第64話 孤独
グスタフの家から宿へと戻ったオレは自分の部屋で、久し振りにステータスウィンドウを見ながら熟考していた。ブルク・ダム遺跡での激戦を経て、レベルは十八になっていた。レベルが大幅に上がっているのを見た時、オレは『ガーディアン』との死闘を思い出して苦笑してしまった。
何はともあれ、これで新しいスキルを少なくとも三つは習得出来る。問題はどのスキルにするかだ。方向性は決まっているとはいえ、やり直しは不可なので、どうしても慎重になってしまう。オレは五つの系統に分かれたスキルツリーを全て凝視した。
主に後方から味方を回復したり強化したりする『支援』スキルだが、これは前衛のオレとは相性が良くないので却下。次に『特殊』スキルだが、これは武器や道具などを生産したり、あるいは特定の魔物を仲間に出来たりする、まさに特殊なスキルだ。しかし、今のオレにそんな余裕はないのでこれも却下。
あれこれ悩んでいる間に、時間だけが過ぎていく。このまま悩んでいても仕方がないので、もう深夜ではあるが、外の空気を吸って気分転換でもしようと、宿の一階まで下りた時だった。受付前のソファに座っているアンヌが、ただぼんやりと天井を見上げていた。
「あれ、ヒロアキじゃない。アンタも中々寝付けなくて、ここに来た感じみたいだね。もう短い付き合いでもないんだから、顔を見れば分かるよ。まあ、座りなよ。温かい飲み物を持ってくるから、おしゃべりでもしようじゃないか」
アンヌはそう言ってソファから立ち上がり、受付の方へと歩いていった。待っている間、オレは窓から外を眺めることにした。深夜の都は人通りが少なく、時々、巡回中のドワーフ騎士を見かけるくらいだった。昼間は騒々しい工場も今は静かで、まるで深い眠りについているようだ。
アンヌが受付係からホットミルクを受け取って、こぼさないようにゆっくり戻ってきてからは、オレと出会ってからの日々を一緒に振り返った。
浜辺で倒れているオレを見つけてびっくりしたこと。戦いの度に無茶なことをするオレを心配していたこと。そして、会話の内容は次第に、アンヌの過去へと移っていった。
「物心つく前にお母さんが病気で死んじゃって、男手一つで育ててくれたお父さんも戦いで命を落として、これからどうしようって時に声をかけてくれたのがキャロラインさんなんだ。だから私もさ、キャロラインさんみたいに強くなりたいんだ」
アンヌは憧憬で瞳を輝かせた。そこに、ジャックが欠伸をしながら外から宿に戻ってきた。相当疲れているのだろう。彼にしては珍しく、受付前に来るまで、ソファに座っているオレとアンヌに気が付かなかったようだ。こちらの存在に気付くなり、少し驚いた表情を見せた。
「おいおい。マキナを狙う奴が出てこないか夜の見張りをするのは、俺とキャロラインさんだけでいいから、お前らはしっかり夜は寝ておく、ってことになってただろうが」
「うるさいね。ちょっと前から色んなことがあり過ぎて、私もヒロアキも寝付きが悪いんだよ。――エマニエルはぐっすり寝ているけど」
アンヌとジャックが言い争うのを見て、ただ苦笑しながらオレは思った。オレもアンヌのように、いつか自分の過去を話せる日が来るのだろうか。何故か近くにいるアンヌが、どこまでも遠くにいるように感じた。
次回は7月7日に公開予定です。
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