第78話 事件終結
カネキの死体。破壊された石板。そして、姿を消した謎の人物。フロア全体が急展開の連続で騒然としていた。だが、おいうちをかけるかのように、床がかすかに揺れ始めた。不自然で、不穏さを感じさせる揺れだった。
フロアにいるほとんどの者が、この不自然な揺れに気付いたらしく、口を閉じて静まり返った。そして、大きな音を立てて壁に亀裂が走った瞬間、一斉に恐慌状態に陥り、誰もが我先にと、下への階段に殺到した。
崩れゆく塔の内部で、体力も魔力も尽きかけている中、転がり落ちるように階段を下りていく。『ガーディアン』の落下で崩落した橋も、ドワーフ達の突貫工事によって渡れるようになっていたため、塔からの脱出の支障にはならなかった。
脱出劇の開始からどれくらいの時間が経過したのか、極度の疲労と緊張で分からなくなっていたが、誰一人として取り残されることなく、オレ達は無事に塔から脱出することが出来た。そして、キャロラインと他数名が、塔の外に全員がいるか確認し終えた時だった。
塔の外壁に無数のひびが入り、ぼろぼろと崩れ落ちる。点滅していた光が次々と消えていく。塔全体がこちらに向かって、ゆっくりと傾いていく。迫りくる塔に押し潰されると、誰もが再び恐慌状態に陥った。
しかし、塔が誰かを押し潰すことも、都に損害を与えることもなかった。根元から折れるように倒れてきた塔は、空中で光に包まれて、光の粒子となって消えていく。あまりにも幻想的で異様な光景に、周りの誰もが呆然としていた。
だが、オレは違った。困惑に心をかき乱され、体が震えていた。オレは転生前に何度か、この光景と同じようなものを見たから、分かる。期間限定ダンジョンが期限を迎え、世界から消滅する時に起きる現象。それと全く同じなのだ。
光の粒子が絶え間なく降り注いでくる。まるで、オレ達とこの世界との別れを惜しむかのように、ゆっくりと。地面に落ちて雪のように溶けていく。やがて、塔の全てが光の粒子となって消滅し、塔内部での戦いで命を落とした者達の遺体だけが残された。
「どれほど輝かしいものだったとしても、過去の栄光は全て、まやかしなのよ」
いつの間にかオレのすぐ側まで来ていたキャロラインが、光の粒子の中で遠い空を見上げながらそう言った。彼女の目に、深い悲しみと苦悩を見た。彼女の言葉の真意を掴めずにいると、すすり泣く声が聞こえてきた。
ドワーフ騎士達が涙で頬をぬらしながら、散華した同胞達の亡骸を丁重に運んでいた。袂を分かち、罪を犯した。それでも、かつては志を同じくした仲間であったろう者達と、守るべき故郷で殺し合いになった時、どれほど辛かっただろうか。
暗く沈んだ気持ちで、亡骸が運ばれていくのを見ている最中、オレは意識がもうろうとしてきたのを感じた。体に力が入らなくなってきて、まぶたも段々と重くなっていく。オレはもう抵抗しようという気も起きず、そのまま、意識を暗闇の中へと投じた。
次回は9月22日に公開予定です。
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