第66話 炎上
狂乱渦巻くベルンブルクの大通りを、オレ達は南地区に向かって疾走している。先頭を走っているのはジャックで、一番後ろはオレだ。オレのすぐ前を走るエマニエルは、体力に不安がある自覚がありながら、それでも顔を真っ赤にして走っている。
あともう少しでグスタフの家というところで、三体の人型の機械兵が、目を赤く光らせてオレ達の前に立ち塞がった。右手に剣を持ち、左手には何も持っていない。ジャックが人型Aに対して、攻撃するふりをしてちょっかいをかけると、人型Aはつられてオレ達から少し離れた。
人型Bは前に出たオレとの距離を一息に詰め、人型Cはその場から動かず左の掌をこちらに向けた。人型Bの剣が振り下ろされ、オレは盾を突き出してそれを弾き返した。『ガーディアン』との戦いが今に活きている。この程度なら、数日前に習得した新スキルを使うまでもない。
オレは右ストレートと似た要領で、突き出した左の盾を引き、引いていた右の剣を突き出した。オレの剣は人型Bの胸部装甲を貫き、機能を停止させた。それを見た人型Cは、オレが一番の脅威だと判断したのか、左の掌をオレに向け、遠くから炎の弾丸を発射した。
オレはあえて避けようとせず、炎の弾丸を盾で受けながら接近し、人型Cの胸部へ『疾風突き』を発動した。人型Cはスキルが命中する寸前に、上半身だけ大きく左に傾けた。突きを外されてもすぐに片足で急ブレーキをかけつつ、そのまま強引に『旋風斬り』を発動した。
体が悲鳴を上げるのを無視して、オレはサポートプログラムの導きのままに、人型Cの首を切り落とした。人型Cの頭部は断面から火花を散らしながら、通りの曲がり角まで転がっていった。
すると、曲がり角の向こうから増援の人型が、人型Cの頭部を蹴飛ばしながら現れた。数は四体。しかし、その内の二体は次の瞬間、目を矢で射抜かれて機能を停止した。矢を放ったのはアンヌとキャロラインだった。
「ヒロアキ、エマニエルと一緒に、先にグスタフさんの家に行って。残りのこいつらは私達が何とかするから、ぐずぐずしていないで早く!」
アンヌは次の矢を放つ準備をしながら叫んだ。キャロラインはジャックと共に、残った三体の人型とすでに交戦している。オレはエマニエルを引っ張って、再びグスタフの家へと向かって走り出した。
いくつもの曲がり角を、荒れ狂う人の波や、暴走した機械兵を避けるように、曲がって、曲がって、そして辿り着いた。燃えていた。グスタフの家は割れた窓から、赤い炎と黒い煙を吐いていた。燃える家の前で血まみれのグスタフが、斧を手に暴走した機械兵と交戦していた。
彼の足元にはすでに、何体もの機械兵の残骸が転がっている。背後には怯えるマリーナを抱くマキナがいて、彼女はマリーナを守ろうと、近付いてくる機械兵から離れようとしているが、逃げ場はもう残りわずかしかない。
「おやおや、ずいぶんと粘りますねえ。さすがは、かつて最強のドワーフ騎士と言われていただけはある。もっとも、そんな貴方も老いにだけは勝てなかったようですが」
どこからかあざ笑うような声が聞こえてきた。オレは声の主を必死に探した。いた。複数の機械兵に自分を守らせながら、弓を手にしてニヤニヤ笑っている、スーツ姿の男がそうだ。カネキだ。そこにいたのはカネキだった。
次回は7月21日に公開予定です。
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