第65話 狼煙
ベルンブルクに滞在することになってから、今日でちょうど十日目になる。『暁の至宝』のメンバー全員で今、宿の一階で朝食をとっているのだが、雰囲気はあまりよろしくなかった。
アンカラッドから来た調査員とドワーフ騎士団による、連日の合同調査によっていくつかの事実が明らかになった。それらは、今後の人間とドワーフの関係に、大きな影響を与えるものだった。
まず、事件の始まりである機密漏洩についてだが、漏洩先が全て判明した。それと、漏洩先の人物がどのようなことをしたのかもだ。
漏洩先はアンカラッドの魔法使い。そして、ブルク・ダム遺跡を事前調査していた、ギルドの先行調査隊だった。虚偽の報告で遺跡の危険性は低いとギルドに思わせ、ベテラン開拓者の派遣を阻止した上で、魔法使いは遺跡の封印を解除する。封印を解除した後は遺跡を制圧し、犯罪グループで利益を独占する。
これが犯罪計画の全容なのだが、機密漏洩から遺跡の制圧までをも指示した、犯罪グループのボスの手がかりを、未だに誰もつかめていない。
「まだ尋問を受けている奴らも往生際が悪いよな。黙秘し続けていてもよ、いつかボスの手がかりは見つかるんだからよ」
「それだけボスが怖いんでしょうね。これだけ多方面に睨みがきくとなると、ボスがよほどの大物なのか、あるいは指示役が複数人いるのか」
朝食の味が分からなくなるほど空気がぴりぴりしている。空気の発生源はキャロラインとジャックだ。さっきからこの二人しか会話していないが、内容は一連の事件とマキナのことばかりだった。
それもそのはずだ。何故なら、情報収集と夜の見張りは全て、この二人がやっているからだ。残りの全員がやっていることといったら、昼から夕方までマキナと共に、マリーナの遊び相手をしているくらいだ。
マキナとマリーナの護衛も兼ねていること。グスタフから護衛の依頼料を受け取っていること。それらを知っていてもなお、手の届かない場所で状況が動いていることに、オレは無力感と疎外感を感じずにはいられなかった。そして、何よりもキャロラインとジャックに申し訳なかった。
今、空気がぴりぴりしているのは、二人に大きな負担がかかっているからだ。一連の事件の最新情報が、政治的理由で公にされていないにも関わらず、知ることが出来たのも二人のおかげだ。
強くなりたい。いや、それだけじゃ不十分だ。知識、技術、それに経験。開拓者として強くなって、もっとチームの力になるためには、身に付けないといけないものがまだまだたくさんある。そう考え込んでいると、突然、轟音が外から響いてきた。
弾かれたようにキャロラインが外へ飛び出した。残されたオレ達も急いで彼女の後に続いた。宿の外に出て真っ先に目に飛び込んできたのは、北地区からもうもうと上がる巨大な黒い煙だった。都に来てからあんな煙は見たことがない。明らかな異常事態に固まっていると、キャロラインが振り返ってこう叫んだ。
「犯罪グループの奴らが動いたわ。あれは陽動よ。真の狙いは南地区にいるマキナだわ。みんな、急いで準備をして。間違いなく戦闘になるから、その覚悟も!」
次回は7月14日に公開予定です。
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