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第84話 タブー

 拠点に来てから最初の夜を迎えた。東の方角を睨む見張り台の上で、オレはジャックとマキナと共に夜の警備をしていた。毛布をかぶって寒さに耐えながら、オレ達は少しでも気をまぎらわせるために雑談をしていると、やがて、話題は聖夜祭の日には何が行われるのかになった。


「聖夜祭は年末と年明けを挟んだ、七日間に渡って開催されるんだが、とにかく全部がすごいんだ。普段じゃお目にかかれないような豪華な料理、大通りを埋め尽くす人混み、スリリングでエキサイティングな大道芸。町中が聖夜祭の間、どんちゃん騒ぎをするんだぜ!」


 ジャックは体を震わせながら、興奮気味にそう口にした。寒さに耐えるための空元気なのかもしれないが、それでも今のオレとマキナにはありがたかった。少なくとも、ただひたすら苦痛でしかなかったこの時間を、楽しく感じることが出来ている。


「それはとても楽しみですね。ところで、聖夜祭の他にも、何か大きなお祭りはあるのですか。貴方の話を聞いていると、何だか興味がわいてきました」


 マキナは言動こそ落ち着いているが、好奇心で目を輝かせていた。それを見たジャックは、苦笑しながら夜空を見上げた。今夜はよく晴れている。星空がきれいだ。しかし、星々をじっと見つめているジャックの横顔に、どこか翳りがあった。


「ああ、あったよ。春華祭っていってな。毎年、春の初め頃に開催されていた祭りなんだがな。去年の春華祭の初日、ある出来事が起きたのがきっかけで、開催されなくなっちまった。それが、『凶兆の流星群』だ。その日を境に、色んなものが変わっちまったらしい」


 不吉な響きのある単語が、ジャックの口から出てきた時、オレの心臓がどきりと跳ね上がった。『凶兆の流星群』。初めて聞いた単語だ。横目でこっそりマキナの様子をうかがってみたが、彼女も初耳だったようで、不吉な予感に表情をこわばらせていた。


「知らないのも無理はねえ。この一件について触れるのは、ある種のタブーになっちまっているからな。とにかくその日から、触れた者を発狂させる虹色の欠片の発見、各地の魔物の凶暴化、そして、『流れ星の子』が出現するようになってからの治安悪化。悪いことばかり続いていやがる」


 タブー扱いしたくもなるよな。ジャックはあいかわらず苦笑したままそう言ったが、オレにしてみれば笑えない情報だった。『流れ星の子』が出現するようになったのとほぼ同時期に、それだけ悪いことが立て続けに起きれば、先に転生していた者達が、どんな感情を抱くかは容易に想像がつく。


『白銀の塔事件』とのつながりを隠すため、『流れ星の子』という身分を使っているマキナも、心中穏やかではいられない様子だった。ジャックも笑みを消し、真剣な表情で話を続ける。


「どうして嫌がらせをされなかったのか不思議だろ。簡単さ。人手不足でどこも余裕がないからだ。使える奴はとにかく使えってな。この前のベルンブルクの時みたいに、馬鹿なことをする連中もいるから、俺達『流れ星の子』はハイリスクな人材扱いだがな」


 真剣な表情は途中から自嘲の笑みに変わっていた。それを見てオレは気付いた。ジャックもまた『流れ星の子』なのだと。マキナも気付いたらしく、目を大きく見開いた。けれどもそれから誰も何も言えなくなって、結局、重苦しい空気のまま交代の時間を迎えてしまった。


次回は11月3日に公開予定です。

ツイッターもよろしくお願いします!

https://twitter.com/nakamurayuta26


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