞こえてきた。――再び視界にノイズが走り、場面が移り変わる。


 次の場面もまたモノクロだった。場所はどこにでもありそうな普通の公園。しかし、この場所はオレにとって、とある友人との思い出の地でもあった。ベンチに座っているオレの右手には、一体の人形がある。小学生の頃に流行したあるヒーローものアニメの、主人公の人形だ。


 友人とはよくここで、ヒーローごっこをしたりして遊んだものだ。そして、いつのことだったか、こんな約束をした。――もし、どちらかが困ったり悩んだりしていたら、お互いに助け合おう。それがきっと、友人として、ヒーローとして正しい在り方だから。


 だが、約束が果たされることはなかった。友人が一番苦しんでいる時に、オレは自分の保身を理由に、友人を見捨てたのだ。その結果として、友人は窓辺から体を投げ出してしまった。――視界が一瞬で真っ暗になり、オレ一人だけの世界になった。


 思い出の公園はもうない。老人ホームへと姿を変えたからだ。大切だった人形はもうない。実家の物置に投げ捨てた後、見つからなくなったからだ。オレが全てを台無しにしてしまった。残ったのは友を失った喪失感と、友を見捨てた罪悪感だけだった。


 視界の一点が急に明るくなった。夜が明けて、目覚めの時が訪れたのだ。時間が『あの時』から今へと戻っていく。オレは今まで何度も今夜と同じ夢を見たが、いつも決まって憂鬱な目覚めになる。今日の朝の気分も、きっと最悪だ。


次回は11月10日に公開予定です。

ツイッターもよろしくお願いします!

https://twitter.com/nakamurayuta26


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