第70話 覚悟
休息を挟んだおかげで体力と魔力は充実している。だが、これからの戦いのことを考えると、どうしても気が重くなる。敵は魔物ではなく、オレ達と同じ人族なのだ。
「降伏を呼びかけてはいたみたいだけど、『保守派』のドワーフ騎士達の、過去の栄光への執着心は想像以上だったみたい。ごめんなさい。もし辛かったら、店に戻って待機していても良いわ」
『白銀の塔』と名付けられた巨大な塔の前で、キャロラインは苦悩で顔を歪めながらそう言ったが、オレ達は誰一人として逃げようとはしなかった。もう、覚悟はできているのだ。
そして、『暁の至宝』はドワーフ騎士団、それから、ブルク・ダム遺跡で共闘した開拓者達の一部と共に、『白銀の塔』の内部へと足を踏み入れた。
塔の内部はふき抜けになっていて、天井は高すぎるからか全く見えない。さらに、壁に沿って螺旋階段が上に続いていて、いくつかの地点でそれは途切れているが、アーチ状の橋が反対側の、さらに上へと続いているそれへとつなげている。
「裏切り者はお前達の方だ。過去のことを恐れて、『永遠の炉火』の存在を隠ぺいし、ドワーフ族の繁栄を妨げているのだからな。犠牲など知ったことではない。我らドワーフ族の栄光こそが全てだ!」
『保守派』ドワーフ騎士のリーダー格の男が、つばを飛ばしながらそう言うと、ドワーフ騎士団の最後通告も虚しく戦闘が始まった。オレも内部構造の把握から戦闘へと意識を切り替えた。
二つの集団が真っ向からぶつかり合った。だが、こちらはあちらよりも倍以上の人数がいるので、『保守派』ドワーフ騎士側は徐々に包囲され、人数を減らされ、追い込まれていった。それでも、一人の隻眼の騎士が包囲を突破し、オレの方へと迫ってきた。
オレの背後には、魔法の詠唱に集中しているエマニエルがいる。このまま迎えうつしかない。そう判断したオレは、振り下ろされた斧の一撃を盾で受け止めた。一撃の重さに後退しそうになったが、新スキル『鉄壁の盾』を発動して踏み止まった。
しかし、隻眼の騎士は死に物狂いで、上に下に、右に左にと、立て続けに斧を振るった。『鉄壁の盾』の衝撃を緩和する効果をもってしても、重みのあるこの連撃はいつまでもしのげるものではない。
隻眼の騎士のたった一つだけ残された目には、決して揺らぐことのない覚悟が宿っている。ならば、こちらも改めて覚悟を決めなければならない。――すなわち、人を殺す覚悟を。
オレは姿勢を低くし、敵に対して頭を覆い隠すように盾を構え、そのまま強烈な体当たりをしかけた。体当たりをまともに受けた隻眼の騎士は斧を手放し、激しく仰向けに倒れた。
二つ目の新スキル『逆襲の盾』をくらって、無防備になった隻眼の騎士に、オレは盾を捨てて馬乗りになった。生き残るため、仲間を守るため、そしてマキナを助けるため、もう後戻りは出来ない。
オレは剣を持つ手を片手から両手に変え、隻眼の騎士の首を突き刺した。そして、返り血を浴びる中でオレは見た。隻眼の騎士の目から、夢が、希望が、未来が消えていくのを。この日この時この瞬間、オレは確かに、人を殺したのだ。
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