第68話 暴走
信じられない光景が目の前に広がっていた。手足を引きちぎり、装甲を剥がして内部を直接破壊し、頭部は目を握り潰した上で叩き潰す。赤いオーラを身にまとい、次から次へと機械兵を素手で破壊するその姿は、恐ろしさだけではなく、どこか神々しさすら感じさせた。
小柄で小枝のように細い手足からは想像出来ないほど、今のマキナは凄まじいパワーを発揮している。オレとエマニエルは、動揺している敵の隙をついてマリーナを助け出し、少し離れた場所からマキナと機械兵の戦いを見ていたのだが、介入する余地が全くなかった。
そして、機械兵が残り数体となったところで、マキナは残りの機械兵を無視して、何故か弓を捨てて無防備に立っているカネキに、赤い閃光となって急接近した。だが、カネキはそんなマキナを見ても怯えるどころか、むしろ邪悪な笑みを浮かべて両手を広げた。
「この時を、待っていたんですよお!」
狂喜するカネキの顔面にマキナの拳が迫った、その時だった。突然、光の檻のようなものが出現し、マキナがその中に閉じ込められたのだ。マキナは驚いてすぐに脱出しようとしたが、光の檻はびくともしなかった。
「何なの、あの魔法。あんな魔法、見たことも聞いたこともない!」
エマニエルが困惑の声を出した。だが、オレはあの光の檻のようなものの正体を知っている。問題はどうして今、彼女に対してあの力を使えているのかだ。
「素晴らしい、成功だ。これで『永遠の炉火』の力は私のものだ。さあ、マキナよ。私からの最初の命令です。『永遠の炉火』の力を、完全に開放しなさい!」
カネキが声高らかにそう命令すると、マキナは脱出しようとするのを止め、その代わりに小さな声でぶつぶつと何かを呟いた。すると、立っていられないほどの大きな揺れが、唐突にベルンブルク全体を襲った。
オレは驚いて必死に辺りを見渡して、そして気が付いた。ここからでも見えるほど高い煙突や建物が、回転している。そう、回転しているのだ。しかも、歯車のように連動して、回ったり止まったりしている。
ただただ呆然とベルンブルクの変貌を見ていたら、今度はベルンブルクの中心地に変化が起きた。揺れがより一層激しくなる。同時に、都のどの建造物よりも高い、それでいて都の雰囲気とは全く合っていない、近未来的な塔が中心地からせり上がってきたのだ。
「これでようやく、計画を最終段階まで進められます。ですが、その前に」
SF映画にでも出てきそうな、全面が金属板で覆われ、その隙間で無機質な光が点滅する巨大な塔。それを嬉々としてひとしきり眺めた後、カネキはマキナの方へと振り向いた。そして、奴は彼女に対して恐ろしい命令を下した。
「そこの小娘はもう必要ありません。他の奴ら諸共、始末しなさい」
カネキの命令にマキナは無言で頷いた。虚ろな目でマリーナに一歩、また一歩と、彼女は近付いていく。オレとエマニエルはマキナを止めようとしたが、人型に妨害され、むしろマリーナから引き離されてしまった。
そして、マキナはマリーナのすぐ目の前で立ち止まり、マリーナの細い首へと手を伸ばした。
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