第73話 支配者の鎖
最も恐れていた状況になってしまった。マキナの『永遠へ至る鍵』としての力が、カネキによって完全に利用される前にどうにかしよう。そう考えていたが、こうなってしまっては次の手を打つしかない。
「おやおや。ずいぶんとまあ、しつこい方ですねえ。まあ良いでしょう。ご覧の通り、今更貴方が何をしようと手遅れですから」
巨大な石板の近くにいるカネキが、マキナを拘束する鎖に触れた。すると、鎖が白く光り出して、マキナをより強く締め上げた。マキナがあまりの苦痛に悲鳴を上げる。それを見たカネキは口元に嗜虐的な笑みを浮かべた。
「この力をご覧になるのは初めてでしょう。私も転生する前までは知りもしませんでした。これは『テイミング』の派生スキルで、『支配者の鎖』というスキルでしてね。このスキルの効果なんですが――」
カネキは嬉々としてしゃべっていたのを、オレの顔を見ていったん中断した。オレは怒りと恐怖を同時に覚えた。何故なら、それだけ今のカネキの笑みは、醜悪で、そしておぞましいからだ。
「その反応を見るに、どうやら私の直感は正しかったようだ。――ヒロアキ、貴方は元プレイヤー。転生前の、この世界がまだゲームだった頃の記憶がある者。そうですね?」
カネキの言葉を聞いた瞬間、頭に雷が落ちたかのような衝撃と、吹雪の中にいるような寒気に襲われた。
カネキが『テイミング』を使った時点で、エマニエルが『テイミング』を知らなかったことも含め、カネキが元プレイヤーなのは推測出来ていた。若くして博識なエマニエルが知らないのなら、元NPCは『テイミング』を知らない可能性がある。仮にそうなら、『テイミング』を知っているのは元プレイヤーだけになる。
だから、カネキのことについてはそれほど驚きはしなかった。問題なのは、オレが元プレイヤーであることを、カネキはどこでどうやって知ったかだ。当然だがオレは今まで、自分が元プレイヤーであると周囲に知られないよう、自分の言動には細心の注意を払っていたつもりだ。
「どうして気付かれたのか分からない。そんな顔をしていますね。呆れたことだ。『ヒロイック・オンライン』を何百時間とプレイした私の前で、あれだけサポートプログラムを受けた戦い方をすれば、気付かれない方がおかしい」
オレをあざ笑うカネキの前で、オレはようやく自分の失策が何かを悟った。ようするに、スキルの力に頼りすぎていたのだ。スキルのことを熟知している元プレイヤーに、オレの正体が看破される可能性を考えずに、だ。
「ごほん。話を戻しましょう。『支配者の鎖』についてでしたね。このスキルの効果は至って単純で、信頼度が低くて言うことを聞かない仲間モンスターに、無理矢理言うことを聞かせる、というものです」
信頼度が低下するデメリット付きですがね。カネキがさらりとそうしめくくると、マキナを拘束する『支配者の鎖』に再び触れ、何か呪文のような言葉を呟いた。すると、鎖が放つ光はさらに強くなった。それを見たカネキは満足そうに頷くと、オレの方に振り向いて、両手を広げながらこう言った。
「やっと大人しくなってくれましたねえ。さきほどは暴走しそうになりましたが、これでこの子は、私の意のまま、です。途中でいくつかの想定外こそありましたが、私の計画はこれでほぼ完了しました。苦労しましたよ。先代首長をたぶらかすところから始まるこの計画は、実に大変でした」
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