第62話 マリーナ(3)
日が暮れてからオレ達はグスタフに招かれ、グスタフの家で夕食を共にすることになった。市場での買い物が終わった後、オレ達はすぐに宿に戻っていたのだが、そこにマキナとマリーナが訪れ、グスタフの伝言をオレ達に伝えたのだ。
「宿での夕食がまだで良かったわい。少しばかり夕食のおかずを作り過ぎてな。遠慮するな、しっかり食べていけ。開拓者は体が資本だからな。マキナ、夕食を運ぶのを手伝ってくれ」
グスタフの家に着くやいなやオレ達は、すぐに先日の会議で使った部屋に再び案内され、そのまま奥のキッチンへと向かったグスタフとマキナを待つことになった。オレは席に座って、全員の様子をのんびりと観察することにした。
アンヌとエマニエルは、マリーナと楽しそうにおもちゃで遊んでいる。おもちゃは今朝の市場での買い物で、マキナとマリーナが買っていた、あの赤茶色の小さな宝箱だ。グスタフによると、『賢者の箱』というおもちゃらしい。
次にジャックとキャロラインの方を見た。二人は情報収集から帰ってきても、二人だけで話をしてばかりだった。オレは二人の会話に入ろうかと考えたが、その前にグスタフとマキナが戻ってきたので、諦めて夕食にすることにした。
夕食のハンバーグを一口、ナイフとフォークで口に運ぶと、口の中で濃厚な肉汁の旨みが広がった。まさに至福の味だ。それにしても、宿の食事でもそうだったが、ドワーフ族の料理はとにかく、見た目も味付けも量も豪快だ。きっと、そういう食文化なのだろう。
夕食が終わるとすぐにグスタフは、ジャックとキャロラインを呼んで別の部屋へと入った。オレはマキナが一人で夕食の後片付けをしようとしているのを見て、彼女の手伝いをすることにした。
「お客様だというのに、申し訳ありません。とても手際が良いですね。開拓者の皆様はこういったことも得意なんですか?」
「ううん、人によるんじゃないかな。エマニエルとかはあまり本を片付けないせいで、アンヌとかによくしかられているし。それよりも、マキナが今の生活になじめているようで良かったよ」
転生前の社会人生活で培った家事スキルを活かし、後片付けをスムーズに進めている途中、マキナが頭を下げてきたので、オレは「気にしなくても良い」というポーズをとった。
「それはきっと、マリーナのおかげだと思います。旧ベルンブルクがまだ健在だった頃、『永遠の炉火』の起動と操作のために、使い捨てにされるのをただ待っていた私に、一人の幼い少女が話しかけてきたのです。『一緒に遊ぼう』、と。これは運命の悪戯なのでしょうか。その少女の名前も、マリーナでした」
マキナの言葉に驚いていると、彼女はどこか懐かしそうな目で、アンヌとエマニエルに遊び相手になってもらって、楽しそうにしているマリーナを見ていた。
「結局、その少女と遊んだのは一度だけでした。顔も声も今となってはおぼろげで、どんな遊びをしたのかさえもよく覚えていません。ですが、その少女からもらった『マキナ』という名前は、私にとってとても大切な宝物なんです」
大切な宝物、か。『暁の至宝』に正式加入した時に、キャロラインから言われた言葉を思い出した。まだオレは、あの時に言われた宝物を見つけられていない。
次回は6月23日に公開予定です。
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